上 下
198 / 236

198.

しおりを挟む
「えっと、大丈夫ですか……?」
恐る恐る尋ねてみると笑顔で答えてくれたよ。
「はい、大丈夫ですよ」
そう言って微笑む姿はとても可愛らしく思えたよ。
それからしばらく話をした後で別れを告げることになったんだが、その際に言われた言葉が印象的だったな。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
そう言って頭を下げる姿を見ていると何だか照れ臭くなってしまったぜ……。
それから数日後のことなんだが、ある日突然呼び出されてしまったので行ってみるとそこには見知らぬ女性が立っていたんだ。
誰だと思って見ていると向こうから声をかけてきたので驚いたね。
何故ならその声は紛れもなく彼女のものだったからさ。
どういうことかと思って戸惑っていると、目の前の女性はこう言ってきたんだ。
「初めまして、私はアリアと申します。以後お見知りおきくださいますようお願い申し上げます」
そう言って深々と頭を下げてきたんだが、どう見ても様子がおかしいんだよな。
とりあえず話を聞いてみることにしたんだが、くだらない、好きだと言い出した。
「俺はさ、お前ひとりに愛されてるなんて嫌気がさすんだよ、だから、恋愛感情があるんなら、出てってくれないか」
「え、待って、なんで、やだ、いやだ、行かないで、ごめんなさい、謝るから許して、お願いします、捨てないで、何でもするから、嫌いにならないで」
泣きながら縋りついてくる彼女を振り払うこともできず、ただ呆然と立ち尽くしていると、突然背後から声をかけられた。
「なんだ、リュート、魔王の子が、女風情とデートか?」
そうなのだ、俺は今大切な時期である、
「そんなわけあるかよ、魔王の父さんだって恋愛にうつつ何て抜かさないじゃないか」
「ああそうだとも息子よ、お前が恋愛しようなんて、ふざけてけている」
とまあ、こんな感じの会話が続くわけだ
しかし、俺には目的があるのだ。
「父さん、この女あげる、好きにしていいよ」
そう言うと俺は逃げるように走り去ったのだった。
そして自分の部屋に戻るとすぐに鍵をかけた。
それからベッドに横になると目を瞑り眠りについたのである。
次の日、処刑場であの女が配下の魔物に供物にされる事と成ったが知らないし興味も無い、それより重要なのは、今日は休日なのでゆっくり休む事が
出来ると言う事だ、だからゆっくりと眠ろうと思う。
俺はそのまま魔王城を抜けると、ギルドのある街で依頼を受けた。
内容はゴブリン退治だ。
この依頼は初心者向けの簡単な物であり、報酬もそこそこ良い方であった。
だから俺は迷わずこれを受けることにしたのだ。
目的地に到着すると、早速探索を開始した。
暫く歩いているうちに、やがて一匹のゴブリンを発見した。
俺はすかさず奇襲を仕掛けると、一撃で仕留める事に成功した。
こうして俺は無事に初任務を完了させたのであった。
その後、街に戻って報告を済ませた後、酒場に行って祝杯を挙げる事にした。
メニューを見ると、そこには様々な料理名が書かれていたが、その中でも一際目を引いたのが、ドラゴンステーキという代物だった。
「すみません、これを一つ下さい!」
注文をするとしばらくして運ばれてきたそれは、鉄板の上でジュウジュウと音を立てていて実に美味そうだった。
さっそくナイフを入れるとその柔らかさに驚かされた。
まるで溶けたバターのようだと思った次の瞬間には口の中に消えていた。
噛まなくても溶けるような肉は初めての経験だったが、とても美味しかったので満足できた。
食事を終えた後は再び街を散策することにした。
翌日以降も同じような日々が続いた。
薬草採取の依頼を受けて森に行き、ついでに討伐系の依頼を受けたりしながら日々を過ごしていたある日の事、
冒険者ギルドに行くと受付嬢に話しかけられた。
どうやら俺に用があるらしい。
何の用だろうかと思っていると、彼女はこう言ったのだ。
「あの……実は折り入ってご相談がありまして……」
と言われたので話を聞くことにしたのだが、その内容というのが意外なもので驚いてしまった。
というのも、彼女が言うには俺を引き取りたいという人が現れたというのだ。
一体誰だろうと思い尋ねると相手はなんと魔王だというではないか!
これには俺も流石に動揺を隠しきれなかったが、それでも断るわけにはいかないと思い了承することにした。
そうして後日指定された場所に向かうことになったわけだが、そこで待っていた人物を見てさらに驚くことになるとは思わなかったな。
何しろそこにいたのは他ならぬ俺の父親だったのだから!
しかも何故かメイド服姿で出迎えてくれたものだから余計に訳が分からない状態だったのだが、取り敢えず詳しい話を
聞かせてもらうために家に戻る事になったんだ。
「それで、どうしてこうなったのか説明してくれるんだろうな?」
俺が問いかけると、父は真剣な表情になり語り始めた。
「うむ、それなのだがな、実はお前に頼みたいことがあるのだ。聞いてくれるか?」
そう言われたので頷くと続きを促した。
「ありがとう、では話の続きをするとしよう。単刀直入に言うとだな、お前の力を貸して欲しいんだ。
具体的には私に代わって魔王をやってもらいたいと思ってるんだがどうだ? 引き受けてくれるよな?」
父があまりにも突拍子もない事を言い出すので思わず絶句してしまった。
だが、よくよく考えてみればこれはチャンスかもしれないと思い直すことにした。
「わかった、やるよ、その代わり条件があるんだけどいいかな?」
俺の言葉に父はニヤリと笑みを浮かべると言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される

