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そんな俺を見て、彼女がクスッと笑った気がした。
その後は他愛もない会話をしながら過ごすことになった。
話題は主に今日の予定についてだったが、その中で一つ気になることがあったので聞いてみることにした。
「そういえば、さっき言っていた"お爺様"というのは誰のことなんだ?」
そう聞くと、彼女は少し困ったような表情を浮かべた後、こう答えた。
「私の育ての親みたいなものです」
どうやらあまり話したくないことのようだ。
しかし、無理に聞くつもりは無いため、それ以上追及するのはやめておいた。
(まぁ、いつか話してくれるだろう)そう思いながら、話を戻すことにした。
その後、雑談をしながら朝食を食べ終えた俺達は、片付けを済ませた後、早速出かけることにした。
ちなみに、今回も変装はバッチリ決めてある。
今回は地味な感じの服装にしたつもりだが、果たしてどうだろうか……。
町の外に出ると、季節は夏であるためか暑かった。
照りつける日差しのせいで汗が出てくるほどだ。
だが、それも気にならないほど楽しかったのも事実だった。
何せ久しぶりの外なのだし仕方ないことだろうと思う、街灯は暗くなり始め、空は藍色に染まり始めていた。
そんな中を歩いていくうちに徐々に日が沈んでいくのがわかるのだった。
2時間くらい歩いた頃だろうか?
すっかり夜になってしまったこともあり辺りはかなり暗くなっていた。
それでも歩き続ければ町に着くはずだと思いひたすら足を動かし続けた結果ようやく前方に光が見えてきたのだった!
思わず駆け出したくなる気持ちを抑えつつ慎重に近づいていくとそこにあったものは紛れもなく人工的な明かりだった!
感動のあまり涙が流れそうになるもぐっと堪えながら走り続けるのだった。
そして、空を見れば、満月に近い月の光が明るく地上を照らしてくれていたため足元がよく見えたおかげで躓くこともなく
無事に町に辿り着くことができたのだ。
(ここまで来れただけでも奇跡だな! これでひとまず安心できるぞ!)
そう思った瞬間どっと疲れが出てきたのか、その場に座り込んでしまったものの何とか立ち上がることに成功した。
そうして歩き出すのだが今度は目の前に広がる光景に目を奪われてしまった。
なぜなら月明かりに照らされた町並みはとても美しく幻想的だったからだ。
まるで中世ヨーロッパのような建物が立ち並びレンガ造りの建物が多い中、木造建築の家もあり一見するとチグハグな印象を
受けるのだがそれが逆に良い味を出しているように感じられたのである。
「綺麗だ……」
自然と口から言葉が漏れていたようでそれを聞いた彼女が嬉しそうに微笑むのを見て恥ずかしくなったがそれ以上に興奮していた。
何故ならこれから新しい生活が始まるのだから当然と言えば当然だとも言えるのだが、そんなことを考えているうちに目的の場所に着いたらしく、
立ち止まった彼女の視線を追うようにして前を見るとそこには大きな屋敷があった。
大きさ的には学校と同じくらいだろうか?
そんなことを思いながら見ていると彼女がこちらを向いて言った。
「ここが今日から貴方の家になるのよ」
そう言いながら扉を開けて中に入るように促されたので言われるままに入っていくとまず目に入ったのは大きな肖像画だった。
描かれているのは男性のようで年齢は20代後半といったところだろうか?
端正な顔立ちをしておりイケメンと呼べるレベルだと思う。
ただ目つきが少し鋭いような気がするのは気のせいだろうか?
まあそれはいいとして次に気になったのはその隣にある扉だ。
何故かそこだけ異質な雰囲気を放っているというかなんというかとにかく不思議な感じがするんだよなっと
思いつつもその扉を開けようとしたところで、彼女に止められたため一旦保留にする事にした。
それから部屋の中を見て回る事になったんだが、特にこれといって変わったものはなく普通の部屋といった感じだったかな。
強いて言うならベッドが大きい事くらいだと思うがそれ以外は本当に普通だったので拍子抜けしてしまった感じだ。
これなら自分の部屋はすぐに決まりそうだなと思っていると、不意に声をかけられたので振り向くとそこにいたのは一人の女性だった。
その人は二十代前半くらいの見た目をしていてとても綺麗な人だったんだけれど、
どこか冷たい感じがしたから警戒しているとその女性は微笑みながら自己紹介を始めた。
「初めまして、私はこの家の主で名前はクレアと言います。以後、お見知り置きを」
そう言ってお辞儀をする姿はとても優雅で見惚れてしまうほどだったが、すぐに我に返ると慌ててこちらも挨拶を返すことにした。
「えっと、俺はリュートといいます。よろしくお願いします」
緊張しながらもなんとか噛まずに言えたことに安堵しつつ相手の反応を待っていると、彼女は小さく頷いて見せた後でこちらに問いかけてきた。
「それで、君はどうしてここに来たのかな?」
その問いに一瞬戸惑ったものの、素直に答えることにした。
「俺はリュート、元・魔王です」
「なるほど、君があの噂の……。ふむ、確かに魔力の波動を感じるね。それにしてもまさかこんな形で会うことになるとは思わなかったよ。驚いたなぁ」
そう言う彼女の言葉からは驚きの感情が窺えたが、同時に懐かしさも混じっているような気がした。
もしかしてどこかで会ったことがあるのかと思って記憶を辿ってみたが思い当たる節はなかった。
なので直接聞いてみることにする。
「……すみません、どこかでお会いしたことがありましたか?」
その言葉に彼女は首を横に振ると、申し訳なさそうに謝ってきた。
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