上 下
162 / 236

162.

しおりを挟む
母はもういない。
彼女は俺と目が合うとニコリと微笑んだ。
俺は気まずさを感じつつも部屋に入ると、彼女と向かい合うようにして座った。
彼女はにこにこと笑っている。
「やあ、よく来てくれたね」
「いえ、こちらこそわざわざお越しいただいてありがとうございます」
社交辞令的に挨拶を交わしてから本題に入ることにする。
「実はお願いがあって来たんだ」
「なんでしょう?」
「君に、うちの子達の家庭教師をして欲しいと思ってね」
俺がキョトンとしていると、補足するように説明してくれた。
要するにこういうことらしい。
今、勇者達は実戦経験を積むために各地を旅しており、俺もそれについて回っているという。
しかし、いくらレベルを上げてもスキルを習得していないため強くなることができないのだという。
だから俺に修行をつけて欲しいというのが彼女の頼みだったのだ。
「なるほどな、そういうことなら任せておけ!」
と胸を張る俺を見て安心した様子の彼女はさらに続けた。
「では、魔王の選定に勝てればいいと?」
「ああ」
と答えると彼女は笑顔で頷いた後こう言ってきた。
「わかったわ、それじゃあ、貴方の強さを見せてもらうわね」
そう言って指を鳴らすと結界のようなものが展開されるのが見えた。
これで周りへの被害を抑えられるらしい。
そして俺は聖剣を構えて駆け出した。それを見た彼女も剣を抜き放ち構えを取る。
そしてぶつかり合った瞬間に火花が飛び散り衝撃が走った。
そのまま鍔迫り合いへと持ち込むが相手の力に押し返されてしまう。
(くっ、やはり強いな……でも負けられないんだ!!)
そう思いながら再び斬りかかると今度は受け流されてしまった。
「どうしたの?こんなものかしら?」
挑発してくる彼女に対して俺は冷静さを失いかけていた。
それでも何とか堪えて攻撃を仕掛けるが、全て防がれてしまい逆にカウンターを受けてしまい吹き飛ばされてしまった。
地面に叩きつけられた衝撃で動けずにいると彼女が近づいてくる気配を感じたので顔を上げると目の前に刃を突きつけられていた。
「これで終わりよ」
そう言った途端首筋に鋭い痛みが走った。
見ると血が滴っていた。
どうやら斬られたらしい。
「うぐっ……」
呻くような声を漏らしながらその場に倒れ伏すしかなかった。
薄れゆく意識の中で最後に見たものは不敵な笑みを浮かべる彼女の顔だった。
次に目を覚ました時にはベッドの上だった。
辺りを見回すと知らない部屋にいることがわかった。
「ここは……?」
呟くように言いながら体を起こすと、隣に誰かいることに気がつく、
そちらを見ると裸の女性が眠っていた。
驚いて声を上げそうになるが慌てて口を塞ぐ、よく見るとそれはリリアだった。
彼女もまた一糸まとわぬ姿になっていた。
どういうことだ?
混乱しているとドアが開き誰かが入ってきた。
振り返るとそこにはアリアが立っていた。
彼女は微笑みながらこちらに近づいてくると、いきなり抱き着いてきた。
突然のことに戸惑っていると耳元で囁かれる。
「おはようございます、リュート様」
それを聞いた瞬間背筋が凍りついた気がした。
恐る恐る振り向くとそこにはルミナスの姿があった。
彼女はニコニコしながらこちらを見ている。
その視線に耐えられず目を逸らすと、背後から声をかけられた。
振り向くとそこにいたのはアレクだった。
「よう!久しぶりだな!」
思わず身構えたが特に敵意はないようだ。
安堵して警戒を解くと彼は笑いながら言った。
「そう邪険にするなよ、ただ挨拶に来ただけだってのにさ」
そう言うと俺の肩を叩いてくる。
それに対して苦笑しつつ答えることにした。
それにしてもなんだか馴れ馴れしい奴だなぁと思っていると急に真剣な表情になったかと思うと頭を下げてきたので何事かと思った直後、
爆弾発言を口にしたのだ。
その言葉に動揺を隠しきれないまま質問を投げかけるが返ってきた答えは意外なものだった。
驚きのあまり呆然としていたがすぐに我に帰ると反論しようとしたが、
言い終わる前に遮られてしまった為それ以上何も言えなくなってしまった。
そんな様子を見ていたマリアは呆れたような表情を浮かべると言った。
「まったく、仕方ないんだから……まあ、いいわ、とにかく、今は勇者パーティを追放されて落ちぶれた元・魔王だけど、これからは私達と一緒に旅をするからよろしくね」
それを聞いて納得した。
(そうか、確かにそうだよな、それに考えてみれば、魔王の子か一緒にいれば、今後、人間に襲われることもなくなるんじゃないか?)
そう考えると悪い話ではないように思えた。
何より彼女達と一緒の方が楽しそうだと思った俺は二つ返事で了承することにした。
こうして俺は新たな仲間と共に旅に出ることになったのである。
数日後、俺たちは街を出て街道を歩いていた。
天気は快晴、絶好の旅日和である。
「まずはどこに行きますか?」
不意に声をかけられ振り返るとそこには笑顔のアリアがいた。
どうやらずっとついてきていたらしい。
そんな彼女に問いかけることにした。
すると予想外の答えが返ってくることになる。
なんでもここから北にある山を越えた先に人間の住む村があるらしいのだが、そこに立ち寄って情報収集をしたいのだという。
もちろん断る理由などないので承諾する事にした。
そして数時間後、目的の場所に到着したわけだがそこはとても貧しい村だった。
畑は荒れ果て家畜もほとんど見当たらない状態だったし、人々の服装もみすぼらしかったからだ。
だがその中でも一つだけ目を引く建物があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

勇者パーティー追放された支援役、スキル「エンカウント操作」のチート覚醒をきっかけに戦闘力超爆速上昇中ですが、俺は天職の支援役であり続けます。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
支援役ロベル・モリスは、勇者パーティーに無能・役立たずと罵られ追放された。 お前のちっぽけな支援スキルなど必要ない、という理由で。 しかし直後、ロベルの所持スキル『エンカウント操作』がチート覚醒する。 『種類』も『数』も『瞬殺するか?』までも選んでモンスターを呼び寄せられる上に、『経験値』や『ドロップ・アイテム』などは入手可能。 スキルを使った爆速レベルアップをきっかけに、ロベルの戦闘力は急上昇していく。 そして勇者一行は、愚かにも気づいていなかった。 自分たちの実力が、ロベルの支援スキルのおかげで成り立っていたことに。 ロベル追放で化けの皮がはがれた勇者一行は、没落の道を歩んで破滅する。 一方のロベルは最強・無双・向かうところ敵なしだ。 手にした力を支援に注ぎ、3人の聖女のピンチを次々に救う。 小さい頃の幼馴染、エルフのプリンセス、実はロベルを溺愛していた元勇者パーティーメンバー。 彼女たち3聖女とハーレム・パーティーを結成したロベルは、王国を救い、人々から賞賛され、魔族四天王に圧勝。 ついには手にした聖剣で、魔王を滅ぼし世界を救うのだった。 これは目立つのが苦手なひとりの男が、最強でありながらも『支援役』にこだわり続け、結局世界を救ってしまう。そんな物語。 ※2022年12月12日(月)18時、【男性向けHOTランキング1位】をいただきました!  お読みいただいた皆さま、応援いただいた皆さま、  本当に本当にありがとうございました!

俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩
ファンタジー
リュートは突然、4人の美女達にえっちを迫られる!? その目的とは、子作りを行い、人類存亡の危機から救う次世代の勇者を誕生させることだった! 大学生活初日、巨乳黒髪ロング美女のカノンから突然告白される。 告白された理由は、リュートとエッチすることだった! 他にも、金髪小悪魔系お嬢様吸血鬼のアリア、赤髪ロリ系爆乳人狼のテル、青髪ヤンデレ系ちっぱい娘のアイネからもえっちを迫られる! クラシックの音楽をモチーフとしたキャラクターが織りなす、人類存亡を賭けた魔法攻防戦が今始まる!

処理中です...