上 下
15 / 18
従兄弟(王太子視点)

5

しおりを挟む
「学園では、みな身分に関わらず一生徒という立場だった。しかし、今日卒業式を済ませた以上この場にいる全ての者は、身分に相応しい行いをしなければならない。オルシーネ伯爵令嬢ルーチェ。カルラは王太子たる私の婚約者であり、その上今は侯爵令嬢。私だけでなくカルラも貴様よりも身分は上だ。今の言葉、王太子の婚約者への侮辱、不敬とみなす。王家に楯突いた罪、身をもって贖え」

「そ、そんなっ!?ただ私は!!」

「誰が口を開いていいと言った。喚くな、と言った筈だ」

 再びルーチェ嬢を黙らせると、壇上の父を見る。父は静かに頷くと口を開いた。

「オルシーネ伯爵令嬢の王家への不敬を認め、オルシーネ家を降爵。子爵とする。並びにルーチェ嬢の婚約者たるアルフレード・エターリオは連座で降格、ルーチェ嬢との婚姻し、オルシーネ子爵家の婿養子となるように。これは王命である」

「「「はぁぁぁぁぁっっっ!?」」」

 アルフレードとルーチェ嬢、それにオルシーネ伯爵……おっとオルシーネ子爵か。三人が驚きに声を張り上げた。叔父は展開に付いていけず、呆然としている様だ。

 前々からアルフレードの今後には悩んでいた。婚約者たるカルラを冷遇し、堂々と不貞を犯したというだけならこれ程重い処分にはならなかっただろう。アルフレードは学園で身分を笠に着て下級貴族の子息達を小間使いの様に扱っているとの苦情が多発していたこともだが、なによりアルフレード…いや叔父は、アルフレードの地を這うような学園での成績を、ゴリ押しと賄賂で改竄させていたのだ。良識ある一部の教師の告発で内々に発覚したのだが、再び湧いてでた王家の不祥事に、父は頭を抱えていた。

 侯爵の地位を与える以上はそれなりの領地も必要だが、これまでのアルフレードを見る限りまともに領主の仕事が出来るとは思えない。これ以上監視のために優秀な人材を付けるわけにもいかない。監視だけですめばまだ良いが、アルフレードが取り返しの付かない何かをしでかしたら困る。

 となれば、侯爵より下の地位に降格し、出来れば国政に重要でない領地に封じるのが一番簡単だろう。おそらく婚約の事で、近々何かをやらかす事はわかっていたので、それに乗じて処罰してしまおうという計画だったのだ。流石にここまで綺麗に計画通りになるとは思いもよらなかったが。

 ちなみにオルシーネ家の領地は、先代の頃はそれなりに豊かであったが、現当主に代替わりしてからどんどん優秀な領民の流出があり、今は赤字に苦しんでいた筈だ。それなのにルーチェ嬢の我儘で借金もあると聞く。アルフレードを押し込めるには格好の地だろう。

「ぼ、僕はルーチェの婚約者じゃない!!子爵家なんて庶民に毛が生えた様な下級貴族に婿養子なんて冗談じゃない!!」

「おや?お前はルーチェ嬢と真実の愛で結ばれているんだろう?カルラを捨ててまで選んだんだ。婚約者になるのは当然だろう。良かったな真実の愛が実って」

「あ、従兄上あにうえの婚約者になるかもしれないと思ったから……そうじゃなきゃこんな我儘女っ!!」  

「なんですってっ!?こっちこそあんたみたいな出来損ない、あの女の婚約者じゃなきゃ誰が媚売ったりするもんですかっ!!」

「誰が出来損ないだっ!!この阿婆擦れ!!僕だけじゃなくて他の男にも擦り寄ってただろう!!」

 段々内輪揉めが白熱して煩いので、衛兵を呼び二人と呆然自失のオルシーネ子爵夫妻、それに我に返って騒がれたら面倒なのでついでに叔父を退出させる。扉が閉まる寸前まで喚き散らしていた声が聞こえなくなると、やっとホールに静けさが戻った。

「ここに集う卒業生とその親族の皆。式を混乱させて済まなかった。この後何もなかったように楽しめと言われても難しいだろう。後日改めて卒業パーティーを開き、そこで記念の品を贈らせてもらうので容赦願いたい」

 王直々の謝罪に意を唱えるものなど居ない。茶番から始まった波乱の卒業パーティーは、ひとまず幕を下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ

みやび
恋愛
ヤバいことをするのはそれなりの理由があるよねっていう話。 婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか? https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683 ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791 と何となく世界観が一緒です。

妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです

hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。

とっても短い婚約破棄

桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。 「そもそも婚約ってなんのこと?」 ***タイトル通りとても短いです。 ※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。

【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺
恋愛
子爵家の長男として生まれた主人公は幼い頃から家を出て、いずれ婿入りする男爵家で育てられた。婚約者とも穏やかで良好な関係を築いている。 それが綻んだのは学園へ入学して二年目のこと。  「婚約を破棄するわ」 ある日突然婚約者から婚約の解消を告げられる。婚約者の隣には別の男子生徒。 しかもすでに双方の親の間で話は済み婚約は解消されていると。 理解が追いつく前に婚約者は立ち去っていった。 一つ年下の婚約者とは学園に入学してから手紙のやり取りのみで、それでも休暇には帰って一緒に過ごした。 婚約者も入学してきた今年は去年の反省から友人付き合いを抑え自分を優先してほしいと言った婚約者と二人で過ごす時間を多く取るようにしていたのに。 それが段々減ってきたかと思えばそういうことかと乾いた笑いが落ちる。 恋のような熱烈な想いはなくとも、将来共に歩む相手、長い時間共に暮らした家族として大切に思っていたのに……。 そう思っていたのは自分だけで、『いらない』の一言で切り捨てられる存在だったのだ。  いずれ男爵家を継ぐからと男爵が学費を出して通わせてもらっていた学園。 来期からはそうでないと気づき青褪める。 婚約解消に伴う慰謝料で残り一年通えないか、両親に援助を得られないかと相談するが幼い頃から離れて育った主人公に家族は冷淡で――。 絶望する主人公を救ったのは学園で得た友人だった。   ◇◇ 幼い頃からの婚約者やその家から捨てられ、さらに実家の家族からも疎まれていたことを知り絶望する主人公が、友人やその家族に助けられて前に進んだり、贋金事件を追ったり可愛らしいヒロインとの切ない恋に身を焦がしたりするお話です。 基本は男性主人公の視点でお話が進みます。 ◇◇ 第16回恋愛小説大賞にエントリーしてました。 呼んでくださる方、応援してくださる方、感想なども皆様ありがとうございます。とても励まされます! 本編完結しました! 皆様のおかげです、ありがとうございます! ようやく番外編の更新をはじめました。お待たせしました! ◆番外編も更新終わりました、見てくださった皆様ありがとうございます!!

追い出された妹の幸せ

瀬織董李
恋愛
『聖女の再来』といわれる姉の影で虐げられてきた妹のエルヴィ。 少しでも家の為にとポーション作りに励んできたが、ある時ついに父から『姉が結婚するで出ていけ』と言われてしまう。 追い出された妹の幸せは何処にあるのか。 7/26 姉のスキルに関する記述を変更しました。ストーリーに変化はありません。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

処理中です...