10 / 18
兄弟(国王視点)
5
しおりを挟む
母は初め絶対に弟がそんなことをするわけがないと聞き入れなかった。仕方無しに取り揃えた証拠を突きつけると、今度は情に訴えてきた。それも最悪な形で。
母はいつもそうだったらしい。自分の意見が通らなさそうとみるや、周りの男性に情で訴えかけていたそうだ。それも出来るだけ大勢の人目のある場所で。か弱い表情で涙を浮かべれば大抵の男性は母を擁護する側に回ると知っていたのだろう。ほぼ全ての女性からは非難されていたらしいが。
だが、今回の騒動は他国に対する王家の醜聞。出来得る限りの内密かつ穏便に済ませたかった。なのにあの女……いや、母は茶会の席で滔々と弟の無実を訴えたらしい。そもそも茶会に参加していた貴族の殆どは、事件があったことすら知らないのに、だ。なんとか事情を知る家臣や侍従が慌てて誤魔化したが、普段から評判の悪い弟が何かをやったらしい、という噂は広まってしまった。
これ以上はもう我慢するべきではない。そう結論付けた私はひとつの決断を下した。それは王に譲位を迫ることだ。このままでは私が国を継ぐ前に地図から消えかねない。王に出した条件は、二つ。
ひとつは『王は原因不明の難病により退位。王太子フォルトゥナートを即位させる』こと。
もうひとつは、『王は退位後北の離宮で王妃と共に静養』すること。勿論それ以後の社交は禁止だ。多分ちやほやされるのが好きな王妃は反対するだろうが、これ以上掻き回してもらう訳にはいかない。勿論条件には記していないが、この後の王妃の態度如何によっては、離宮で流行り病が起こったり不幸な事故が起きたりするかもしれないが。
この二つを飲むならこちらは弟の罪を不問とし、私が即位した後も大公として城で面倒をみる。本来なら臣籍降下し公爵とするべきだが、目の届かない所に居られたらまた何をしでかすかわからないので苦渋の決断だ。要は母と弟という問題の発生源を分散させる事が最大の目的だ。弟一人なら王宮で不自由無く生活させればなんとかなるだろう。
随分渋られたが最終的に王は条件を飲んだ。このままだと『国を滅ぼした最後の愚王』として王国史に残るぞと脅したのが一番効いたらしい。王妃は優秀な婚約者を捨ててまで選んだものの、王妃としての公務にまるで興味後無かったらしく、既に周辺諸国からは密かに笑い者にされていた。王は最終的には愛する王妃よりも自分の面目をとった訳だ。
そして弟は最初癇癪が酷く、手がつけられなかった。なんといってもまだこの時十二歳。自分が何をしたのか理解していない。自分が悪いとは微塵も思っていないのだ。その上今まで何でも言うことを聞いてくれていた最大の味方である母が居なくなると聞いたのだ。
ただ、折れるのも早かった。世話をする使用人達が不憫だったし、もう面倒になったので宰相と相談し、牢に放り込ませたのだ。たった一日で根を上げた。まあ、貴人用の牢ではなく、一般の犯罪者を収容する牢だった所為ではあるのかもだが。母達と離れると了承しなければずっと不自由な暮らしになる事に気付いたのだろう。一応一週間もったらひとまず弟も一緒に離宮へ放り込もうかと思っていたのだが、こちらもあれ程慕っていた母よりも自分の自由を選んだ訳だ。
そういう意味では、母は誰とも薄っぺらい関係しか築けなかった哀れな存在なのかもしれない。
こうして、私が即位し、先代国王は離宮で蟄居、弟は王宮で監視付きでの生活となり、一応の決着をみせ、ようよう私も落ち着いて玉座に腰を据える事が出来た。
ただ、色々ありすぎて忘れていたのだ。人の性格はそう簡単には変わらない、ということを。
母はいつもそうだったらしい。自分の意見が通らなさそうとみるや、周りの男性に情で訴えかけていたそうだ。それも出来るだけ大勢の人目のある場所で。か弱い表情で涙を浮かべれば大抵の男性は母を擁護する側に回ると知っていたのだろう。ほぼ全ての女性からは非難されていたらしいが。
だが、今回の騒動は他国に対する王家の醜聞。出来得る限りの内密かつ穏便に済ませたかった。なのにあの女……いや、母は茶会の席で滔々と弟の無実を訴えたらしい。そもそも茶会に参加していた貴族の殆どは、事件があったことすら知らないのに、だ。なんとか事情を知る家臣や侍従が慌てて誤魔化したが、普段から評判の悪い弟が何かをやったらしい、という噂は広まってしまった。
これ以上はもう我慢するべきではない。そう結論付けた私はひとつの決断を下した。それは王に譲位を迫ることだ。このままでは私が国を継ぐ前に地図から消えかねない。王に出した条件は、二つ。
ひとつは『王は原因不明の難病により退位。王太子フォルトゥナートを即位させる』こと。
もうひとつは、『王は退位後北の離宮で王妃と共に静養』すること。勿論それ以後の社交は禁止だ。多分ちやほやされるのが好きな王妃は反対するだろうが、これ以上掻き回してもらう訳にはいかない。勿論条件には記していないが、この後の王妃の態度如何によっては、離宮で流行り病が起こったり不幸な事故が起きたりするかもしれないが。
この二つを飲むならこちらは弟の罪を不問とし、私が即位した後も大公として城で面倒をみる。本来なら臣籍降下し公爵とするべきだが、目の届かない所に居られたらまた何をしでかすかわからないので苦渋の決断だ。要は母と弟という問題の発生源を分散させる事が最大の目的だ。弟一人なら王宮で不自由無く生活させればなんとかなるだろう。
随分渋られたが最終的に王は条件を飲んだ。このままだと『国を滅ぼした最後の愚王』として王国史に残るぞと脅したのが一番効いたらしい。王妃は優秀な婚約者を捨ててまで選んだものの、王妃としての公務にまるで興味後無かったらしく、既に周辺諸国からは密かに笑い者にされていた。王は最終的には愛する王妃よりも自分の面目をとった訳だ。
