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4.出ていけと言われた
しおりを挟む「……は?」
ーーー家を、……出る……?
「なっ、どういう事ですかっ!?」
普段無表情なエルヴィの取り乱し様が可笑しかったのだろう。テオドルは喉の奥でククッと笑うとニヤニヤしながら続けた。
「ハンナマリが『エルヴィがアレクシスに色目を使ったら困る』と言うのだ。そもそも婿が来る以上、出来損ないのお前をこのまま置いておく訳にはいかんしな。この穀潰しが」
「そ、そんなことするわけありません!! それに……」
「これは決定事項だ」
「!!」
冷たく言い放つテオドルに、反論しかけたエルヴィの勢いが消えた。そうだ。幼い頃からずっとそうだった。エルヴィが何を言っても無駄なのだ。
以前はそれでも認めて貰おうとあれこれ必死になっていた事もあった。だが、何かにつけてハンナマリが優先だった為、家庭教師を付けて貰うことすら出来ず、勉強は全て独学だ。ポーション作りもだ。
そんなエルヴィの努力は、他ならぬ父によって『出来損ない』の一言で片付けられていた。故にいつしかエルヴィの中から『家族』というものは消えてしまっていた。それでも貴族家に生まれた者の義務として、領民の為と思いやってきた事が、全て水の泡になってしまった。
「……わかりました」
「わかったのなら今すぐ屋敷を出ていけ」
「は!? い、今すぐ……!?」
「家の物は何一つ持ち出すことを許さん。これからハンナマリの結婚に向けて何かと入用だ。今着ている服位は恵んでやるが、お前のドレスや貴金属は全て売り払う。いいな」
「!」
ーーこの男は…………!!
いくらなんでも酷い。父……いや、この男は何も知らないのだ。知ろうとしていなかったのだ。エルヴィが今どんな格好なのかすら気にしていないのだから。
もう何もこの家のためにする気になれない。これまでの努力が全て無駄になろうともうどうでも良かった。一気に頭が冷めるのを感じる。
軽く溜め息を吐き、言われた通り出ていく為にドアへ足を向ける。ドアを開け、部屋を出て閉める時ふと思い付き、テオドルへ別れの言葉を告げる為エルヴィは口を開いた。
「もし……」
「なんだ? 早く出て行かんか」
「もし、貴方が私に対してドレスや貴金属を与えた覚えがあるのなら、一度医者にかかった方が良いですよ。……では、長い間お世話になりました」
「なんだと?おい!?」
テオドルが呼び止めるがもう気にしない。エルヴィは今度こそドアを閉め、部屋を後にした。
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