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「こんにちは、勇者様」
そこにいたのは、美しい少女だった。
年齢は十代前半といったところだろうか?
髪は金色で、瞳は蒼く澄んでいる。
顔立ちは非常に整っており、まるで人形のように可愛らしい容姿をしていた。
服装は白いワンピースを着ており、手にはバスケットを持っているようだった。
彼女はニッコリと微笑むと、自己紹介を始めた。
「初めまして、私はアリアと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
丁寧な口調で話すその姿はとても上品に見えた。
育ちの良さを感じさせる佇まいをしていることから、いいところのお嬢様か何かなのだろうと思った。
そんなことを考えていると、彼女が再び口を開いた。
「あのぉ、どうかなさいましたか?」
首を傾げながら尋ねてくる姿にドキッとする。
慌てて視線を逸らすと、話題を変えることにする。
「いや、何でもないよ。それよりも、何か用事でもあるのかい?」
そう尋ねると、彼女は思い出したように手を叩くと言った。
「そうでした! 忘れるところでしたわ!」
そう言って手に持っていたバスケットを差し出してくる。
「これをどうぞ召し上がってくださいまし」
差し出されたものを受け取ると、中を覗き込んだ。
するとそこにはサンドイッチが入っていた。
どうやら手作りのようだ。
それを見た途端、急にお腹が空いてきたような気がしたので、遠慮なくいただくことにした。
(にしても、妻によく似ているな)
俺はそう思いながら目の前のアリアと名乗る女性を見つめていると
「あら、そんなに見つめられると照れてしまいますわ」
と言って頰を赤く染める仕草が可愛らしく思えた。
そんな彼女を見ていると、なんだかドキドキしてくるような感覚に襲われた。
もしかして、これが一目惚れというやつなのだろうか?
そう思った瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
(いやいや、何を考えてるんだよ、俺は)
頭を左右に振って邪念を振り払おうとするが上手くいかない。
それどころか余計に意識してしまう始末だ。
心臓の音がうるさいくらいに高鳴っているのがわかる。
顔も真っ赤になっていることだろう。
そんな俺の様子を不審に思ったのか、彼女が声をかけてきた。
「どうされましたか?」
と心配そうに顔を覗き込んでくる姿がまた可愛くてたまらない気持ちになる。
ダメだと思いつつも我慢できなかった俺は彼女にこう聞いていた。
「君は本当に初めてなのか? アリア、俺だ、魔王リュートだよ」
それを聞いた瞬間、彼女の顔色が変わり、警戒するような眼差しを向けてきた。
それを見て確信すると同時に落胆した。
やはりダメだったかと思い諦めかけた時、彼女が予想外の行動に出た。
なんと自ら跪いて来たのである。
「やはり、貴方だったのですね、我が夫のリュート様」
ソレで確信に変わった。
このアリアは我が世界のアリアであると……、そして、目の前にいる少女は俺の知っているアリアではないと……。
だが、それでも構わないと思った。
たとえ別人だとしても、目の前にいる少女が愛しい存在であることには変わりないのだから……。
だから、俺は彼女を抱きしめた。
最初は驚いていたようだが、すぐに受け入れてくれたようで、背中に手を回してきた。
それからしばらくの間、抱き合っていたのだが、やがてどちらからともなく離れると、見つめ合う格好になった。
お互い無言のまま時間が過ぎていく中で、先に沈黙を破ったのは俺だった。
「久しぶりだね、アリア」
そう言うと、彼女は微笑みながら答えてくれた。
「はい、お久しぶりです、あなた」
その笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられるような感じがした。
「なんか姿が子供と言うのが、変なんだけど」
「あら、貴方は元の姿のままなのですね」
その言葉にハッとした。
そうだ、今の俺の姿は元のままだ。
魔王としてと言うより、しかも、勇者なんて言われている。
これでは立場が違うじゃないか!
そう思って身構えていると、彼女は言った。
「安心してください、今の貴方に危害を加えるつもりはありませんから」
それを聞いてホッと胸を撫で下ろす。
しかし、同時に疑問が浮かんだので聞いてみることにした。
「じゃあ、どうして俺を呼んだんだ?」
その問いに彼女は答えた。
「それはですね、貴方にお願いがあるからです」
その真剣な眼差しを見て、ただ事ではないと感じた俺は黙って続きを待った。
しばらく待っていると、ようやく決心がついたのか、
ゆっくりと話し始めた。
「この世界でも夫でいてくださいまし」
と言うと、深々と頭を下げたのだった。
突然の言葉に驚きを隠せなかった。
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。
だが、それ以上に嬉しかったのも事実だ。
だってそうだろう?
自分が愛していた人に求められるということは、男としてこれ以上ない幸せなのだから、
だから、俺も覚悟を決めることにしたんだ。
彼女を受け入れる覚悟を……。
それからしばらくして落ち着いた頃を見計らって声をかけた。
すると、彼女は顔を上げてこちらを見つめてきた。
その瞳には涙が浮かんでいるように見えたが、気のせいではないだろう。
それほどまでに追い詰められていたのだと思うと心が痛んだが、今は自分のことよりも彼女のことが心配だった。
なので、そっと抱きしめて頭を撫でてあげることにした。
そうすると安心したのか体の力が抜けていったのがわかったので、
「あいしている、アリア、また再会出来てうれしいよ」
そう言って微笑みかけると、彼女も微笑み返してくれた。
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