同じ過ちは繰り返さない

瀬織董李

文字の大きさ
上 下
3 / 5

2.思わぬ登場

しおりを挟む
 まるで天王寺と初めて会った『あの日』の様だ。

 いつもの様に家を出て、いつもの様に電車に乗り、いつもの様に出勤した私を待ち受けていた、いつもと違う課内。

 『彼女』を見た瞬間、今度こそ心臓が止まるかと思った。あまりにも夢の中の自分にそっくりで。

鵜堂うどうかりんです! よろしくお願いします!!」

 新規のプロジェクト立ち上げのための人員不足を補うために急遽派遣してもらった臨時社員の挨拶。天王寺の隣で頭を下げる女の髪は流石にブロンドでは無かったが、やや薄い茶髪、瞳はカラコンなのか夢で見ていたのと同じ薄紫だった。御姉様方の厳しい視線が突き刺さっているが、図太いのか無神経なのか全く気にした様子もなくニコニコ笑っている。

 内心の動揺を押さえつつ成り行きを見守っていると、天王寺に呼ばれた。

「今藤。鵜堂の指導を頼む。暫く付いて仕事を教えてやってくれ」

「お言葉ですが課長。私は課長を補佐すべく在籍しております。その間の業務に差し障る仕事は控えたいのですが」

 正式な役職ではないが、私が総務から異動してきたのは、いずれこの社で要職に就く予定の天王寺を新人時代は指導、補佐するためだった。

 正直本音を言うならどちらにも関わりたくないが、どちらかをとるなら業務に差し障る方は拒否したい。私がそう告げると、天王寺はやや苦虫を噛み潰した様な表情になる。

「……業務命令だ。プロジェクトに少しでも関わる人員は割けない。今動かせるのは君しか居ない」

 私が抜ける事が不味いのか、私を彼女に付けるのが嫌なのか。内心で肩を竦める。面倒臭いことになりそうな予感しかしない。

「畏まりました。暫くとはどのくらいを?」

「暫くは暫くだ。ある程度仕事を覚えて周りのサポートが出来るようになるまででいい。あくまで臨時の派遣だからな」

「承知いたしました。……では鵜堂さんは私の席の隣に椅子を」

「えぇー? 私天王寺課長の近くがいいです」

 …………ナニイッテンノ、コノコ?

 いけない。つい、言語不良が。

「だって、今藤さんのお仕事は課長の補佐なんでしょ?だったら私が代わりに補佐します!!」

 …………いや、意味不明なんだけど。

「そういう事を希望するのはある程度仕事を覚えてからです。それともあなたは我が社で取り扱っている商品と、取引先を全て把握できているのですか?」

 勿論私も全て頭に入っている訳ではないが、主要な商品と大手は当然把握している。というか、出来るものなら今すぐに代わって欲しいけど。

「……課長、今藤さんの顔が怖いです」

 何一つ間違った事は言っていないつもりだが、彼女は天王寺の影に隠れてさらりと人を貶めた。今の私は漫画的な表現でいうならぴしり、とこめかみに怒りマークが浮かんでる状態だ。『こんなの』は絶対にカレンディラじゃない。さっきはあんなにパニック状態だったのに、今では他人の空似にしか見えなくなっている。未だに夢を見ては怯えている天王寺に対してとは大違いだ。

「今藤。鵜堂は臨時社員だ。多少の事は目を瞑ってやってくれ」

 いつか何処かで見たような彼の表情に、心の中でいろんな感情が渦巻く。

「目を瞑れ、とおっしゃると言うことは、今後は彼女が課長の補佐を行うという事でよろしいですね? では、私は総務へ戻るための異動願いを出させていただきます」

「なっ!? そういう事じゃないだろう!?」

「そういう事でなければどういう事で? 鵜堂さんの発言に目を瞑れとは鵜堂さんの発言を採用するという事でしょう?」

「!? ち、違う……そうじゃなくて……と、とりあえず鵜堂の事は任せたぞ」

「あっ!!天王寺課長~!!」

 ……面倒臭くなって逃げたな。そういえばハルト様も自分がしたくない事だったり、都合が悪いと思うような事があると、あんな感じで逃げ出してたっけ。

どちらにしろ、この先の事を考えると新たな憂鬱の種に気が滅入るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪
ファンタジー
 悪役令嬢を断罪し、運命の恋の相手に膝をついて愛を告げる麗しい王太子。 お約束の展開ですか? いえいえ、現実は甘くないのです。

楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉

ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。 生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。 ………の予定。 見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。 気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです) 気が向いた時に書きます。 語彙不足です。 たまに訳わかんないこと言い出すかもです。 こんなんでも許せる人向けです。 R15は保険です。 語彙力崩壊中です お手柔らかにお願いします。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

処理中です...