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プロローグ
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東京の夜の街を一望できる20階建てのビルの草木に囲まれたビアガーデン。そこには若い男女のカップルや、6人以上の複数人で来ている客などでイタリアン料理やフランス料理を食しながら賑わっていた。
その中で夜景を眺めながら月下に晒されている20代後半の若い二人の男女がいた。
男性はネイビーのセットアップのスーツを身に纏い、ピンク色のネクタイをしたセンターパートの中肉中背の男だ。
一方、女性はハイトーンベージュのショートカットに、白のワンピースと赤のヒールという出で立ち。雪のような白い肌に童顔で可愛らしい華奢な女性だった。
「綺麗だね」
女性がそう呟く反面、男性は女性の横顔に見惚れていた。
「そうだな」
秋風が二人の間を通りすぎると、女性は耳元の髪をかきあげた。
男性の心臓は高鳴りを打ち、少し顔が紅潮したまま視線を光り輝く街に戻して、拳をぎゅっと握る。
「望ちゃんは酔った?」
「少しだけね。でも優司君がこのスポットに連れてきてくれたら、酔いは大分冷めているよ」
「ならよかった」
優司はふうと小さく息を吐き、望に体を向けた。
「今日はさ――聞いて欲しいことがあるんだ」
「なに?」
望は返事をすると優司の方に体を向ける。
「今まで色々な女性と交流したけどやっぱり君が一番だった。出会った七年前の学生時代から君にずっと恋をしていた――」
優司はすうと呼吸を整えて震える拳を止めた。
「俺と付き合ってください」
優司はそう言い切った。再度震える拳に紅潮した顔。今にも流れ落ちてきそうな汗。まるで酸素濃度が一気に減ったかのような息苦しさ――。
五秒ほどの沈黙。優司は望からの返答が長く感じた。ほんの僅か五秒ほどだったのに体感としてはその倍近くのような気がした。
そして、望が見せた表情は頬を伝う涙と悲しい表情だった。唇を噛み締めながらゆっくりと口を開いた。
「そう言ってくれるのは嬉しい。もう今日で三回目の告白だしね。学生の時に一回。社会人になってから一回。そして今日……。もっと可愛くて魅力的な女の子がたくさんいるのに、見向きもしない優司君は本当に私の事を大切に想ってくれているんだなって思う。私自身、これほど一途に思われたことなんてやっぱり無いしね。それこそ私なんか勿体ないくらい――」
望はすすり泣きをしてしまい、話を一旦中断してしまった。優司はこの時点で嗚咽をずっと堪えた。いつものパターンだと察知したからだ。
「でも、やっぱり駄目なの。私は優司君と違って、結婚願望もなければ、子供が欲しいとも思わない。優司君と私の価値観が合わない。例え付き合ったとしても何年後かに私から別れを切り出す未来しか見えない……」
「そうか有難う」
優司は力無くそう呟いた。
「ごめんね」
望は涙ながらに優司にそう訴えた。
「謝るなよ……」
優司の声色は震えていた。今にも溢れ出て来そうな涙をぐっと堪えて――。
「優司君とはもう会えない。今まで有難う。さようなら……」
望は涙をハンカチで拭ってからそう言って優司に前から、水晶のような大粒の涙と共に去って行った。
「待ってくれ!」
優司が絞り出した声――しかし、望は振り向くどころか足早になりビルの中に入っていった。ガラス張りで見える望の後姿は、もはや友達歴七年という親しい間柄から一気に他人になった気がした。
互いに何でも相談し合った。何も言わなくても、今何を求めているか分かるから、次に取るであろう行動を先取りして自然に気を配れていた。しかし残酷なのは結果的に親友止まりだった――。
「さようなら――」という言葉は望から聞く初めての台詞だった。その台詞が何を意味するか優司は解っていた。だからこそ、望を追いかけることは出来なかった。