椎名 富比路
ファンタジー
イクタは料理の時間を省略できる魔法の才能があったが、インチキ呼ばわりされて廃業に。 魔法学校の学食に拾ってもらい、忙しい日々を送る。 仕事が一段落して作業場を片付けていたら、悪役令嬢デボラが学食フロアの隅で寝泊まりしようとしていた。 母国が戦争状態になったせいで、援助を止められてしまったらしい。 イクタは、デボラの面倒を見ることに。 その後も、問題を抱えた女生徒が、イクタを頼ってくる。 ボクシングのプロを目指す少女。 魔王の娘であることを隠す、ダークエルフ。 卒業の度に、変装して学生になりすます賢者。 番長と生徒会長。 イクタと出会い、少女たちは学び、変わっていく。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

【完結】 『未熟』スキル 最強ではないが相手を最弱にすれば関係ない ~かつてパーティーを追放された者の物語~

はくら(仮名)
ファンタジー
※ タイトル・あらすじは(仮)です。  半年前にパーティーを追放された少年はとある森のなかで一人の少女と出会い、そこから物語は始まる。

さっちゃんと僕

BL
今でも、思い出せる、僕の小学生、中学生の時の体験談を小説風にしてみました。 内容は、多少の脚色が入っていますが、ほぼ実話です。

女神を怒らせステータスを奪われた僕は、数値が1でも元気に過ごす。

まったりー
ファンタジー
人見知りのゲーム大好きな主人公は、5徹の影響で命を落としてしまい、そこに異世界の女神様が転生させてくれました。 しかし、主人公は人見知りで初対面の人とは話せず、女神様の声を怖いと言ってしまい怒らせてしまいました。 怒った女神様は、次の転生者に願いを託す為、主人公のステータスをその魂に譲渡し、主人公の数値は1となってしまいますが、それでも残ったスキル【穀物作成】を使い、村の仲間たちと元気に暮らすお話です。

貴族令嬢を助けたら断罪されました。人間のカテゴリから外れた俺は、無能の敵対者をざまぁ無双する~

うし。
ファンタジー
 神を名乗る管理者に異世界転移させられた俺は、ある日、野盗に襲われている貴族令嬢を発見した。  護衛が既に亡くなり、状況が切迫していることを感じて、令嬢を助けるために行動すると、 「貴方! 助けに来るのが遅いのです! 貴方が来るのが遅れたせいで二人も亡くなってしまいました。お父様に言いつけて処分をしてもらいますからね!」 「は? 一体何をいっているんだ? 俺が来なければお前は凌辱されるか売られるか、もしくは殺されていたんだぞ?」 「貴方こそ何を言っているのですか! 私は男爵家の娘です。手を出せばお父さまが報復をするのにそんなことになるわけがないでしょう」  コイツは悪役令嬢か何かかな?  俺は令嬢の言葉に絶望した。  助けたこの令嬢を貴族家に送れば、どうやら俺は令嬢を守れなかったという罪で殺されてしまうようだ。  それならばと、俺は野盗や襲われていた令嬢をダンジョン内に転移させようとコアに願った。  その願いは叶い……、ダンジョン内に送られた令嬢たちはダンジョンに吸収される。  無限とはいかないが、俺はそのお陰で多くのダンジョンポイントを手に入れた。  このポイントを元に俺はダンジョンを作り、眷属や仲間、配下と共に敵を倒し――――――  旧題名:人類の敵にジョブチェンジ! スキルと魔法を手に入れて敵対者はゴミ箱(ダンジョン)へ。天下無双のダンジョンマスター 仲間と迷宮経営してみます~  カクヨムでは上記の題名のまま投稿されている作品です。  タグ:魔法・スキル・鑑定・ざまぁ(敵対者にたいして)・恋愛・バトル

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

処理中です...