銃器使いの追放者

天樹 一翔

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追放

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「被告人はグレゴリオ暦686年12月25日午前0時頃。ジェームズ・オスカー氏を銃で頭に一発放ち殺害――」

 俺は自分の育て親を殺した。親がいなかった俺は孤児院で育てられた。そして、俺の愛銃エルピーダを託してくれたユーダと共にジェームズは育ててくれ、様々な教養と少しばかりの戦闘訓練をつけてくれた。だから俺は、親は誰? と聞かれたら真っ先にジェームズの名前を出す。だからこそ、ジェームズを抹殺して本当に良かったのだろうか? という疑問が晴れない。

 ジェームズが世界政府の元老院だった身分もあり、傍聴席には世界政府の人間と、世界政府でもトップクラスの権力を持つ元老院の人間。そして、オリュンポスの最高責任者でアーサーの肩書きがあった為、オリュンポスのマスターズ達の面々もいた。中には俺の事を揶揄する者もいたし、俺がジェームズを殺した事を「何かの嘘だ!」と反対してくれる者もいた。

 これらは全て俺が起こした殺人事件で片付いており、オリュンポスでもこの任務を知っている人間はごくわずか。そう――俺はただの殺人鬼だ。今まで何人も殺してきた贖罪しょくざいと言われれば納得ができる。

 俺は裁判官から事件に関する質問をされて全て首を縦に振った。別に事実は事実だ。言い逃れする必要も無い。

「判決を言い渡す。被告人は処刑とする」

 その瞬間。傍聴席で一番大きい声で反対をしたのは俺の上司であり、オリュンポスの大将で総司令官のアルージェ・ランスロットだった。

 彼は2mを超える大男で右目に眼帯をしている。獅子のたてがみのようにフサフサとした毛量の多い銀髪を全て後ろに流している髪型が特徴的な男だ。

 俺は彼に色々と助けられたし面倒をみてもらった。そして俺が憧れたマスターズで、俺が銃を握るキッカケを与えてくれた人もである。単純に俺はアルージェに憧れているんだ。その敬意を表して俺は彼の事を兄貴と呼んでいる。

