追い出された妹の幸せ

瀬織董李

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19.治った良かった

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「毒で無いことは保証します。臭いと味は……まあ、我慢して下さいとしか……でも飲めば良くなります! ……た、多分」

 ニルスはエルヴィとオリヴェルを交互に見やる。理由はわからないが、これを飲まなければいけない雰囲気だ。ままよ! とニルスは小さな小瓶の中身を煽った。

「ぐ……が……うぁ……!!」

「だ、大丈夫か!?」

「うぇ……ま、まず……ぃぃ」

「試行錯誤したんですけど、どうしても味と臭いはなんともならなかったんですよね。なのでこれは最終手段なんです」

 どろりとした粘度の高い液体が口の中に張り付き、得も言われぬその味にニルスは悶えた。苦くて甘ったるくて渋くて辛いのだ。

「正直、なんでこの味になるのかもわからなくて……ただ薬草を色々煮詰めただけなんですけど」

「はぁっ!? 薬草!?」

 薬草は様々なポーションの原料としては極普通の材料だが、ポーションを作るには作成者の魔力とセンスが必要とされていた。ポーションの出来は何の薬草をどれだけ入れて、どんな風に回復魔法をかけるのかによって大きく効果が変わるのだ。

 エルヴィはマルククセラ家の誰にも理解して貰えなかったが、素晴らしいセンスの持ち主だった。エルヴィの作る回復薬は領内にしか卸していなかったが、ダールグレン産の物よりも効果が高いと評判であったのだ。

 そのエルヴィの取って置き。一体どんな効果があるというのか。暫くのたうち回っていたニルスであったが唾で口の中に残っていたものを嚥下したのだろう。深く大きく溜め息を一つ吐いた。

「うう……酷い目にあった。まだ口の中が変な感じだ」

「あ、そうだ。両手を合わせて器の様にしていただけませんか? お水で口をすすげば少しはましになると思いますので」

「え? こう、か?」

 ニルスが両手で作った椀に、エルヴィが水魔法を使うと、すぐに手の中は透明な水で一杯になった。ニルスが水を一口深み、後ろを向いて吐き捨てる。

「に、ニルス!? お前腕が……!!」

「え? あ!!」

 ポーションの味のせいで無意識だったのだろう。オリヴェルの叫びに、ニルスは初めて自分が手を普通に使っている事に気付いた。驚き、水がこぼれ落ちるのにも構わず、怪我をした箇所を動かす。曲げる。伸ばす。上げる。下げる。

「痛く……ない!?」

「どうやらポーションが効いたみたいですね。良かった良かった」
 
 骨が折れ、腱が千切れかけていた筈の腕が以前と同じ様に自由に動く。呆然と呟く彼を見て、エルヴィは心底ホッとしていた。治るかどうかは自分でもわからなかったからだ。

「馬鹿な!? ポーションであの怪我が治る訳がないぞ!? 一体その瓶には何が入っていたんだ!?」

 ポーションは比較的手軽に怪我を治す事が出来る為、一般的に良く出回っているが、重傷者には対応出来ない。重傷を治す事が出来るのはハイヒールを使える回復術師が作ったハイポーションだけであった。しかしエルヴィは初級のヒールしか使えなかった筈。しかもエルヴィの口振りでは自分が作った様な話ではなかったか。

 常識とは外れたその代物の効果に、オリヴェルは呆然とエルヴィを見つめた。
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