18 / 18
一年後-終幕-(王太子視点)
3
しおりを挟む
「そういえば、大公閣下はどうなさってますの?もうずっとお姿を見てませんけれど」
「ああ、叔父上か」
叔父はあのあと一応可愛がっていたアルフレードが子爵家へと追いやられるように婿に行かされたのがショックだったらしく、暫くは放心状態だったのだが、何故か突然アルフレードが産まれてから全く無関心だった夫人の存在を思いだしたらしく、離れへと向かった。しかし其処はもぬけの殻。何故ならこれ以上は王宮では世話を続けるのは難しく、実家に返すことも出来ない夫人を、父達は離宮へ住まわせることにしたからだ。王宮内をあちこち探し回ったらしいが、わかるはずもない。うちの優秀な使用人達は誰一人口を滑らす事はないからだ。
息子も妻も居なくなってしまった叔父は、今は覇気無く操り人形の様に大して重要でもない書類にサインするだけの日々を送っている。父はそんな叔父に対して、もう情のかけらも無いらしく、『逆に奮起して簒奪を企てるくらいの気概があったのなら、もう少し楽しめたんだがな』と言っていた。……私が王位を継承するのはまだまだ先のようだ。
「母が亡くなり、父が再婚し、アルフレード様と婚約させられた。もう私には何も残っていないと諦めそうになったこともありました。だけれど、クラウディオ様が居てくださったから乗り越えられましたのよ?ほとんど手紙だけのやり取りでも絆を感じられたお陰です。諦めなくて本当に良かった……」
ほう、と頬に手を当て微笑むカルラ。それを見た私の中の、何かが切れる音がした。
「……よし。今夜は一緒に寝よう」
「は?えっ!?あ、あの?」
一年近くお預けされた上に、ここ暫くは結婚式と式後のスケジュール調整でカルラとなかなか会えず、カルラ成分が不足している。どうせあと一月、そしてまだ一月だ。もし妊娠してしまったとしても一月先ならまだ腹は大きくならないから衣装に差し障りは無いし、まだ一月あるなら二、三日動けなくなっても構わない筈だ。
「いいえ、差し障りしかありませんね」
突然現れた宰相にガシッと肩を掴まれる。痛い。めちゃくちゃ痛い。
「あ、お義父様」
「可愛いカルラ。さあそろそろ帰ろうか。今日は皆で一緒に晩餐をしよう。フランカが待っているよ。エリオもジュストも喜ぶ」
厳つい顔でにこにこ笑うというのがこれ程恐ろしいとは思いもよらなかった。この男、文官の癖になんでこんなに力が強いんだ。その上夫人と孫息子達の名前を出されたら勝てないじゃないか。
「は、はいお義父様。でも、クラウディオ様は……?」
「ああ、大丈夫。殿下は今日は徹夜でなさるお仕事があるのだよ。お前が心配しなくても問題ないよ。殿下は非常に仕事熱心かつ要領が良いお方だからねえ。きっとそつなく明日の朝までには終わらせられるよ。そうですよねえ、殿下。頑張って仕事で発散させて下さい」
ああ、クソっ。わかったよ。愛妻家の宰相に見つかったのが運の尽きだったな。
……一月後が待ち遠しすぎる。宰相とカルラが立ち去った後テラスから見える空にボソリと呟いた私の心からの声は、控えの騎士や侍女にサラリと無視された。
-----------------
これにて完結です。ありがとうございました(ぺこり)
「ああ、叔父上か」
叔父はあのあと一応可愛がっていたアルフレードが子爵家へと追いやられるように婿に行かされたのがショックだったらしく、暫くは放心状態だったのだが、何故か突然アルフレードが産まれてから全く無関心だった夫人の存在を思いだしたらしく、離れへと向かった。しかし其処はもぬけの殻。何故ならこれ以上は王宮では世話を続けるのは難しく、実家に返すことも出来ない夫人を、父達は離宮へ住まわせることにしたからだ。王宮内をあちこち探し回ったらしいが、わかるはずもない。うちの優秀な使用人達は誰一人口を滑らす事はないからだ。
息子も妻も居なくなってしまった叔父は、今は覇気無く操り人形の様に大して重要でもない書類にサインするだけの日々を送っている。父はそんな叔父に対して、もう情のかけらも無いらしく、『逆に奮起して簒奪を企てるくらいの気概があったのなら、もう少し楽しめたんだがな』と言っていた。……私が王位を継承するのはまだまだ先のようだ。
「母が亡くなり、父が再婚し、アルフレード様と婚約させられた。もう私には何も残っていないと諦めそうになったこともありました。だけれど、クラウディオ様が居てくださったから乗り越えられましたのよ?ほとんど手紙だけのやり取りでも絆を感じられたお陰です。諦めなくて本当に良かった……」
ほう、と頬に手を当て微笑むカルラ。それを見た私の中の、何かが切れる音がした。
「……よし。今夜は一緒に寝よう」
