上 下
12 / 28

11

しおりを挟む
「どうよ、どうよ?」
 
 俺はギルドにて、新たな武器、新月をこれでもかと見せつける。
 こいつを見せた時の反応は主に二つだ。

「どうと言われても、なんで黒いんですか?」
 
 冷静すぎる奴と。

「ち、ちょっと触らせてくれ!」
 
 目を輝かせるほど、興奮する奴。

「ふ、ふん、なんだそりゃ。武器に色なんざついてても、なんの役にも立たねえっての」
 
 ああ、素直じゃない奴を合わせて、三つだったか。
 しかし、分かりやすいのは、男には受けが良く、女にはそうでもないということだ。
 まあ、男のロマンは女には分からないってことかな。

「おはようございます」

「うげっ」

「…………なんですか、その反応は?」
 
 ナナさんはジトっとした目で俺を見つめる。
 不味った。昨日のことで、変に動揺してしまった。
 けど、この時間に出勤してきたってことは、まさか、朝まで一緒だったとか? さ、流石にそれはないよな。

「い、いや~、朝からナナさんみたいな美女を間近で見て、ビックリしちゃってさ」

「そんな、お世辞が通用するとでも?」

「お、お世辞じゃないですって!」
 
 少なくとも、ナナんを可愛いと思ってることは嘘じゃない。驚いたのは別の理由だけどさ。

「まあ、いいです。でも、女の子の顔を見て、うげっ、とか言うのは最低の屑ですから、今後、気を付けて下さいね」
 
 ナナさんは問い詰めるのを諦めたのか、ただ面倒になったのか、それ以上の追求はしてこなかった。

「はい、猛省します」
 
 俺は素直に謝罪する。

「ああ、そう言えば、俺が見た化け物について、なんか進展ありました?」

「いいえ、まったく。現状では、ニトーさんが幻覚を見たんじゃないかという説が有力ですね。私の中では」

 酷い。

「ただ、念のためマスターには報告しておいたので、ご安心下さい」

「ん、了解です」
 
 けど、なんの情報も得られなかったとなると、俺の幻覚だったのだろうか。でも、アオも見たと言ってるし。
 探偵よろしく、顎に親指と人差し指を当て考えてみるが、当然、答えはでない。
 取りあえず、昨日のとこに行くのは避けるのが吉ってとこか。
 無暗に危険は冒さない。それが俺のモットーであることに変わりないんだからな。
 


「しっかし、今日で四日連続で勤労とは」
 
 ニートの誇りは何処へやったと言われてしまいそうである。
 勿論、俺にだってサボりたいという気持ちはあるんだ。けどな、毎日、母ちゃんが、わざわざ起こしに来るんだよ。包丁持ってさ。
 そりゃあ、もうどうしようもないだろ。
 せめて週休二日くらいは許して貰いたいけど、どうなることか。最悪、奴隷解放運動を起こさなければいけないかもしれない。…………俺一人でだけど。

「スラ!」

「お、見つけたか?」
 
 やはりアオは鼻が利く(実際に、鼻があるかは不明だが)。
 今日も採集の依頼を受けたわけだが、三十分足らずで、目標値に届きそうだ。これで、一万ギル貰えるってんだから、ほんとボロい商売である。
 いや、俺が同じ量、見つけようとしたら、かなり、苦労するわけだし、簡単な仕事というわけではないんだろう。
 だからこそ、この依頼には達成量だけではなく、最低採取量も定められているわけで……
 よし、今日はアオに、好きなもん食わせてやるとしよう。こんな金ず――じゃなくて、素晴らしい相棒に、見捨てられたら、大損だからな。ん? 大損という言い方も不味いか。気を付けよう。
 でも、待て。こうなると、もっと大量に採って帰るのも一つの手かもしれない。これだけ早く済むのだ。明日の分の仕事もやっとけば、明日はサボれる。素晴らしい、名案じゃないか。
 というわけで、

「アオ、もっと、もっとこの草を集めてくれ。そうすりゃ、今日は御馳走だぞ!」

「スラ!?」

「ああ、勿論、ホントだ」
 
 俺の言葉に、アオは今まで以上の速度で、草を見つけて行く。
 これはもう、

「笑うしかないな!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...