「話が違うだろ」

「これは決定した事だ。貴様にとやかく言われる筋合いはないぞ? 世界政府の指示だからな」

「この俺が誰だか分かってそれを言っているのか? 俺は元老院の指示だ。もし同じところの指示なら、この場で世界政府の連中を殺してやってもいいんだぞ?」

 アルージェ兄貴がそう裁判長を睨めつけると、裁判長だけではなく裁判官も怯んでいた。また、アルージェ兄貴の発言で世界政府の人間も委縮していた程だ。

「俺がその気になれば町の一つや二つくらい破壊できるのは知っているだろ?」

「じょ……冗談だろう!」

「俺がこういう場面で冗談を言うと思うか?」

 アルージェ兄貴は明らかに裁判長を威嚇していた。その圧倒的な威圧感は俺でも委縮してしまう程だ。ここまでキレているアルージェ兄貴は珍しい。

「司令官の言う通りだよジェイコブ君」

 そう発言したのは虎のように鋭い目をした口元の髭の剃り跡が目立つ褐色肌の中年の男だった。この人はオリュンポスの最高責任者の現アーサーで元老院の人間だ。

 アーサーにそう言われたジェイコブこと裁判長は「ぐぬううう……」と唸りながら熟考している。そして――。

「被告人、ガレス・リストキーを国外追放とする」

 俺に言い渡された判決は国外追放だった。

 俺はこの事件をきっかけにオリュンポスのマスターズのNo.Ⅵの称号と大佐の座をはく奪された。

 裁判は閉廷すると、俺は後輩や戦友達に囲まれていた。「本当なの?」という「何か答えてくれ!」といった類の声だ。

『大丈夫かガレス?』

 そう問いかけてきたのはユーダに授けてもらった愛銃エルピーダだった。

 俺は心のなかで「大丈夫だ」と答えた。

『とてもそうには思えないが。しけた面してるぜ』

 エルピーダはそう言い残して俺の心の中から去っていった。普段は喧嘩ばかり吹っ掛けてくるけど、今は彼なりに心配してくれているようだ。

「皆、ガレスから離れてくれ」

 アルージェ兄貴がそう命ずると、オリュンポスのナンバーズ達は引き下がった。そして俺はアルージェ兄貴と共に裁判所にある別の部屋へと移動した。

 そしてそこにはアーサーの姿もあった。

「かけたまえ」

 俺はアーサーにそう言われて席に着いた。四人掛けのテーブル以外に、これと言って特徴的な物は何も無い殺風景な部屋だ。

「まずは君に謝罪をしたい。二十歳の君にこんな重荷を背負わせてしまって申し訳ない」

 アーサーはそう言ってテーブルに額を擦り付けて謝罪をしてきた。しかしこの人に限って意外な行動という訳では無い。情に厚く部下想いなのはオリュンポスのマスターズなら皆が知っている。それにアーサーになる条件にはいくつかあり、オリュンポスで大将の座を務めた後、元老院の人間に気に入られて、前アーサーの推奨があって初めてこの座につくことができる。言ってしまえば、今目の前にいるアーサーは、先代のアーサー。つまりジェームズの推奨があってこの人はアーサーの座に就いている。部下想いで戦闘スキルも高いという訳だ。

「アーサー。頭を上げて下さい」

 すると、アーサーは頭を上げて俺を真っすぐ見てきた。

「俺はアルージェ兄貴と、アーサーの指示だったからこそ動いたまでです。全く知らないいけ好かない元老院の人間の指示であれば、俺は今回の任務を引き受けなかった」

 俺がそう言うと、アルージェ兄貴もアーサーも苦い表情を浮かべていた。

「俺は執行官デリーターとしての役目を果たしたまでです」

「そう言ってくれて非常に光栄だよ。君はストラーフと並ぶ最高の執行官デリーターだった」

 ストラーフ。以前執行官デリーターの司令官でありながら、オリュンポスの大将の座を務めていたオリュンポスのNo.2だった男だ。そして、世界最強と呼ばれているアルージェ兄貴の永遠の好敵手ライバルでもあり、俺に殺しを教えてくれた師匠だ。

「あの人に殺しの技術は敵いませんよ」

「いいや。実際に二十歳で大佐まで上り詰めたのは、君とアルージェとストラーフしかいない。私の言葉は素直に受け取ってくれ。私でも現役の二十歳といえば、せいぜい中佐くらいだった」

 アーサーはそう言ってニッと笑みを浮かべた。

「では有難く受け取っておきます」

「ああ。本当にありがとう」

 アーサーは俺にお礼を言ってきた。俺に命じるというのはそれほど嫌だったのだろう。アーサーは部下想いの人間。いくら元老院の人間同士で意思決定を行ったとしても、アーサーは違う事は違うと反対するのだ。故にアーサーなりの考えがあって今回の意思決定になった。俺はこの人の意思決定にとやかく言うつもりはないし、今回の任務は一番慕っているアルージェ兄貴も賛成をしているのだ。だから俺はこの任務を飲み込んだ。

「だから前も言った通りだアーサー。俺は大将の座を降りてガレスと共に他国へ移住する気だ」

「は? どういう事だよ!」

 アルージェ兄貴が大将の座を降りる必要は無い。俺は一人でも――。

「俺の事をアルージェ兄貴と呼んでくれる可愛い愛弟子がこんな寂しい人生送るなんて御免だね。俺は他国へ移住して民間軍事事務所を立ち上げる。仕事はアーサーも振ってくれるらしい」

 アルージェ兄貴がそう言うと、アーサーはニッと笑みを浮かべた。

「ガレス。私達からのせめてもの謝罪の形だ。君のような戦闘スキルを持った人間をこのまま潰したくはない。今度は、人を殺めずに世界を救ってくれないか?」

「そういう事だ。立ち上げだから、お互いに今の給料よりかは落ちるけど俺と二人でのらりくらり楽しい第二の人生を歩まないか?」

 隣に座っているアルージェ兄貴がそう言って手を差し伸べてきた。俺は気付けば涙が頬を伝っていた。そして無意識にアルージェ兄貴の手を取っていた。

 そうか。俺はこれから人を殺さずに済むのか――。
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