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6.予定をたててみた
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「……と、大見得はって出てきたのはいいけど、どうしようかしら」
とぼとぼと、屋敷の玄関から門までを歩く。町で怪我した人が居ればヒールをかけてお金を貰おう、などとアードルフと話した時は思っていたが、都合よくエルヴィが治せる程度の怪我人が居るとも思えないし、よく考えたら知らないから突然声をかけられて『ヒール要りませんか?』とか言われたら怪しさ満点だ。
マルククセラの屋敷は、領都からほんの少し離れた小高い場所にある。始祖の聖女が、自分が護るべき領民の姿を見下ろせる様にと、この場所に建てたらしい。
だが、少々町から離れている事が不便と思うらしく、普段子爵夫人とハンナマリは町の中に建てた別宅で生活しており、屋敷二軒分の維持費が負担になっていた。だがエルヴィは本宅裏に広がる森で自生している薬草や果物を町まで売りに行く事で、自分の為に使われるべき費用を自分で賄っていた。決して穀潰しなどではなかったのだ。
「やっぱり薬草を売るのが一番かなあ。何も持ち出すな、って言われたけど、どうせ森は今誰も管理してないし、根こそぎ採ってくつもりはないし」
森はマルククセラ家の敷地の一部だが、代々虫や獣の姿を嫌う女性が多く、ついには数代前に森との境に塀を建ててしまった為、森へ向かうには一旦門から外に出て、ぐるりと塀沿いに裏手へと行かなければならない。
確かに森の奥には普通の獣だけでなく、かつての魔物が使役していた『魔獣』と呼ばれる恐ろしい獣も未だに存在しているので、塀の存在は一定の防御効果もあるが、本来は定期的に討伐しなければならない。しかし、先代が費用をケチり、さらにテオドルは『魔獣などもうこの世には存在せん!』と強固に言い張り討伐を拒否したので、もう三十年は討伐隊が送り込まれていない。
エルヴィも獣なら森で何度か遭遇した事がある。魔獣はその獣より何倍も恐ろしいというのだ。仕方なくここ数年は定期的にエルヴィが魔除けのポーションを壁沿いに撒いていたのだが、大丈夫なのだろうか。
もう家の為に何かするつもりは無いと宣言した筈なのに、ついついあれこれと考えてしまう事に、エルヴィは内心苦笑する。
暇そうにしている門番の横を通り抜ける時、いつも侮蔑の視線を向けられていたが、もう今日で最後だと思うとなんだか楽しくなってくる。
「さよなら」
そう言うと、門番は驚いた様に目を見開いたので、ちょっと笑ってしまった。我に返った門番が赤い顔をして睨んでくるが、もう気になる事はない。
門を出て塀沿いを歩くと、自然と鼻歌が出た。出ていけと言われた時は酷くショックだったが、よく考えてみたら、こんな楽しい気分になったのは本当に久しぶりな気がする。アードルフ以外の誰にも認めて貰えてなかったし、アードルフもテオドル達や他の使用人の手前表立って庇う事はしなかった。それを責めるつもりは毛頭無いが、寂しかったのは確かだ。
捨てられたのではなく、捨てたのだ。初めてそう思えた。
とぼとぼと、屋敷の玄関から門までを歩く。町で怪我した人が居ればヒールをかけてお金を貰おう、などとアードルフと話した時は思っていたが、都合よくエルヴィが治せる程度の怪我人が居るとも思えないし、よく考えたら知らないから突然声をかけられて『ヒール要りませんか?』とか言われたら怪しさ満点だ。
マルククセラの屋敷は、領都からほんの少し離れた小高い場所にある。始祖の聖女が、自分が護るべき領民の姿を見下ろせる様にと、この場所に建てたらしい。
だが、少々町から離れている事が不便と思うらしく、普段子爵夫人とハンナマリは町の中に建てた別宅で生活しており、屋敷二軒分の維持費が負担になっていた。だがエルヴィは本宅裏に広がる森で自生している薬草や果物を町まで売りに行く事で、自分の為に使われるべき費用を自分で賄っていた。決して穀潰しなどではなかったのだ。
「やっぱり薬草を売るのが一番かなあ。何も持ち出すな、って言われたけど、どうせ森は今誰も管理してないし、根こそぎ採ってくつもりはないし」
森はマルククセラ家の敷地の一部だが、代々虫や獣の姿を嫌う女性が多く、ついには数代前に森との境に塀を建ててしまった為、森へ向かうには一旦門から外に出て、ぐるりと塀沿いに裏手へと行かなければならない。
確かに森の奥には普通の獣だけでなく、かつての魔物が使役していた『魔獣』と呼ばれる恐ろしい獣も未だに存在しているので、塀の存在は一定の防御効果もあるが、本来は定期的に討伐しなければならない。しかし、先代が費用をケチり、さらにテオドルは『魔獣などもうこの世には存在せん!』と強固に言い張り討伐を拒否したので、もう三十年は討伐隊が送り込まれていない。
エルヴィも獣なら森で何度か遭遇した事がある。魔獣はその獣より何倍も恐ろしいというのだ。仕方なくここ数年は定期的にエルヴィが魔除けのポーションを壁沿いに撒いていたのだが、大丈夫なのだろうか。
もう家の為に何かするつもりは無いと宣言した筈なのに、ついついあれこれと考えてしまう事に、エルヴィは内心苦笑する。
暇そうにしている門番の横を通り抜ける時、いつも侮蔑の視線を向けられていたが、もう今日で最後だと思うとなんだか楽しくなってくる。
「さよなら」
そう言うと、門番は驚いた様に目を見開いたので、ちょっと笑ってしまった。我に返った門番が赤い顔をして睨んでくるが、もう気になる事はない。
門を出て塀沿いを歩くと、自然と鼻歌が出た。出ていけと言われた時は酷くショックだったが、よく考えてみたら、こんな楽しい気分になったのは本当に久しぶりな気がする。アードルフ以外の誰にも認めて貰えてなかったし、アードルフもテオドル達や他の使用人の手前表立って庇う事はしなかった。それを責めるつもりは毛頭無いが、寂しかったのは確かだ。
捨てられたのではなく、捨てたのだ。初めてそう思えた。
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