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「私が訊きたいのは一つよ。彼のスライムを買い取った者の、所在はどこかしら?」
 
 何言ってんだ?
 サーシャと詐欺師に繋がりなんて――いや、あるのか。
 よくよく考えてみると、ない方が不自然といってもいい。

「なんのことかしら?」

「別に話さなくても構わないわよ。その場合、アナタの首から上が飛ぶだけだから」

 こ、こええよ! どっちが悪なのか、もう分かんないんだけど。

「し、知らないことを話せるわけないじゃないの。大体、話したところで、殺すんでしょ?」

 それはもう、知ってると言ってるようなものの気もするが。

「それはないわ。アナタを殺したところで、大したメリットもないし」

 相変わらずの、口の悪さである。

「どうしてもというなら、契約魔法を使ってもいいわよ」

「契約魔法ですって」

「ええ。ただし、内容はこちらで指定させて貰うけれど。ああ、勿論、アナタに危害を加えるような内容にはしないから安心して」

「おいおい、大丈夫なのか?」

 俺はシアに耳打ちする。
 契約魔法ってのは一昔前だと日常的に使われていた魔法らしいが、悪用されたり、契約内容に穴があったりとトラブルが多く、最近だと禁止されている魔法だ。

「大丈夫よ。禁止されてるのは人間と人間の間だけで、魔族は対象外だもの」

 とまあ、このようにルールの穴を突くやつが、後を絶たない訳である。

「…………分かったわ。私もここで死ぬわけにはいからにもの」

「そう、なら交渉成立ね」

 案外、あっさり進むのな。
 もうちょっと、人間風情に、とか、魔族を舐めるな、とか、色々あると思ったんだけど。

「ロゼ、お願いね」

「はい、了解です」

 シアとサーシャの足下に小さな魔法陣が展開される。

「契約内容はこうよ。まず、スライムを買い取ったものの、居場所を教えること。そして、この街、ビギナーズタウンには入いらず、住民を襲わないこと。それが出来るなら、この場は見逃して上げる」

 へえ、俺の住んでる街ってビギナーズタウンって名前だったのな。初めて知ったわ。
 って、

「お前、それっていくらなんでも軽すぎないか?」

 二度と人を襲うなとかなら、まだ分かるが、何故かこの街に限定しちゃってるし。

「そうね。でもこのくらい軽くしておかないと、簡単には受け入れないでしょ?」

「そ、そそそうね。わ、わ、私にも魔族としての矜持というものが、ああ、あるもの!」

「めっちゃキョドってるじゃん! 絶対、もっと重い契約内容でも受け入れるつもりだったよ、こいつ!!」

 ここまで、分かりやすい動揺してるやつ見るの初めてだよ、俺。

「そんなことを議論している暇はないわ。それとも、アナタの大事なスライムを連れていかれてもいいの?」

「なんだって?」

「今なら十分間に合う可能性があるわ。さっき、隠そうとしたということは、私達の手が、まだ届く範囲にいるということでしょうから」

 こいつ、そこまで考えて。

「正解よ。というより、まだ街にいるでしょうね。最後の仕上げが残ってるんですもの。といっても、これは私にとってはオマケ程度のつもりだったのだけれど」

 サーシャは得意気に話す。

「どういうことかしら?」

「その説明は、契約内容に入ってないわよね。知りたければ、自分の眼で確かめなさい」

「ちょ、そこまで言って」

 ロゼッタが問い質そうとしたが、

「別に、いいわ。どうせ、街を滅ぼすとか、そんなところでしょ?」

「な、なんで知ってるのよ!?」

「そんなの魔族の目的を考えれば、直ぐに分かるじゃない」

「………………」

 その通り過ぎて、サーシャは黙るしかなかったらしい。

「でも、実際に滅ぼそうとしてるってんなら大問題だぞ!」

「そうね、急いで戻りましょ。ロゼ、契約の締結を」

「ちょっと、待ちなさい」

 契約魔法を完了させようとしたロゼをサーシャが止める。

「なんですか? ボク達を足止めしようというなら、そんな手が」

「違うわ、逆よ」

 逆?

「それは、つまり俺達にアドバイスでもあるってことか?」

「ええ、街にいる協力者の得意魔法を教えてあげる」

「は? なんでわざわざ?」

 このままいけば、大した痛手もなく契約を終わらせられたってのに。

「大したことじゃないわ。言ったでしょ、街にいるのは協力者、それはつまり仲間ではないということよ」

 意味が分からん。

「アナタを殺し、ついでにビギナーズタウンを滅ぼそうとしたのは私達の独断よ。つまり、アンタ達が私の協力者を倒してくれたら、私の失敗がバレることはないというわけ」

「随分、自分勝手な理由ね」

 まったくだ。
 こんな考え方をする奴がいるってだけで、純真な俺は恐ろしくなる。

「元々、気に入らない相手だったのよ。知ったこっちゃないわ」

「なら、さっさと協力者とやらの得意魔法を教えてください。勿論、この契約魔法に誓って」

「ええ、分かったわ」

 ロゼッタの問いかけに、サーシャは嫣然と微笑んで答えた。
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