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「どうかしたのかい?」
陛下が首を傾げる。
「なんでもないです」
「そうか」
「陛下」
「なんだい?」
「その、少しお話ししたいことがあるんですがよろしいでしょうか」
「いいとも」
陛下は椅子に座るとこちらを向いて言った。
「さあ、遠慮せずに言ってみるといい」
私は覚悟を決めて口を開いた。
「私には好きな人がいます」
「ほう? そうなのかい? それは誰なのかな?」
「それは……」
言おうとした瞬間、誰かの顔を思い出した。
(え? 今、何を考えた? 思い浮かんだ顔は……え? 嘘? そんなはずはない!)
ありえない考えを振り払うためにもう一度確認する。
でも、結果は同じだった。
(そんな! 私は陛下のことが好きなのに! どうして!?)
パニックになる私を見て、陛下が心配そうに声をかけてくる。
「アリスティア、大丈夫かい?」
その声を聞いて我に返った私は慌てて言った。
「はい。問題ありません」
「そうか。それで君の好きな人というのは僕の知っている人物かな?」
「知ってます。でも、言いたくありません」
私の言葉を聞いた陛下が言う。
「ふむ。言いたくないというのなら無理にとは言わないが……まあ、いずれ教えてもらう
ことになると思うよ」
「そうですか」
「それじゃあそろそろ始めようか」
「始めるって、何をですか?」
「もちろん愛を語り合うことだ」
「嫌です」
「何故だい?」
「だって、陛下のことが好きだから」
「僕も同じ気持ちだよ」
「でも、陛下は私を愛していないはずです」
「確かに僕は君を愛してはいない」
「ほらやっぱり。陛下は私を愛していません」
「いや、愛しているよ」
「愛しているなら、愛しているならどうしてこんなことを?」
私がそう尋ねると陛下は少しの間黙り込んだ後、静かに語り始めた。
そして、私はそれをただ聞くしかなかった。
なぜなら、陛下が語った内容は私も知らないことだったから。
陛下は語る。
私と出会った時のこと。
私と婚約したこと。
私を愛していないこと。
私は愛する人から裏切られたこと。
全てを話し終えた陛下が最後に言った言葉が印象的だった。
陛下が私の目を見つめて告げた。
まるで私の心の底まで見通そうとするような視線で。
そんな瞳で見つめられ、私は思わず目を逸らす。
すると、陛下は私の顎を持ち上げて無理やり目を合わさせ、 再び言う。
「僕は君を愛おしく思っているよ」
それを聞いた途端、私の心に温かいものが溢れてきた。
それと同時に恐怖が湧き上がってくる。
陛下が愛おしいと言ってくれた。
私を愛おしいと言ってくれるなんて、なんて幸せなのだろう。
陛下は私を愛おしいと言ってくれている。
私のことを愛してくれている。
だから、私は陛下を愛するべきだ。
愛することこそが陛下への最大の忠義だ。
そう思った私は陛下に問いかける。
「私も陛下のことが好きです」
しかし、陛下はそれに答えず、代わりにキスされた。
私はそれがとても心地よく感じ、抵抗することなく受けいれていた。
しばらくして唇が離れていき
「君は本当に可愛いね」
と言われた。
その言葉で私はさらに強く陛下のことを好きになった。
それから私たちは毎日のように愛し合った。
お互いの体を求め合い、愛を囁いた。
陛下はいつも優しくしてくれた。
時には激しく求めてくることもあったけど、それでも最後には優しく抱きしめてくれた。
そんな陛下の優しさに触れてますます陛下のことが大好きになっていった。
そんなある日のことだった。
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