勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる～魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する～

107.

なぜ俺のことを知っているのか不思議に思っていると、その答えはすぐに返ってきた。
「私はあなたの事を知っていますよ、だって、あなたは私のご主人様になる方なんですから」
その言葉に衝撃を受けていると、更に追い打ちをかけるように衝撃的なことを告げられた。
なんと、彼女は自分を魔族だと名乗ったのだ。
それを聞いて唖然としていると、再び話しかけてきた。
「初めまして、マスター。今日からお世話になります、よろしくお願いしますね♪」
そう言いながらペコリとお辞儀をする姿が可愛らしいと思ってしまったのは内緒だ。
こうして、俺たちは新たな仲間を加えて旅を続けることになった。
その後、街を出た俺達は近くの森へ向かうことにした。
目的はもちろん魔族の調査である。
道中で襲ってくる魔物を倒しつつ進んで行くと、
「きゃあっ！」
不意に悲鳴が聞こえてきたため慌てて駆け寄ると、そこには魔族の女が立っていた。
その女は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ているようだったが、すぐに興味を失ったように顔を背けると立ち去ろうとした。
それを黙って見送るわけにはいかないと思い、呼び止めることにした。
「待ってくれ！あんた、何者だ？」
そう聞くと彼女は立ち止まってこちらを振り返った。
その表情からは何を考えているのか読み取ることはできなかったが、とりあえず質問に答えてもらうために質問を投げかけてみることにした。
「あんたは一体何者なんだ？　どうして俺達を襲ったんだ？」
続けて質問をするが、それに対して彼女は黙ったまま何も答えなかった。
まるで機械のように無機質な表情のままじっとこちらを見つめているだけだったが、
やがて小さくため息をつくと口を開いた。
「はぁ、やっぱりバレちゃったかぁ～。せっかく上手く騙せたと思ったのになぁ～」
その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾクッとするのを感じた。
まさかとは思っていたが、本当に魔族だというのか……？
だとしたらまずいことになるかもしれない。
咄嗟に身構えようとするが、それよりも先に相手が動き出していた。
目にも止まらぬ速さで距離を詰めてくると、一瞬で間合いを詰められてしまった。
咄嵯に剣を抜いて応戦しようとしたが間に合わず、腹に強烈な一撃を叩き込まれた。
あまりの痛みに悶絶していると、相手は俺の首を掴んで持ち上げた。
息が出来ずにもがくが、力が強すぎて振り解けない。
このままでは窒息してしまうと思ったその時、急に手を離されて地面に落とされた。
咳き込みながら見上げるとそこにはアリアの姿があった。
彼女が助けてくれたようだ。お礼を言おうと口を開く前に口を塞がれてしまう。
そしてそのまま路地裏まで連れていかれたところでようやく解放された。
息を整えながら顔を上げると目の前にいた人物を見て驚いた。
そこにいたのはルティアだったからだ。
（あれ、なんでこんなところにいるんだ？）
疑問に思ったが、それよりも早くここから逃げなければという思いの方が強かったため急いで立ち上がると走り出そうとしたのだが、
その前に腕を掴まれてしまった。
振り返るとそこに居たのはやはり彼女だった。
そのままいてイロイロして過ごすと翌朝、目が覚めたら隣に裸の少女が寝ていた。
一瞬、状況が理解できずに混乱したが、すぐに昨夜の出来事を思い出した。
そうだ、昨日この娘を引き取ったんだった。
（まさか、こんなに可愛い娘が家に来てくれるなんて思わなかったな）
そんなことを思いながら眺めていると、視線に気付いたのか目を覚ましたようで眠そうな目でこちらを見てきた。
まだ寝ぼけているのかボーッとした様子だったが、しばらくするとハッとした様子で飛び起きると顔を真っ赤にして慌てだした。
その様子が可愛くてつい笑ってしまうと、ますます顔を赤くした。
そんな姿を見ているとなんだか微笑ましく思えてきて自然と笑みが溢れていた。
それからしばらく雑談をしていると、ふと気になったことがあったので聞いてみることにした。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったよね」
そう言うと、彼女はキョトンとした顔で見つめ返してきた。
どうやら名前を聞かれるとは思っていなかったらしく戸惑っている様子だったが、少し考えた後で答えてくれた。
「えっと、名前ですか……？　そうですね、特に決まったものはないんですけど、強いて言うなら……〝闇夜の月〟でしょうか」
そう言われてもいまいちピンと来なかったので聞き返すと、今度はわかりやすく説明してくれた。
まず最初に、彼女の種族は夜になると真の力を発揮することができるらしい。
そのため、普段は人間の姿になって生活しているのだとか。
ちなみに、昼間は普通の人間とほとんど変わらない程度の力しか出せないらしい。
ただし、満月の夜だけは別で、普段とは比べ物にならないくらい強くなるという。
また、身体能力も大幅に向上するため、普通の男性ならば相手にもならないほどの強さを誇るらしい。
そして、最大の秘密がもう一つあった。
それは、彼女自身が魔族であることだった。
つまり、人間と敵対する存在ということだ。
だが、それも昔の話であり、今は人間に危害を加えるつもりは無いらしい。
むしろ、人間を守りたいと考えているくらいだ。
だからこそ、正体を隠して人間のふりをしていたのだ。
しかし、ある日のこと、彼女は自分が魔族であることを知られてしまい、追われる身となってしまった。