そして弟は最初癇癪が酷く、手がつけられなかった。なんといってもまだこの時十二歳。自分が何をしたのか理解していない。自分が悪いとは微塵も思っていないのだ。その上今まで何でも言うことを聞いてくれていた最大の味方である母が居なくなると聞いたのだ。
ただ、折れるのも早かった。世話をする使用人達が不憫だったし、もう面倒になったので宰相と相談し、牢に放り込ませたのだ。たった一日で根を上げた。まあ、貴人用の牢ではなく、一般の犯罪者を収容する牢だった所為ではあるのかもだが。母達と離れると了承しなければずっと不自由な暮らしになる事に気付いたのだろう。一応一週間もったらひとまず弟も一緒に離宮へ放り込もうかと思っていたのだが、こちらもあれ程慕っていた母よりも自分の自由を選んだ訳だ。
そういう意味では、母は誰とも薄っぺらい関係しか築けなかった哀れな存在なのかもしれない。
こうして、私が即位し、先代国王は離宮で蟄居、弟は王宮で監視付きでの生活となり、一応の決着をみせ、ようよう私も落ち着いて玉座に腰を据える事が出来た。
ただ、色々ありすぎて忘れていたのだ。人の性格はそう簡単には変わらない、ということを。
51
お気に入りに追加
3,202
あなたにおすすめの小説
私たち、殿下との婚約をお断りさせていただきます!というかそもそも婚約は成立していません! ~二人の令嬢から捨てられた王子の断罪劇
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「私たち、ハリル王子殿下との婚約をお断りさせていただきます!」伯爵家の姉妹フローラとミルドレッドの声がきれいに重なった。王家主催の夜会で、なんとハリル王子に対し二人の姉妹が婚約破棄を申し出たのである。国王も列席する場で起きた前代未聞の事態に、会場はしんと静まり返る。不貞を働いたことを理由に婚約破棄を申し渡したはずのフローラと、心から愛し合っていたはずの新しい婚約相手ミルドレッドからの婚約破棄の申し出に、混乱するハリル王子。しかもそもそもフローラとの婚約は受理されていないと知らされ、ハリルは頭を抱える。そこにハリルの母親であるこの国の側妃アルビアが現れ、事態は運命の断罪劇へと進んでいく。
一風変わった婚約破棄からはじまる断罪ざまぁストーリーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨム等他サイトでも掲載中です。
隣国の王子に求愛されているところへ実妹と自称婚約者が現れて茶番が始まりました
歌龍吟伶
恋愛
伯爵令嬢リアラは、国王主催のパーティーに参加していた。
招かれていた隣国の王子に求愛され戸惑っていると、実妹と侯爵令息が純白の衣装に身を包み現れ「リアラ!お前との婚約を破棄してルリナと結婚する!」「残念でしたわねお姉様!」と言い出したのだ。
国王含めて唖然とする会場で始まった茶番劇。
「…ええと、貴方と婚約した覚えがないのですが?」
自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。
母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。
「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。
このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。
弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した――
全3話
そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?
ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。
「私は何もしておりません! 信じてください!」
婚約者を信じられなかった者の末路は……
悪役?令嬢の矜持
柚木ゆず
恋愛
「サラ・ローティシアル! 君との婚約は、この瞬間を以て破棄する!!」
ローティシアル伯爵令嬢のサラ。彼女の婚約者であるヘクターは心変わりをしており、今の想い人と交際を行うためサラの罪を捏造していました。
その結果サラは大勢の前で婚約破棄を宣言され、周囲からは白目で見られるようになってしまうのですが――。
「お待ちくださいまし。わたくし、今のお話は納得できませんわ」
そんな時でした。
サフェタンエス侯爵令嬢、アリーヌ。いつも激しくサラをライバル視をしていたはずの人が、二人の間に割って入ったのでした。
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私はあまり大切にされず育ってきたのですが……?
四季
恋愛
この国において非常に珍しいとされている銀髪を持って生まれた私、これまであまり大切にされず育ってきたのですが……?
婚約破棄とはどういうことでしょうか。
みさき
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」
それは、出来ません。だって私はあなたの婚約者ではありませんから。
そもそも、婚約破棄とはどういう事でしょうか。
※全三話
※小説家になろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる