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それくらい動揺していたのです。
まさかこんなことになるとは思っていませんでしたからね。
しかし、いつまでも黙っている訳にもいかないと思い直し覚悟を決めることにしました。
そして深呼吸をした後で口を開きます。
緊張のせいか声が震えそうになるのを必死に堪えつつ何とか言葉を絞り出しました。
「お、俺が、君の……?」
最後まで言い終わらないうちに遮られてしまいました。
「はい、私が貴方のお嫁さんになります!」きっぱりと言い切った彼女の顔はとても凛々しく見えました。
その表情を見ているうちに段々と冷静になってくる自分がいることに気付いて驚きましたが、
それと同時に嬉しさが込み上げてきました。
何故なら彼女が俺のことを好きだと言ってくれたからです!
その事実を認識した瞬間、胸が高鳴るのを感じました。
「ありがとう! 嬉しいよ……!」
感極まって泣きそうになりながらもどうにかそれだけ口にすることが出来た。
すると彼女も目に涙を浮かべながら微笑んでくれた。
そんなやり取りを見ていた他の仲間たちも自分のことのように喜んでくれているようだった。
そんな中で一人だけ浮かない顔をしている者がいたことに気が付いた俺はその人物に声をかけた。
すると相手は驚いた様子で振り返った後、戸惑いがちにこう言ってきた。
その言葉に一瞬固まってしまうもののすぐに我を取り戻すことに成功すると改めて目の前の少女を見つめた。
(この子が俺を好き? いやいや何かの冗談だろう? だって俺には好きな人がいるんだぞ?
「いや、待ってくれ! なんでそうなるんだ? そもそもなんで俺なんかのことを……」
そこまで言いかけたところで再び口を塞がれてしまったためそれ以上言葉を続けることが出来なくなってしまったのだった。
それどころか呼吸すらままならない状態で酸欠になりかけていたこともあり意識が朦朧とし始めていたのだがそれでも
なお解放されずにいるせいでとうとう限界を迎えようとしていた。
その時になってようやく解放されたことで大きく息を吸い込むことができたおかげで助かったと
思った次の瞬間今度は耳元で囁かれたのである。
「大好きだよ」
そう言われて俺は眠れぬ夜を過ごすのでした。
「はぁ、どうしよう」
思わず溜息が出てしまうほど悩んでいた。
というのも、昨日の出来事が原因であったからだ。
そう、あの時、アリアからプロポーズを受けた時に言われた言葉が原因でずっと頭を悩ませていたのである。
あれは本気なのだろうか? それともただの気まぐれなのか、それとも何か裏があるのか、様々な考えが浮かんでくるが
一向に答えが出ないままだった。
そんな時だった、扉がノックされる音が聞こえてきたので返事をすると、入ってきた人物を見て驚愕する羽目になった。
なぜならそこにいたのはアリアだったからだ!
しかも、なぜかメイド服姿で現れたのだから驚くなという方が無理だろう!
「ど、どうしたんだい、アリア!? そんな格好をして、一体どうして!?」
動揺しながらも尋ねると、彼女は頬を赤く染めながら答えた。
「えっと、今日はお世話をする日だから、メイド服を着ようと思って……」
それを聞いて納得がいった。
どうやら彼女は本気で言っているようだと判断した俺は大人しく従う事にした。
それからしばらくの間、されるがままになっていたのだが、途中から変な気分になってきたのを自覚していた。
その原因はすぐに分かった。
お腹が空いているのだ。
「何か食べたいかも」
「じゃあ、ご飯にしましょうか」
そう言うと、キッチンに向かっていった。
しばらくして戻ってくると、その手には大きな皿を持っていた。
それをテーブルの上に置くと、蓋を開ける。中にはサンドイッチが入っていた。
具材はハムやレタス、チーズなど様々だ。どれも美味しそうに見える。
「いただきます」
と言って食べ始める。
一口食べるごとに口の中に旨味が広がっていくのが分かった。あっという間に平らげてしまう。
「ごちそうさま」
「ふふっ、美味しかった?」
「ああ、すごく美味かったよ」
素直に感想を伝えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。
その後、食器を片付けた後、ソファに座ってくつろいでいた。
すると、
「狩りに行きませんか」
メイド服で行くのかと不安がっていたが、アリアが着替えに行く前に呼び止めたところ、ちょうどタイミングよくニーナが来たところだった。
そこでアリアが出かけることを伝えると、自分も同行したいと言われたので許可することにしたのだった。
(まあ、一人くらい増えても問題ないだろうし)
そう思って了承したのだが、実際に一緒に歩いてみるとやはり目立ってしまっていたようで周囲の人たちの視線が痛かった。
特に男性陣からの嫉妬の視線が強かった気がする。
そんな視線に晒されながらも目的地に到着した俺たちは早速中に入ることにした。
中へ入るなり店員に話しかけられる。
なんでも最近できたばかりの店らしいのだが、店内はかなり賑わっている様子だった。
客層は主に冒険者が多いようだが、それ以外の人も多くいるようだった。
おそらく観光客なのだろうと思うことにする。
席に案内されたのでメニューを開くと料理の名前がずらりと並んでいた。
どれにしようかなと考えていると、アリアが俺の袖を引っ張ってきた。
どうしたのかと思って見てみると彼女はある一点を指さしていることに気づいた。
その方向を見ると、そこには大きなパフェがあったのだ!
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