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秋晴れの日に

10 幸せになりたいだけ

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 目の前にいる彼女が、会議室の床に座り込んで泣いている。ギュッと手を握りしめて泣いている。
 そんな彼女が哀れに思えてしまった。

「……ただ、幸せになりたいだけなのに……」
 絞り出した声は、掠れていく。そんな彼女をただ見守ることしか出来なかった。


 彼女のことなんか、何も知らない。だけど目の前にいる彼女は、小さな子供のようだった。
「誰だってそうよ」
 私は彼女に言った。

 そう。誰だって幸せになりたい。だけど、彼女の幸せの掴み方は間違っている。
「だけどあなたは間違ってる」
 私はそう言うと、彼女を目一杯、見下した。

 私は誰かを見下すなんてことは、出来ない。今だって彼女より自分が優位に立ってるなんて、決して思わないもの。
 だけど今の彼女は……、今のままじゃ、彼女は決して幸せなんか掴み取れない。

「相手のことを思いやれない人は、幸せになんてなれないわよ」
 床にへたり込んでる彼女の後頭部を見て、私は続ける。
「私は彼の幸せの為に、彼と別れたの」
 そう。それが彼に取っていいことだと、思った。子供が出来たことに、彼は悩んでいた。だから私はそれを受け入れた。
 そうすることが、彼の幸せだと思っていたから。


 でも、違ったみたい。
 彼女を見てると、それは間違った判断だったのかもしれない。


 彼女を置いて、会議室を出る。そこには彼が立っていた。彼は黙って私を見ていた。

(なぜ、ここにいるの?)
 その言葉は飲み込んだ。それは言わなくても分かってる。
 同期が彼に話したのだろう。私が彼女のところへ行ったと。それを聞いて追いかけてきたのだろう。

「外回り、行かなくていいの?」
 彼にそう言った。そろそろ外回りに行かなくてはいけない時間だった。部署の予定にはそう書いてあったのだ。
「大丈夫だ」
 そう言う彼は、何か言いたげにこっちを見る。だが彼からは、言葉が出てこない。

「早く、外回り行きなよ」
 私は彼にそう言った。私から離れて、エレベーターの方へ向かって行く彼の後ろ姿は、なんだか寂しげに頼りない感じに見えた。

 あんなに頼もしかった彼が、今じゃ情けない人に見えてくる。自分の意思がはっきりしていて、誰もが頼りにしたくなる。
 優しいし、紳士的だし。
 女性から見たら、可愛らしいところもある。
 何より仕事は出来る。だからこそ、彼と結婚したら、幸せになれると思ったの。

 それも夢で終わった。
 私はもう、彼への気持ちはない……。
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