銃器使いの追放者

天樹 一翔

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オリュンポスからの客人Ⅱ

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 来客室に入ると、席に着いていたのは黒髪のオールバックに整えた顎髭を生やし、青い瞳と右目に縦の大きな傷跡が特徴的な190cmの巨漢の男だった。

「久しぶりだな。ガレス。五年ぶりか」

「久しぶりですね。パーシヴァル少将」

「少将じゃない。今は中将だよ」

 パーシヴァル中将はそう言って優しい笑みを浮かべた。

「これは失礼致しました。連絡は絶対にしないと思っていましたが、まさかオリュンポスの英雄が来るなんて」

「意外だったかい?」

「それは勿論。あ、どうぞ」

 俺はそう言ってパーシヴァル中将の手元に置かれているお茶を飲むように促した。

「ありがとう。頂くよ」

 パーシヴァル中将はそう言ってお茶を口へ運んだ。当然俺もお茶を飲む。

「どうだい? こっちでの生活は?」

「ぼちぼち楽しくやっていますよ」

「確かに執行官デリーターの頃と比べると大分顔色は良いみたいだ。ストラーフさんもそうだったけど、真面目で人命の重みを知っている人間が執行官デリーターなるからね」

「あとは孤児の人ですね」

「そうだね。今は君の後釜で18歳の若い子がいるんだけど、その子もなかなか優秀でね。君のような人間になりたいと常に言っているよ」

「へえ変わった後釜ですね」

「そうでもないさ。今の中佐以下のオリュンポス十二武ドゥオデキムは皆君の事を今でも慕っているし、戻ってきてほしいと言っている人間もいるくらいだ」

「俺は自分の親を殺した人殺しですよ」

「君はそう思っているかもしれないが、皆は君の事を信じているんだよ。あれだけジェームズ元帥を慕っていた君がなぜ殺したのか? それにはきっと裏がある――と。一番考えられるのは機密事項トップ・シークレット執行デリート任務だったんじゃないか? という噂も出ているくらいだからね」

 ――当たっているんだけど。パーシヴァル中将も俺がジェームズ親父を殺した任務は知らない筈なんだけどな。やっぱり嘘は突き通せないか――。

「それは光栄な事ですけど、今はもう人殺さず平和を守っていますよ」

「そうだな。ランスロット司令官は元気にしているのか?」

所長兄貴なら元気ですよ。レイアさんと結婚したし、美味しいものいっぱい食べて少し筋力が落ちたくらいには」

「平和ボケってやつかな? それでも強いには変わりないんだろ?」

「あの人化物なんで日々強くなっていますね」

 俺がそう言うとパーシヴァル中将は「それは大変だな」と苦笑を浮かべていた。

「ところで雑談をしに来た訳では無いんですよね?」

「ああ。勿論だ。俺がここに来たのは先程ガレスが戦ったマンバという男についてだ」

「――何でそれを知っているんですか!?」

 いくらなんでも情報が早すぎる。それにオリュンポスの本部はノルディックから3,000km離れた国だ。飛行機で来ても夕方くらいになるぞ!?

「相当驚いているね。俺はたまたまこの国にいただけだ。あるテロ組織を追っていてね」

「テロ組織?」

「ああ。これを見たまえ」

 パーシヴァル中将はそう言ってスマートデバイスを取り出した。そしてボタンを押すと、何やら廃墟に潜入したオリュンポスの隊員十名が、ターバンを巻いた男達に銃で殺されていくホログラムが映し出された。

「オリュンポスに喧嘩を売る組織って相当いかれていますね」

「そうだろ? これが我々が追っているテロ組織だ。何やら世界政府に反対している集団らしい」

 パーシヴァル中将はそう言って俺を真っすぐな瞳で見てきた。世界政府に反対している集団――。

「まさか!」

「そのまさかだ。実は君が今朝倒した集団はその組織に協力している世界政府反対運動の組織だった。そして君と戦った男。マンバと呼ばれている男は我々が追っている組織の幹部だ」

「成程。で? その組織の名前は何て言うんですか?」

「エレウテリアという組織だ。世界政府からの支配を取り払い、新しい自由な世界を築き上げる事が目的らしい」

「――それ、俺が15歳の時に似たような事を言っている奴がいましたね。それに忘れもしない。俺の友、ユーダを殺した張本人」

 そうだ。エリーを救ったフェロー村での事件。ヘラクレス・ヴァイナーという男が、俺の孤児院からの友人であり、家族のような存在だったオリュンポス時代の同僚を殺したんだ。。

「そうだ。その男がまだ生きていた。そして我々が掴んでいる情報ではこのヘラクレス・ヴァイナーがエレウテリアのリーダーだ」

 パーシヴァル中将にそう言って見せられたヘラクレス・ヴァイナーのホログラム。忘れもしないこの顔。茶色の髪をオールバックにした青色の半透明のレンズをしたサングラスをかけており、黒のインナーに黒のカジュアルジャケットを着ている中年の男だ。一見はミュージシャンか何かのように見えるこの男は、昔の俺と同じ殺人鬼だ。しかし奴は――。

「ストラーフさんが殺した筈では?」

「それが生きていたようだ。ストラーフさんに事情を聴きたいのだが連絡手段が無くてね」

「退役して今は隠居生活していますもんね。まあ、隠居と言ってもまだ40歳ですけど」

「そうだな。まあそういう事情があってエレウテリアのリーダーがヘラクレス・ヴァイナーでは一筋縄ではいかない。奴は知っている通り、オリュンポスの大将クラスの実力を持つ。幹部もまだマンバしか分かっていない中、オリュンポスだけでは力不足になる可能性がある。そこで君達にも手を貸してほしいんだ。勿論報酬は弾む。我々が追っているという事は世界政府が危険視をしているという事だしね」

 確かにヘラクレス・ヴァイナーを俺は許すことはできない。この手で殺せるなら殺したい。しかしだ。仮にストラーフさんに殺されたと思う程の瀕死の状態だったのに、今こうしてあの時のように世界政府に対して喧嘩を売っている。そこまでする奴の原動力は一体何なんだ?

 俺はいつもの悪い癖が出てしまった。

「ヘラクレス・ヴァイナーは確かに危険ですし、このままだと今日のように罪の無い人々が次々と被害を受けます。執行デリート対象なのは間違いありません。しかし俺は引っかかるんです」

「何が引っかかるんだい?」

 パーシヴァル中将はそう言って首を傾げた。

「また復活して世界政府の転覆を目論む動機は何なんでしょうか? 何故奴はそこまでして動き続けられるんですか? 何故世界政府をそこまで目の敵にするんですか?」

 俺がそう言うとパーシヴァル中将は眉間に皺を寄せていた。

 だってそうじゃないか。俺が執行デリートしたジェームズ親父もそうだ。元老院の立場だった人間が何故政府の機密文書を盗んだんだ? 元老院の人間でさえ盗んだ扱いになり執行デリート対象になるその機密文書の中身は何なんだ?

 ジェームズ親父もヘラクレス・ヴァイナーも、何を考えていたんだ? 


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