「は?えっ!?あ、あの?」
一年近くお預けされた上に、ここ暫くは結婚式と式後のスケジュール調整でカルラとなかなか会えず、カルラ成分が不足している。どうせあと一月、そしてまだ一月だ。もし妊娠してしまったとしても一月先ならまだ腹は大きくならないから衣装に差し障りは無いし、まだ一月あるなら二、三日動けなくなっても構わない筈だ。
「いいえ、差し障りしかありませんね」
突然現れた宰相にガシッと肩を掴まれる。痛い。めちゃくちゃ痛い。
「あ、お義父様」
「可愛いカルラ。さあそろそろ帰ろうか。今日は皆で一緒に晩餐をしよう。フランカが待っているよ。エリオもジュストも喜ぶ」
厳つい顔でにこにこ笑うというのがこれ程恐ろしいとは思いもよらなかった。この男、文官の癖になんでこんなに力が強いんだ。その上夫人と孫息子達の名前を出されたら勝てないじゃないか。
「は、はいお義父様。でも、クラウディオ様は……?」
「ああ、大丈夫。殿下は今日は徹夜でなさるお仕事があるのだよ。お前が心配しなくても問題ないよ。殿下は非常に仕事熱心かつ要領が良いお方だからねえ。きっとそつなく明日の朝までには終わらせられるよ。そうですよねえ、殿下。頑張って仕事で発散させて下さい」
ああ、クソっ。わかったよ。愛妻家の宰相に見つかったのが運の尽きだったな。
……一月後が待ち遠しすぎる。宰相とカルラが立ち去った後テラスから見える空にボソリと呟いた私の心からの声は、控えの騎士や侍女にサラリと無視された。
-----------------
これにて完結です。ありがとうございました(ぺこり)
61
お気に入りに追加
3,197
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ
みやび
恋愛
ヤバいことをするのはそれなりの理由があるよねっていう話。
婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683
ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791
と何となく世界観が一緒です。
妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです
hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。
とっても短い婚約破棄
桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。
「そもそも婚約ってなんのこと?」
***タイトル通りとても短いです。
※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。
追い出された妹の幸せ
瀬織董李
恋愛
『聖女の再来』といわれる姉の影で虐げられてきた妹のエルヴィ。
少しでも家の為にとポーション作りに励んできたが、ある時ついに父から『姉が結婚するで出ていけ』と言われてしまう。
追い出された妹の幸せは何処にあるのか。
7/26 姉のスキルに関する記述を変更しました。ストーリーに変化はありません。
双子の妹が私になりすまし、王子と結ばれようとしています
しきど
恋愛
私達は、顔が同じ双子の聖女です。
ある日私は王子様から縁談を持ちかけられるのですが、それを妬んだ妹は私になりすます計画を立て、代わりに王子と結ばれようとします。
「残念でしたわね、お姉さま」
妹は笑います。けれども運命というものは、彼女に呆れるような罰を与えたのでした。
そうですか、私より妹の方を選ぶのですか。別に構いませんがその子、どうしようもない程の害悪ですよ?
亜綺羅もも
恋愛
マリア・アンフォールにはソフィア・アンフォールという妹がいた。
ソフィアは身勝手やりたい放題。
周囲の人たちは困り果てていた。
そんなある日、マリアは婚約者であるルーファウス・エルレガーダに呼び出され彼の元に向かうと、なんとソフィアがいた。
そして突然の婚約破棄を言い渡されるマリア。
ルーファウスはソフィアを選びマリアを捨てると言うのだ。
マリアがルーファウスと婚約破棄したと言う噂を聞きつけ、彼女の幼馴染であるロック・ヴァフリンがマリアの元に訪れる。
どうやら昔からずっとマリアのことが好きだったらしく、彼女に全力で求愛するロック。
一方その頃、ソフィアの本性を知ったルーファウス……
後悔し始めるが、時すでに遅し。
二人の転落人生が待っていたのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる