8 / 104
第1章
7
しおりを挟む
零士の運転する車は都心をどんどん離れていく。その間零士は柚子に色んな話をしてくる。高校時代の話や小さな子供の頃の話に好きな音楽の話……。そのどれもが柚子にとってドキドキするものだった。隣にあのREIJIがいることも信じられない思いだったし、そのREIJIがごく普通の姿を見せてくれてることが嬉しかった。
「柚子ちゃんは何が好き?」
「え」
「好きなもの。柚子ちゃんのことが知りたいな」
零士の言動に戸惑う。知りたいなんて言われたらどう反応していいのか分からなくなる。
「あまり深く考え込まないでよ。ただ柚子ちゃんと仲良くなりたいんだよ」
困ったなぁという顔をしてる零士は真っ直ぐ前を向いて運転してる。
「ごめんなさい……。どうしたらいいのか分からなくて」
彼氏いたことない柚子が男の子と出掛けることなどなかった。ましてや、零士は大人の男の人。どうしたらいいのか何を話せばいいのか分からない。
遊びの誘いを了解したのは、兄である湊の友達だから。湊が信頼してる零士は柚子に対して何かしてくるとは思わなかったから。
「こういう風に出掛けるの初めてだったりする?」
「はい」
「今まで誰かと付き合ったことは?」
首を横に振る。
「こんなに可愛いのに」
可愛いと言われた柚子は顔が真っ赤だった。
「男共は見る目ないなぁ」
そんな風に言われるとは思わなかった。柚子は自分のことはごく普通の女の子だと思っている。男の子には恋愛対象にはならない女の子だと。
だけど零士は柚子を可愛いと言ってくれる。
(勘違いしてしまう……)
こんな風に可愛いと言われてしまえば、零士は自分のことを好きなのではと勘ぐってしまう。そんな自分が嫌で考えないようにしていた。
「さ、着いた」
零士が柚子を連れてきたのは都心から遠くもない海沿いの街。とても静かな海がそこには一面に広がっていた。
「キレイ……」
その海を見た柚子はそう呟いていた。
「だろ?子供の頃家族で来たことあるんだよ」
零士の子供の頃の話。出会ってまだ3回。話してくれることは子供の頃の話。高校生の頃の話。余程その頃が楽しかったのか、よく話してくれる。
「柚子ちゃんの家は家族とどこかへ出掛けたりした?」
「あ……。父が温泉好きなんでよく温泉に行ってました」
「温泉かぁ。いいね。今はそんな時間取れないけどなぁ」
今の零士はとても忙しいんだろう。今日のことだってせっかくの休みなのによく遊びに行こうと誘ってくれたなぁと思う。
「お仕事、忙しいんですか?」
隣に立って海を見てる零士にそう聞いてみた。零士は柚子の方を見て「敬語なし」と言う。
「仕事、休みなかなか取れないからいつも無理やり取るんだよねぇー。そうするとマネージャーやメンバーが焦る焦る」
ケタケタと思い出し笑いをする零士。そんな零士を心配そうに見る柚子。それに気付いた零士が「大丈夫だよ」と言う。
「心配することじゃないよ」
零士は煙草を咥えライターで火を付けた。
「息抜きしなきゃいい曲作れないから」
「零士さん……」
「今こうして柚子ちゃんといる時間も大切なんだよ」
笑った顔が眩しい。
眩しくて眩しくて、柚子には手の届かない筈なのに柚子の隣に立ってる。
「あの……、聞きたいことがあるんです」
勇気を出して柚子は零士を見る。
「私を誘ったのはなんで?」
「柚子ちゃんがいいからって言ったでしょ」
「はぐらかさないで……ください。ちゃんと聞いてるんです」
柚子を誘った理由を知りたいと、本人が願った。でも柚子はその答えを聞くのが怖かった。
もしどうでもいい理由だったら。
もし傷付くような理由だったら。
怖いと思いながら自分から聞いたから、ちゃんと答えを知りたいと思った。
そんな真剣な目をした柚子に負けてひとつ息を吐いた零士。よく見ると照れたような表情をしていた。
「柚子ちゃん……。俺と…、付き合わない?」
その言葉に目が大きく開く。
(何を言ったの?)
思考が追い付いていかない。
「俺の彼女にならないか」
もう一度そう言われてはっとする。
なぜそんなことになるのか。私はなんで私を誘ったのか聞いただけよと頭の中が混乱している柚子に、零士は続けて言う。
「初めて会った高校生の頃。会ったというか、すれ違ったというか……。学校帰りに湊の家行ってBRを作る話をした帰りに、君とすれ違ったんだ。その時の君がとても可愛くて、誰だろうって思ったら湊の家に入っていくから、あれが妹なんだって。で、また湊の家に行った時に湊のアルバム勝手に見て柚子ちゃんを探した。妹だって証拠が欲しかったから」
真っ赤な顔をした零士はそこまで一気に話すと被っていた帽子を脱ぐ。そして柚子に向き直り言った。
「あの時から君とすれ違うあの時間が、俺にとっては大事で……、何度も理由付けては湊の家行って君に会えないかと思って……、でも君はなかなか家にいなくて。名前もだいぶ後になって知った。それで、そのまま俺は高校卒業して、そのすぐ後にBRのデビューが決まって君に会えなくなった。それがまさかあの日あんな場所で会えるとは思ってなくて……。もう会えなくなるのが嫌で湊にあの日のことを話したんだ」
柚子をじっと見つめる零士を柚子は直視出来なかった。
「あの日、君が湊がいる場所へ行けたのは俺が湊にメッセージ入れて居場所を聞いてたから」
「え……」
そういえば湊が待ってる場所を柚子は言ってなかった。なのに辿り着けたのは零士が湊にメッセージを送っていたからだった。
「もう一度会えたことで、離したくないって思った。抱いた肩を離したくなかった。だから湊に会わせろって。湊のアパートで君と会えるようにしてくれと。君に会ってやっぱり君の隣にいたいった思った。卑怯なやり方だけど、湊のスマホを勝手に見て君にメッセージ送った」
そこから零士は何も発しなかった。柚子の反応をじっと待っている。
「零士さん……。でも、私の……私の、どこが……?」
絞り出すような声を出した柚子。それに対して零士は微かに笑った。
「人を好きになるのに理由はないだろ」
「柚子ちゃんは何が好き?」
「え」
「好きなもの。柚子ちゃんのことが知りたいな」
零士の言動に戸惑う。知りたいなんて言われたらどう反応していいのか分からなくなる。
「あまり深く考え込まないでよ。ただ柚子ちゃんと仲良くなりたいんだよ」
困ったなぁという顔をしてる零士は真っ直ぐ前を向いて運転してる。
「ごめんなさい……。どうしたらいいのか分からなくて」
彼氏いたことない柚子が男の子と出掛けることなどなかった。ましてや、零士は大人の男の人。どうしたらいいのか何を話せばいいのか分からない。
遊びの誘いを了解したのは、兄である湊の友達だから。湊が信頼してる零士は柚子に対して何かしてくるとは思わなかったから。
「こういう風に出掛けるの初めてだったりする?」
「はい」
「今まで誰かと付き合ったことは?」
首を横に振る。
「こんなに可愛いのに」
可愛いと言われた柚子は顔が真っ赤だった。
「男共は見る目ないなぁ」
そんな風に言われるとは思わなかった。柚子は自分のことはごく普通の女の子だと思っている。男の子には恋愛対象にはならない女の子だと。
だけど零士は柚子を可愛いと言ってくれる。
(勘違いしてしまう……)
こんな風に可愛いと言われてしまえば、零士は自分のことを好きなのではと勘ぐってしまう。そんな自分が嫌で考えないようにしていた。
「さ、着いた」
零士が柚子を連れてきたのは都心から遠くもない海沿いの街。とても静かな海がそこには一面に広がっていた。
「キレイ……」
その海を見た柚子はそう呟いていた。
「だろ?子供の頃家族で来たことあるんだよ」
零士の子供の頃の話。出会ってまだ3回。話してくれることは子供の頃の話。高校生の頃の話。余程その頃が楽しかったのか、よく話してくれる。
「柚子ちゃんの家は家族とどこかへ出掛けたりした?」
「あ……。父が温泉好きなんでよく温泉に行ってました」
「温泉かぁ。いいね。今はそんな時間取れないけどなぁ」
今の零士はとても忙しいんだろう。今日のことだってせっかくの休みなのによく遊びに行こうと誘ってくれたなぁと思う。
「お仕事、忙しいんですか?」
