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しかも相手は少女の姿をしているが人間ではない。
魔族なのだということを思い知らされた気分だった。
「同胞かよ」
「そうですよ、貴方は敵を作りすぎです。魔王様」
そう言う通りを切り裂いて出て行った。
「わかったから離せって」
渋々手を離すと、今度は後ろから抱きつかれた。
「もう離さないからね」
そう言って、腕に力を込めてくる。
正直言って苦しいのだが、悪い気はしなかったので放っておく事にした。
そして、しばらくして落ち着いたところで声をかける事にした。
「なぁ、そろそろ離れてくれないか?」
しかし、返事は返ってこなかった。
その代わりに寝息が聞こえてくるだけだった。
どうやら眠ってしまったらしい。
仕方がないのでこのまま寝かせておく事にした。
翌朝、目が覚めると隣には誰もいなかった。
どうやら先に起きて朝食の準備をしているようだ。
いい匂いが漂ってくることから察するにスープか何かだろうか?
とりあえず起き上がって居間に向かう事にした。
台所では予想通り彼女が料理をしていたところだった。
こちらに気づくとニッコリと笑って出迎えてくれた。
その姿はいつもの幼女ではなく美少女の姿だったのでドキッとしたが平静を装って挨拶を返す事にした。
「おはよう」
俺は挨拶をすると椅子に座った。
その様子を見た彼女は不思議そうに首を傾げていたが、やがて納得したような表情になり頷いた。
どうやら誤解は解けたらしい。
良かったと思ったのも束の間、彼女はとんでもない事を言い出したのだ。
「それじゃあ、ご飯にしようか」
と言って鍋をかき混ぜ始めたのである。
(おいおいマジかよ……勘弁してくれよ)
心の中で悪態をつくが彼女には届かない。
仕方なく待っていると、目の前に出されたものはどう見ても人間の食べ物ではなかった。
肉や野菜などが煮込まれたシチューのようなものだったが、色がおかしい上に変な臭いがするのだ。
恐る恐る口に運ぶと舌が痺れるような感覚が襲ってきた。
思わず吐き出しそうになるが何とか堪える事ができた。
「お、おいしいよ、さすがだなぁ」
そう言うと嬉しそうに微笑んでくれた。
食事が終わると食器を片付けてから部屋に戻った。
今日は疲れたので早めに寝る事にする。
ベッドに横になるとすぐに眠気がやってきた。
明日は何が起こるのだろうか?
そんな事を考えながら眠りについたのだった。
翌日、目を覚ますと既に日が高く昇っていた。
時計を見るとすでに11時を過ぎていた。
慌てて飛び起きると急いで支度をする事にした。
部屋を出るとちょうど隣の部屋から出てくるところであった。
向こうもこちらに気づいたようで挨拶をしてくる。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
笑顔で話しかけてくる彼女にドキッとしたが平静を装って答える。
「ああ、ありがとう、助かったよ、少し寝すぎな気もするが」
すると彼女が心配そうに顔を覗き込んできた。
ドキドキしながら目を逸らすと誤魔化すように言った。
「……いや別に大丈夫だよ」
そう言って歩き出す。
背後からの視線を感じながら歩くこと数分、ようやく目的地が見えてきたようだ。
大きな建物で看板には『冒険者ギルド』と書かれているのが見えた。
中に入ると酒場が併設されており、昼間だというのに大勢の人で賑わっているようだった。
受付らしき場所へ向かう途中、周囲からの視線が気になったが気にしないようにした。
カウンターに着くと愛想の良さそうなお姉さんに話しかけられた。
「ようこそいらっしゃいました、本日はどういったご用件でしょうか?」
丁寧な口調ではあるがどこか事務的な感じがするのは俺の気のせいではないだろう。
緊張しながらもなんとか言葉を絞り出すようにして伝えることができた。
「ギルドに登録したいんだ、名前は、リュート」
俺は名前を告げてから冒険者カードを差し出した。
それを受け取った女性は内容を確認すると頷いて返してきた。
「リュート? 貴方魔王リュート?」
そう言われて驚いた表情になる。
まさか本名が知られているとは思わなかったからだ。
慌てて否定しようとするも言葉が出てこない。
そんな様子を見て彼女はクスリと笑った後でこう言った。
「隠さなくてもいいのよ、私はリリア、これでも元聖女なの、だから貴方の事はよく知っているわ」
それを聞いてホッとしたものの疑問が残る。
なぜ俺がここにいることを知っているのかという事だ。
それを尋ねると彼女は笑いながら答えてくれた。
「ふふ、それはね、私が《未来予知》スキルを持っているからよ」
そう言いながらウインクしてくる彼女に思わず見惚れてしまった。
改めて見ると本当に美人だと思う。
スタイルもいいし、胸だって大きい方だ。
(なんで胸なんか気にしているんだ)
自分の思考に違和感を覚えたが、それよりも今は依頼を達成させることが先決だと思い直すことにした。
俺は早速、森の奥にある湖へと向かう事にした。
道中は特に問題もなく進むことが出来た。
むしろ順調すぎるくらいだった気がする。
しばらく歩いているうちに目的の場所に辿り着いた。
そこは森の中でも特に開けた場所で、太陽の光が降り注いでいるため明るく暖かかった。
周囲を見渡すと綺麗な水を湛えた池があり、その中央には小さな島があるのが分かった。
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