26 / 28
25
しおりを挟む
「私が訊きたいのは一つよ。彼のスライムを買い取った者の、所在はどこかしら?」
何言ってんだ?
サーシャと詐欺師に繋がりなんて――いや、あるのか。
よくよく考えてみると、ない方が不自然といってもいい。
「なんのことかしら?」
「別に話さなくても構わないわよ。その場合、アナタの首から上が飛ぶだけだから」
こ、こええよ! どっちが悪なのか、もう分かんないんだけど。
「し、知らないことを話せるわけないじゃないの。大体、話したところで、殺すんでしょ?」
それはもう、知ってると言ってるようなものの気もするが。
「それはないわ。アナタを殺したところで、大したメリットもないし」
相変わらずの、口の悪さである。
「どうしてもというなら、契約魔法を使ってもいいわよ」
「契約魔法ですって」
「ええ。ただし、内容はこちらで指定させて貰うけれど。ああ、勿論、アナタに危害を加えるような内容にはしないから安心して」
「おいおい、大丈夫なのか?」
俺はシアに耳打ちする。
契約魔法ってのは一昔前だと日常的に使われていた魔法らしいが、悪用されたり、契約内容に穴があったりとトラブルが多く、最近だと禁止されている魔法だ。
「大丈夫よ。禁止されてるのは人間と人間の間だけで、魔族は対象外だもの」
とまあ、このようにルールの穴を突くやつが、後を絶たない訳である。
「…………分かったわ。私もここで死ぬわけにはいからにもの」
「そう、なら交渉成立ね」
案外、あっさり進むのな。
もうちょっと、人間風情に、とか、魔族を舐めるな、とか、色々あると思ったんだけど。
「ロゼ、お願いね」
「はい、了解です」
シアとサーシャの足下に小さな魔法陣が展開される。
「契約内容はこうよ。まず、スライムを買い取ったものの、居場所を教えること。そして、この街、ビギナーズタウンには入いらず、住民を襲わないこと。それが出来るなら、この場は見逃して上げる」
へえ、俺の住んでる街ってビギナーズタウンって名前だったのな。初めて知ったわ。
って、
「お前、それっていくらなんでも軽すぎないか?」
二度と人を襲うなとかなら、まだ分かるが、何故かこの街に限定しちゃってるし。
「そうね。でもこのくらい軽くしておかないと、簡単には受け入れないでしょ?」
「そ、そそそうね。わ、わ、私にも魔族としての矜持というものが、ああ、あるもの!」
「めっちゃキョドってるじゃん! 絶対、もっと重い契約内容でも受け入れるつもりだったよ、こいつ!!」
ここまで、分かりやすい動揺してるやつ見るの初めてだよ、俺。
「そんなことを議論している暇はないわ。それとも、アナタの大事なスライムを連れていかれてもいいの?」
「なんだって?」
「今なら十分間に合う可能性があるわ。さっき、隠そうとしたということは、私達の手が、まだ届く範囲にいるということでしょうから」
こいつ、そこまで考えて。
「正解よ。というより、まだ街にいるでしょうね。最後の仕上げが残ってるんですもの。といっても、これは私にとってはオマケ程度のつもりだったのだけれど」
サーシャは得意気に話す。
「どういうことかしら?」
「その説明は、契約内容に入ってないわよね。知りたければ、自分の眼で確かめなさい」
「ちょ、そこまで言って」
ロゼッタが問い質そうとしたが、
「別に、いいわ。どうせ、街を滅ぼすとか、そんなところでしょ?」
「な、なんで知ってるのよ!?」
「そんなの魔族の目的を考えれば、直ぐに分かるじゃない」
「………………」
その通り過ぎて、サーシャは黙るしかなかったらしい。
「でも、実際に滅ぼそうとしてるってんなら大問題だぞ!」
「そうね、急いで戻りましょ。ロゼ、契約の締結を」
「ちょっと、待ちなさい」
契約魔法を完了させようとしたロゼをサーシャが止める。
「なんですか? ボク達を足止めしようというなら、そんな手が」
「違うわ、逆よ」
逆?
「それは、つまり俺達にアドバイスでもあるってことか?」
「ええ、街にいる協力者の得意魔法を教えてあげる」
「は? なんでわざわざ?」
このままいけば、大した痛手もなく契約を終わらせられたってのに。
「大したことじゃないわ。言ったでしょ、街にいるのは協力者、それはつまり仲間ではないということよ」
意味が分からん。
「アナタを殺し、ついでにビギナーズタウンを滅ぼそうとしたのは私達の独断よ。つまり、アンタ達が私の協力者を倒してくれたら、私の失敗がバレることはないというわけ」
「随分、自分勝手な理由ね」
まったくだ。
こんな考え方をする奴がいるってだけで、純真な俺は恐ろしくなる。
「元々、気に入らない相手だったのよ。知ったこっちゃないわ」
「なら、さっさと協力者とやらの得意魔法を教えてください。勿論、この契約魔法に誓って」
「ええ、分かったわ」
ロゼッタの問いかけに、サーシャは嫣然と微笑んで答えた。
何言ってんだ?