ただ涙を流しながら呆然と立ち尽くす優司に集まる周りの視線――。
そして、一陣の秋風が優司の心をさらって行った――。
その中で夜景を眺めながら月下に晒されている20代後半の若い二人の男女がいた。
男性はネイビーのセットアップのスーツを身に纏い、ピンク色のネクタイをしたセンターパートの中肉中背の男だ。
一方、女性はハイトーンベージュのショートカットに、白のワンピースと赤のヒールという出で立ち。雪のような白い肌に童顔で可愛らしい華奢な女性だった。
「綺麗だね」
女性がそう呟く反面、男性は女性の横顔に見惚れていた。
「そうだな」
秋風が二人の間を通りすぎると、女性は耳元の髪をかきあげた。
男性の心臓は高鳴りを打ち、少し顔が紅潮したまま視線を光り輝く街に戻して、拳をぎゅっと握る。
「望ちゃんは酔った?」
「少しだけね。でも優司君がこのスポットに連れてきてくれたら、酔いは大分冷めているよ」
「ならよかった」
優司はふうと小さく息を吐き、望に体を向けた。
「今日はさ――聞いて欲しいことがあるんだ」
「なに?」
望は返事をすると優司の方に体を向ける。
「今まで色々な女性と交流したけどやっぱり君が一番だった。出会った七年前の学生時代から君にずっと恋をしていた――」
優司はすうと呼吸を整えて震える拳を止めた。
「俺と付き合ってください」
優司はそう言い切った。再度震える拳に紅潮した顔。今にも流れ落ちてきそうな汗。まるで酸素濃度が一気に減ったかのような息苦しさ――。
五秒ほどの沈黙。優司は望からの返答が長く感じた。ほんの僅か五秒ほどだったのに体感としてはその倍近くのような気がした。
そして、望が見せた表情は頬を伝う涙と悲しい表情だった。唇を噛み締めながらゆっくりと口を開いた。
「そう言ってくれるのは嬉しい。もう今日で三回目の告白だしね。学生の時に一回。社会人になってから一回。そして今日……。もっと可愛くて魅力的な女の子がたくさんいるのに、見向きもしない優司君は本当に私の事を大切に想ってくれているんだなって思う。私自身、これほど一途に思われたことなんてやっぱり無いしね。それこそ私なんか勿体ないくらい――」
望はすすり泣きをしてしまい、話を一旦中断してしまった。優司はこの時点で嗚咽をずっと堪えた。いつものパターンだと察知したからだ。
「でも、やっぱり駄目なの。私は優司君と違って、結婚願望もなければ、子供が欲しいとも思わない。優司君と私の価値観が合わない。例え付き合ったとしても何年後かに私から別れを切り出す未来しか見えない……」
「そうか有難う」
優司は力無くそう呟いた。
「ごめんね」
望は涙ながらに優司にそう訴えた。
「謝るなよ……」
優司の声色は震えていた。今にも溢れ出て来そうな涙をぐっと堪えて――。
「優司君とはもう会えない。今まで有難う。さようなら……」
望は涙をハンカチで拭ってからそう言って優司に前から、水晶のような大粒の涙と共に去って行った。
「待ってくれ!」
優司が絞り出した声――しかし、望は振り向くどころか足早になりビルの中に入っていった。ガラス張りで見える望の後姿は、もはや友達歴七年という親しい間柄から一気に他人になった気がした。
互いに何でも相談し合った。何も言わなくても、今何を求めているか分かるから、次に取るであろう行動を先取りして自然に気を配れていた。しかし残酷なのは結果的に親友止まりだった――。
「さようなら――」という言葉は望から聞く初めての台詞だった。その台詞が何を意味するか優司は解っていた。だからこそ、望を追いかけることは出来なかった。
ただ涙を流しながら呆然と立ち尽くす優司に集まる周りの視線――。
そして、一陣の秋風が優司の心をさらって行った――。
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