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リリアーナ・アウローラは、この国唯一の公爵家の養女だ。そして王太子ヒリスの婚約者でもあった。
そんな彼女は今、国外追放されようとして馬車に乗り込むところだ。
(どうしてこうなった……)
思わずため息をつく。
今日は朝早くから王宮に行って国王陛下への謁見があった。いつものようにヒリス殿下と共に王宮内を歩き、
彼の執務室へ向かう途中のことだった。
廊下の向こう側から、見慣れない女の子が現れた。茶色い髪の少女はどうやら侍女らしい。
ヒリス殿下付きのメイドではないようだ。
すれ違いざまに、私は彼女に挨拶をした。すると相手も慌てて頭を下げて同じように挨拶をする。
それが間違いだったのか? 一瞬にして空気が変わった。
私を見る彼女の目つきが急に変わったからだ。
まるで獲物を狙うような視線。
ゾクリとした寒気が背中を走る。
本能的に危険を感じてその場から離れようとしたが遅かった。
目の前にいたはずの少女が消えたかと思うと、次の瞬間には私の腕を掴んでいた。驚いて声をあげる間もなく、
彼女は走り出す。
どこへ行くつもりなのか?必死に逃げようとするけれど、相手の力の方が強い。
抵抗する間も無く引きずられるようにして連れて行かれたのは先ほどすれ違ったばかりの彼女、
つまりはアリスティア様の部屋の前だった。
彼女がノックした直後、
扉が開かれ中へと引きずり込まれる。
突然の出来事に頭が追いつかない。
そのまま部屋の奥にあるベッドに押し倒された。
衝撃で目を瞑り、次に開けた時にはもう目の前に王太子の顔が迫っているではないか!
恐怖で悲鳴をあげそうになるが、すんでのところで飲み込んだ。
そして気づいたら思いっきり平手打ちしているのでした。
……………………。
あー、思い出しても恥ずかしくて死にそうですわ!
なんですかあの態度はっ!? しかも公衆の面前でなんてことをしてくれたんですか!
頬を押さえながら涙目の王太子を見つめる。
ああ、あんな顔をさせるつもりはなかったのに。
後悔先に立たずとはまさにこのことだろう。
そもそも私は彼に謝るべきなのだ。
私がしたことは間違いなく不敬にあたる行為だからだ。
なのに何故? 彼は怒っているのだろうか? それとも泣いている? ……わからない。
ただわかることは一つだけあった。……嫌われてしまったかもしれないということだけだ。
それだけは嫌だと心の中で叫ぶ。
だが現実は非情なもので、私の想いなど無視して話は進んでいった。
国王陛下との謁見が終わったあとのこと。
さすがにこのまま帰るわけにもいかないし、まずは一度屋敷に帰ることにした。
もちろんヒリス殿下と一緒だ。
陛下の前ではなんとか取り繕っていたものの、二人きりになるとやはり堪えていたものが溢れ出したのか泣き出してしまった。
……まぁ、仕方ないことなんだけどね。うん。とりあえず、今回のことでわかったことがある。
それは、やっぱり私は悪役令嬢なんだなってことだ。
乙女ゲームでは、ヒロインの聖女の力を利用して悪政を行う王侯貴族を正そうと奮闘するが、最後はその聖女ごと国を滅ぼす
という役目を担っていた。
しかしこれはあくまでもゲームの話だ。現実の世界で同じことが起こらないとは限らない。……いやむしろ起こる可能性は
高いのではないかと思った。
なぜならばヒロインは聖女という特殊な存在であり、その存在はこの世界にとって必要不可欠と言ってもいいくらい
大事なものだからだ。
そんな彼女は今、国外追放されようとして馬車に乗り込むところだ。
(どうしてこうなった……)
思わずため息をつく。
今日は朝早くから王宮に行って国王陛下への謁見があった。いつものようにヒリス殿下と共に王宮内を歩き、
彼の執務室へ向かう途中のことだった。
廊下の向こう側から、見慣れない女の子が現れた。茶色い髪の少女はどうやら侍女らしい。
ヒリス殿下付きのメイドではないようだ。
すれ違いざまに、私は彼女に挨拶をした。すると相手も慌てて頭を下げて同じように挨拶をする。
それが間違いだったのか? 一瞬にして空気が変わった。
私を見る彼女の目つきが急に変わったからだ。
まるで獲物を狙うような視線。
ゾクリとした寒気が背中を走る。
本能的に危険を感じてその場から離れようとしたが遅かった。
目の前にいたはずの少女が消えたかと思うと、次の瞬間には私の腕を掴んでいた。驚いて声をあげる間もなく、
彼女は走り出す。
どこへ行くつもりなのか?必死に逃げようとするけれど、相手の力の方が強い。
抵抗する間も無く引きずられるようにして連れて行かれたのは先ほどすれ違ったばかりの彼女、
つまりはアリスティア様の部屋の前だった。
彼女がノックした直後、
扉が開かれ中へと引きずり込まれる。
突然の出来事に頭が追いつかない。
そのまま部屋の奥にあるベッドに押し倒された。
衝撃で目を瞑り、次に開けた時にはもう目の前に王太子の顔が迫っているではないか!
恐怖で悲鳴をあげそうになるが、すんでのところで飲み込んだ。
そして気づいたら思いっきり平手打ちしているのでした。
……………………。
あー、思い出しても恥ずかしくて死にそうですわ!
なんですかあの態度はっ!? しかも公衆の面前でなんてことをしてくれたんですか!
頬を押さえながら涙目の王太子を見つめる。
ああ、あんな顔をさせるつもりはなかったのに。
後悔先に立たずとはまさにこのことだろう。
そもそも私は彼に謝るべきなのだ。
私がしたことは間違いなく不敬にあたる行為だからだ。
なのに何故? 彼は怒っているのだろうか? それとも泣いている? ……わからない。
ただわかることは一つだけあった。……嫌われてしまったかもしれないということだけだ。
それだけは嫌だと心の中で叫ぶ。
だが現実は非情なもので、私の想いなど無視して話は進んでいった。
国王陛下との謁見が終わったあとのこと。
さすがにこのまま帰るわけにもいかないし、まずは一度屋敷に帰ることにした。
もちろんヒリス殿下と一緒だ。
陛下の前ではなんとか取り繕っていたものの、二人きりになるとやはり堪えていたものが溢れ出したのか泣き出してしまった。
……まぁ、仕方ないことなんだけどね。うん。とりあえず、今回のことでわかったことがある。
それは、やっぱり私は悪役令嬢なんだなってことだ。
乙女ゲームでは、ヒロインの聖女の力を利用して悪政を行う王侯貴族を正そうと奮闘するが、最後はその聖女ごと国を滅ぼす
という役目を担っていた。
しかしこれはあくまでもゲームの話だ。現実の世界で同じことが起こらないとは限らない。……いやむしろ起こる可能性は
高いのではないかと思った。
なぜならばヒロインは聖女という特殊な存在であり、その存在はこの世界にとって必要不可欠と言ってもいいくらい
大事なものだからだ。
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