サーシャと詐欺師に繋がりなんて――いや、あるのか。
よくよく考えてみると、ない方が不自然といってもいい。
「なんのことかしら?」
「別に話さなくても構わないわよ。その場合、アナタの首から上が飛ぶだけだから」
こ、こええよ! どっちが悪なのか、もう分かんないんだけど。
「し、知らないことを話せるわけないじゃないの。大体、話したところで、殺すんでしょ?」
それはもう、知ってると言ってるようなものの気もするが。
「それはないわ。アナタを殺したところで、大したメリットもないし」
相変わらずの、口の悪さである。
「どうしてもというなら、契約魔法を使ってもいいわよ」
「契約魔法ですって」
「ええ。ただし、内容はこちらで指定させて貰うけれど。ああ、勿論、アナタに危害を加えるような内容にはしないから安心して」
「おいおい、大丈夫なのか?」
俺はシアに耳打ちする。
契約魔法ってのは一昔前だと日常的に使われていた魔法らしいが、悪用されたり、契約内容に穴があったりとトラブルが多く、最近だと禁止されている魔法だ。
「大丈夫よ。禁止されてるのは人間と人間の間だけで、魔族は対象外だもの」
とまあ、このようにルールの穴を突くやつが、後を絶たない訳である。
「…………分かったわ。私もここで死ぬわけにはいからにもの」
「そう、なら交渉成立ね」
案外、あっさり進むのな。
もうちょっと、人間風情に、とか、魔族を舐めるな、とか、色々あると思ったんだけど。
「ロゼ、お願いね」
「はい、了解です」
シアとサーシャの足下に小さな魔法陣が展開される。
「契約内容はこうよ。まず、スライムを買い取ったものの、居場所を教えること。そして、この街、ビギナーズタウンには入いらず、住民を襲わないこと。それが出来るなら、この場は見逃して上げる」
へえ、俺の住んでる街ってビギナーズタウンって名前だったのな。初めて知ったわ。
って、
「お前、それっていくらなんでも軽すぎないか?」
二度と人を襲うなとかなら、まだ分かるが、何故かこの街に限定しちゃってるし。
「そうね。でもこのくらい軽くしておかないと、簡単には受け入れないでしょ?」
「そ、そそそうね。わ、わ、私にも魔族としての矜持というものが、ああ、あるもの!」
「めっちゃキョドってるじゃん! 絶対、もっと重い契約内容でも受け入れるつもりだったよ、こいつ!!」
ここまで、分かりやすい動揺してるやつ見るの初めてだよ、俺。
「そんなことを議論している暇はないわ。それとも、アナタの大事なスライムを連れていかれてもいいの?」
「なんだって?」
「今なら十分間に合う可能性があるわ。さっき、隠そうとしたということは、私達の手が、まだ届く範囲にいるということでしょうから」
こいつ、そこまで考えて。
「正解よ。というより、まだ街にいるでしょうね。最後の仕上げが残ってるんですもの。といっても、これは私にとってはオマケ程度のつもりだったのだけれど」
サーシャは得意気に話す。
「どういうことかしら?」
「その説明は、契約内容に入ってないわよね。知りたければ、自分の眼で確かめなさい」
「ちょ、そこまで言って」
ロゼッタが問い質そうとしたが、
「別に、いいわ。どうせ、街を滅ぼすとか、そんなところでしょ?」
「な、なんで知ってるのよ!?」
「そんなの魔族の目的を考えれば、直ぐに分かるじゃない」
「………………」
その通り過ぎて、サーシャは黙るしかなかったらしい。
「でも、実際に滅ぼそうとしてるってんなら大問題だぞ!」
「そうね、急いで戻りましょ。ロゼ、契約の締結を」
「ちょっと、待ちなさい」
契約魔法を完了させようとしたロゼをサーシャが止める。
「なんですか? ボク達を足止めしようというなら、そんな手が」
「違うわ、逆よ」
逆?
「それは、つまり俺達にアドバイスでもあるってことか?」
「ええ、街にいる協力者の得意魔法を教えてあげる」
「は? なんでわざわざ?」
このままいけば、大した痛手もなく契約を終わらせられたってのに。
「大したことじゃないわ。言ったでしょ、街にいるのは協力者、それはつまり仲間ではないということよ」
意味が分からん。
「アナタを殺し、ついでにビギナーズタウンを滅ぼそうとしたのは私達の独断よ。つまり、アンタ達が私の協力者を倒してくれたら、私の失敗がバレることはないというわけ」
「随分、自分勝手な理由ね」
まったくだ。
こんな考え方をする奴がいるってだけで、純真な俺は恐ろしくなる。
「元々、気に入らない相手だったのよ。知ったこっちゃないわ」
「なら、さっさと協力者とやらの得意魔法を教えてください。勿論、この契約魔法に誓って」
「ええ、分かったわ」
ロゼッタの問いかけに、サーシャは嫣然と微笑んで答えた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる