もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

文字の大きさ
上 下
12 / 104
第2章

1

しおりを挟む
 夏休みの終わり、柚子は芽依と煌太に呼び出されていた。と言っても真ん中の煌太の家。
「お邪魔しますー」
 久しぶりに入る煌太の部屋は高校生の男の子の部屋といった感じに変貌していた。
「久しぶりだなぁ、煌太の部屋」
「ほんとだねぇー」
 芽依とふたり、小学生の時はよく煌太の部屋で遊んでいた。テレビゲームしたり、たまに宿題やったり。
「で、何なの?ふたり共」
 煌太の部屋にある本棚を見ながらふたりに言う。
 そしてふたりは柚子にこう言った。
「彼氏、出来ただろ?」
 と。


「え……っ」
 驚いて言葉に詰まる。
「それも年上!」
「車で出かけるところ、見られてるぞ」
「あ……、えっと……」
 どういえばいいのか迷った。
 まさかREIJIだとは言えない。いくらふたりでも言えない。
「どんな人なの!」
 とふたりな詰め寄られる。観念したような柚子はポツリポツリと話し出す。
「お兄ちゃんの……友達」
 これは間違ってない。湊の友人だ。
「え!」
「てことは3歳年上だ」
「大学生?」
「違う」
「専門学生?」
「働いてる」
 これも間違ってない。ロックバンドをやってるけど、それでお金貰って生活している。
「えー!社会人!」
 芽依は本当に嬉しそうに聞いてくる。それもそうだ。今まで柚子には彼氏なんていたことなかったのだから。
 だけど面白くないのは煌太だ。でもそれは顔に出さないようにしてる。
「どこで出会ったのよー」
 芽依は煌太の気持ちを知っていながらも柚子の初カレの話を聞くのが楽しいらしい。
 でも柚子はこれ以上話せなくて黙り込む。
(恥ずかしい……)
 恥ずかし過ぎてこれ以上は話すことは出来ない。それに話したらREIJIのことがバレてしまいそうだった。

「これ以上は聞かないで……」
 顔を真っ赤にした柚子が可愛くて芽依は思わず抱き締める。
「ごめん。もう聞かないよー」
「そいつになんかされたら言えよ」
 煌太はポツリと言った。
「なんかって何よー」
「お前は世間知らずだから」
 煌太はそう言うしか出来なかった。


「でも柚子にも彼氏できたのかぁ」
 煌太の部屋でだらけ始めた芽依。小学校一年生の頃から一緒に過ごしてきた3人だから、例え同じ部屋で寝てても気にしない。
 煌太だけは別だろうけど。
「芽依は?」
 芽依にも彼氏はいた……んだけど。
「とっくに別れたよ!」
 いつでも明るい芽依はそう言って笑う。
「また変なのに引っ掛かってたな」
 煌太はため息を吐く。この煌太はなぜかこのふたりのことを常に見守るポジションにいる。
「芽依。お前まともな男と付き合えよ!」
「なによ、付き合ってみなきゃまともかどうかなんて分からないじゃないの!」
「だけどなー、お前いつもそうやって続かないじゃんか!」
「仕方ないじゃないの!」
 ふたりのやり取りを見てまた始まったと呆れる柚子。このふたりはいつもこうして口喧嘩をする。
 まぁ、それは煌太が心配してるからなんだと思うけど。
 柚子とってこの3人でいる時間は大切だ。幼い頃からずっと一緒だった。いつまでもこの時間は続くといいなと思ってる。
 でも誰かに本気で好きな相手が出来てしまったら崩れてしまうだろうと、ずっと感じてきた。
 それが柚子のことかもしれない。自分のせいで崩れるのは嫌だと、崩したくないと考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

快楽のエチュード〜父娘〜

狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい…… 父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。 月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。 こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

(R18) 麗しの公爵様は戦姫をご所望です

青空一夏
恋愛
「麗しの公爵様」と名高い金髪サファイアブルーの美男子アルフォンソ・プレニー公爵と弓の名手の女らしくない戦姫のマリ・アントン伯爵令嬢の、相思相愛なのに、すれちがいな思いでなかなか進展しないじれったくも甘い恋物語。

処理中です...