精霊の守り子

瀬織董李

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某漫画に喧嘩を売ってる訳ではありませんw

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 勿論これらの話は直接見聞きした訳ではない。全て隣のルージェから聞いた顛末だ。歴史書にもある程度は載っているが、ざっと見たところほぼ教会の捏造でしかなかった。

 魔王討伐後、魔物は次第に数を減らし、ここ数年は出現が報告されていないそうだ。ルージェにしても魔物が何処からやって来たのかわからないらしい。もしかしたらこの点だけは神託とやらが正しかったのかもしれないが、今となってはどうでもいい事だ。




「馬鹿な!? お前の様な能無しが勇者の子である筈などない!!」

 名に聞き覚えがなくとも流石に『勇者』くらいは知っていた様だ。ヴィットルが睨みながら声を張り上げるが、事実を覆す事は出来ない。

「私の母アデリーナがバージル伯爵との婚姻前、フォスキーア子爵家次男ヴェントと婚約関係であった事など調べればすぐわかる事ですのに。ねえ、バージル伯爵」

 私の問いかけにバージル伯爵は無言で睨み付けるだけだ。答えなければ認めたのと同じだろうに。

「だ、だが婚約していたからといって、お前が勇者の子だという証拠になどならんぞ!」

「普通ならそうですわね。ですが証明する方法はありますわ。ご覧になります?」

 あまりやりたくないが、どうせならもう全て曝け出しておきたい。私がそう言うと、馬鹿にしたように「出せるものなら出してみろ」と言われた。

「では、とくとご覧あれ」

 そう告げ、右手を握り心臓……左胸に当てる。

「『リベラツィオーネ解放』」

 その言葉がキーワードとなり私の胸から光が溢れ出す。ゆっくりと拳を握ったまま右腕を前に出せば、そこから少しずつ刀身が現れた。正直自分の胸から剣が生える様を見るのは、我ながら気持ちの良いものではないが。

 唖然とする周囲の視線の中光が収まると、私の手には刀身が明かりを反射して煌めく、抜き身の剣が握られていた。今は夜会の途中。当然私もドレス姿だ。そんな私が抜き身の剣を握っている様は、酷く非現実的だろう。なにせ武器の持ち込みは禁止されているのだから。これが誰にでも行えるのなら暗殺し放題になってしまうわね。

 手のひらを上にしながら魔力を集めると、キラキラとした光が何処からともなく集まって細長い形となり、光が消えた時には鞘となった。精霊の剣の鞘も、精霊の力で出来ているのだ。

 剣を鞘に仕舞う。流石に抜き身の剣を握ったままでは会話がしづらい。

「な、な、何だそれはっ!?」

「これですか? 見てわかりませんの? 剣ですわ」

「そ、そんな事はわかっている!! 一体何処から取り出したんだっ!?」 

 驚きに狼狽えるヴィットルに対し、ふふふと笑いながらからかう様に答えると、馬鹿にされたのがわかったのだろう。顔を赤らめいきり立った。

「この剣の名は『ブリランテ輝き』。精霊に祝福されし、『勇者』の剣。父のたったひとつの形見」

「な、何だと!?」

「まさか、本当に……勇者ヴェントの剣? 形見? ではもしかして、彼は……?」

「……ヴェント・フォスキーアは既にこの世の者ではありません。彼は……殺されたのですわ。『神の使徒』共に、ね」

「!!」

 そう。歴史書に正しく書かれていない理由。それは魔王との戦いの末討ち果たし精根尽きたヴェントを、事もあろうに神徒共は彼を騙し討ちしたのだ。

 驚く王太子。どうやら本当に知らなかった様だ。この件は教会の独断で王家は関わっていないのだろうか。まあ、王が知っていても、王子に教えていない事はあるかもしれない。なにせ十五年も前の話だ。

「だ、だが勇者が残したという剣は大神殿にあるが?」

 神徒共は、ヴェントを殺害した後剣を奪い去るつもりだった様だ。だが出来なかった。

 教会側の用意したシナリオはこうだ。

『決戦の中、後一歩のところまで追い詰められた魔王が、最早これまでとばかりに異界へと逃げようとしたため、最後の力を振り絞った勇者ヴェント魔王へと追い縋りながら剣を神徒へと投げ渡し言った。『魔王は俺が抑え込む! だが俺が力尽きいつの日かまた魔王がこの国に現れるかもしれない。その時までこの剣を次の勇者の為に大切に守ってくれ』、と。その瞬間魔王と勇者ヴェントの姿が消えた』

 そうして残された剣を大神殿で飾り、勇者ヴェントを讃える信徒から御布施を巻き上げる為に利用しようとしたのだ。色々と設定に無理があるが、どうやら本気で罷り通ると思っていたらしい。

 しかし、ヴェントを殺した後剣は消えた。当然だ。この剣は精霊の剣。魔王の消滅を確認したルージェが回収したのだ。

「本物がここにある以上、偽物でしょうね」

 おそらく無理矢理シナリオ通りにする為に、偽物を用意したのだろう。教会には近付きたくなかったので、自分では見たことが無いが。

にわかには信じがたいが……。しかし、何故神の使徒は勇者を? それに例え娘だとしても何故貴女がその剣を持っているのだ。……わからない事ばかりだ」

「ふふふ。『真実』とは単に大多数が『こう・・である』と信じた社会通念。故に真実はいつもひとつし、常に正しいとは限らないのですわ」
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