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突然のことに驚いたものの、特に抵抗せずにいると、
「酷いわよね、貴方の父親は、母のマリアを捨てて今度はあなたも捨てて逃げたのよ、しかも私を奴隷として売った挙句、お金を手に入れるためにね、本当、信じられないわ」
と言って頬を膨らませてみせる彼女の表情は、
怒っているというよりは、拗ねているようだった。
それを見た俺は、申し訳ない気持ちになったので素直に
謝ることにした。
だが、それだけではなかった。
俺は俯くと
「魔王なんてみんなそんなもの、魔王となっている貴方も多分どす黒い父親の血が流れているのでしょう? だからそんなに卑屈になっているんだわ、私は知っているわよあなたの父親もどうしようもない奴だったってことくらい。だって私があなたを選んだ理由はただひとつ、あなたは私と同じ匂いを感じたから、それだけで十分だったから、ただそれだけなのよ、それ以外の理由なんてない、さぁ、早く私の前に跪きなさい!そうしたらあなたに本当の名前を与えてあげる、あなたが私に服従するというのならね、どうかしら、悪い話じゃないと思うのだけど、それともやっぱり、所詮人間の身で魔王になるような男は、その程度の覚悟しかないのかしら?ふふ、だとしたら残念でした、おあいにく様だけど諦めてもらうしかなさそうねぇ?」
(くそっ、こいつ本気で言ってやがる、どうする? 殺してもいいが父親を侮辱するなんて許せるはずないだろう?)
「なぁ、フィリア、お前はこの俺、魔王・リュートの妻だよな?」
「ええ、愛する夫・魔王・リュート様貴方の妻ですわ!」
「なら、俺の前に跪いて貴方愛していますわって言ってみろよ!」
これは妻なのだからでは無い、夫の父親を侮辱した、この女への制裁だ。
俺の言葉に一瞬だけ目を見開くとすぐに元の表情に戻ったが、
それでも動揺しているのか僅かに身体が震えているのが見えた。
その様子を見ていて、何となく楽しくなってきたので更に追い打ちをかける事にした。
まず最初にしたのはキスをすることだった。
いきなり唇を奪われたことで驚いていたようだが、
構うことなく続けた。
最初は戸惑っていた様子だったが、次第に慣れてきたのか自分から求め始めたところで一旦離れることにする。
俺は次に彼女の頬を平手で打ち据えた。
パァンという乾いた音が響き渡ると同時に彼女の小さな体が吹き飛ぶ。
倒れたまま起き上がろうとしない彼女を放置したまま、
部屋を出ていくことにした。
後ろから、嗚咽混じりの声が響いてきた気がしたが無視した。
(さて、これからどうするか……)
俺は考えを巡らせた。
今、最優先すべき事は何なのか、そしてそのためには何をすれば良いのかということをひたすら考えた結果、
一つの結論に達したのである。
「ソフィア、ごめんやりすぎた」
少し時間をかけて戻ればソフィアが抱きついてきた。
「愛しています、我が魔王・リュート様」
ああ可愛い奴だなあ、そう思いながら頭を撫でると
その手を取って口づけされたのでドキドキしていると、
突然部屋の扉が開いた音がした。
驚いて振り返るとそこに立っていたのはやはりと言うべきか、
例の女剣士だった。
その表情からは感情が読み取れないほど無表情であったが、
俺にはわかる。
こいつは怒っていると……、俺は立ち上がると女の前まで
歩いていき、胸ぐらを掴むとそのまま壁に押し付けた。
そして強引に顔を近づけると耳元で囁くように言った。
「お前のせいでこうなったんだ責任取れよな?」
と言うと一瞬きょとんとしていたが意味がわかったのか、
顔を赤らめた後恥ずかしそうに俯いたかと思うと、
小さく頷いてきたので、
「なら、魔王軍にアイレインって女騎士がいる、一騎打ちして勝ってこい!」
と命令を下したところ快諾してくれたため、さっそく向かうことになったのだが……。
なんでフィリアのやつはなれないんだ?
「そんなの決まっていますわ、私が貴方の妻だからです」
「そうかよ、まぁいい、じゃあ早速行くとしようぜ、ほら行くぞ!」
そう言って手を引くと歩き出す。
道中何度か話しかけられたような気がするがよく覚えていない、気がついたら目的地に着いていたのでよしとする事にしたのだかそこで予想外の事態が発生したのであった。
どうやら道に迷ったらしい事が判明した為、取り敢えず辺りを探してみる事になったわけだが、これが中々見つからない上に段々と日も暮れてきてしまったので今日はもう諦める事にしようかと思っていた矢先、不意に声をかけられた。
声の主はフードを被った女性らしき人物だった。
見た目からして怪しい事この上ないその人物は俺の存在に気付いたらしく声をかけてきたのである。
一体何の用なのだろうかと思っていると彼女が口を開く。
「貴方は……人間ですね、それにかなり強い力を持っているようですね、素晴らしい才能の持ち主だと思います、どうですか、私達と一緒に来ませんか?きっと楽しいですよ」
そう言うと、手を差し伸べてきたのだがその瞬間脳裏に声が響いた。
「すまない、俺は魔王・リュートだ、君の誘いには乗れない」
そう言った瞬間空気が重くなる。
「魔王ですって?」
やはり、勇者パーティーの1人だったか?
俺が身構えるも彼女も身構える。
まずい、こんなところで戦闘になったら周りに被害が出るかもしれない、なんとかしなければ……!
そう思った時だった。
突然、視界が揺れたかと思えば、地面に叩きつけられていた。
何が起きたのかわからないがどうやら彼女に投げ飛ばされたようだ。
咄嵯のことで反応できなかったが幸い怪我はないようで安心する。しかし、起き上がる暇もなく押さえつけられてしまった。
彼女は俺を見下ろしながら言った。
「ふふふ、油断しましたね、リュートだからあなたはダメなのよ! このまま殺してあげましょうか?」
その顔は嗜虐的な笑みを浮かべており、背筋が凍るような恐怖を感じるほどだった。
元パーティメンバーに殺されるのか?
俺が……?
どうしてこうなったんだろう。
わからない、わかりたくもない、いや、最初からこうなる
運命だったのかもしれない。
それならいっそここで死ぬべきなのか?
そうすればもう苦しむことはないのかもしれない。
でも、やっぱり嫌だ。
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