隣に立って海を見てる零士にそう聞いてみた。零士は柚子の方を見て「敬語なし」と言う。
「仕事、休みなかなか取れないからいつも無理やり取るんだよねぇー。そうするとマネージャーやメンバーが焦る焦る」
ケタケタと思い出し笑いをする零士。そんな零士を心配そうに見る柚子。それに気付いた零士が「大丈夫だよ」と言う。
「心配することじゃないよ」
零士は煙草を咥えライターで火を付けた。
「息抜きしなきゃいい曲作れないから」
「零士さん……」
「今こうして柚子ちゃんといる時間も大切なんだよ」
笑った顔が眩しい。
眩しくて眩しくて、柚子には手の届かない筈なのに柚子の隣に立ってる。
「あの……、聞きたいことがあるんです」
勇気を出して柚子は零士を見る。
「私を誘ったのはなんで?」
「柚子ちゃんがいいからって言ったでしょ」
「はぐらかさないで……ください。ちゃんと聞いてるんです」
柚子を誘った理由を知りたいと、本人が願った。でも柚子はその答えを聞くのが怖かった。
もしどうでもいい理由だったら。
もし傷付くような理由だったら。
怖いと思いながら自分から聞いたから、ちゃんと答えを知りたいと思った。
そんな真剣な目をした柚子に負けてひとつ息を吐いた零士。よく見ると照れたような表情をしていた。
「柚子ちゃん……。俺と…、付き合わない?」
その言葉に目が大きく開く。
(何を言ったの?)
思考が追い付いていかない。
「俺の彼女にならないか」
もう一度そう言われてはっとする。
なぜそんなことになるのか。私はなんで私を誘ったのか聞いただけよと頭の中が混乱している柚子に、零士は続けて言う。
「初めて会った高校生の頃。会ったというか、すれ違ったというか……。学校帰りに湊の家行ってBRを作る話をした帰りに、君とすれ違ったんだ。その時の君がとても可愛くて、誰だろうって思ったら湊の家に入っていくから、あれが妹なんだって。で、また湊の家に行った時に湊のアルバム勝手に見て柚子ちゃんを探した。妹だって証拠が欲しかったから」
真っ赤な顔をした零士はそこまで一気に話すと被っていた帽子を脱ぐ。そして柚子に向き直り言った。
「あの時から君とすれ違うあの時間が、俺にとっては大事で……、何度も理由付けては湊の家行って君に会えないかと思って……、でも君はなかなか家にいなくて。名前もだいぶ後になって知った。それで、そのまま俺は高校卒業して、そのすぐ後にBRのデビューが決まって君に会えなくなった。それがまさかあの日あんな場所で会えるとは思ってなくて……。もう会えなくなるのが嫌で湊にあの日のことを話したんだ」
柚子をじっと見つめる零士を柚子は直視出来なかった。
「あの日、君が湊がいる場所へ行けたのは俺が湊にメッセージ入れて居場所を聞いてたから」
「え……」
そういえば湊が待ってる場所を柚子は言ってなかった。なのに辿り着けたのは零士が湊にメッセージを送っていたからだった。
「もう一度会えたことで、離したくないって思った。抱いた肩を離したくなかった。だから湊に会わせろって。湊のアパートで君と会えるようにしてくれと。君に会ってやっぱり君の隣にいたいった思った。卑怯なやり方だけど、湊のスマホを勝手に見て君にメッセージ送った」
そこから零士は何も発しなかった。柚子の反応をじっと待っている。
「零士さん……。でも、私の……私の、どこが……?」
絞り出すような声を出した柚子。それに対して零士は微かに笑った。
「人を好きになるのに理由はないだろ」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
社内恋愛~○と□~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
一年越しの片想いが実り、俺は彼女と付き合い始めたのだけれど。
彼女はなぜか、付き合っていることを秘密にしたがる。
別に社内恋愛は禁止じゃないし、話していいと思うんだが。
それに最近、可愛くなった彼女を狙っている奴もいて苛つく。
そんな中、迎えた慰安旅行で……。
『○と□~丸課長と四角い私~』蔵田課長目線の続編!
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる