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12.

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「座っていいのかな? 父さんいないし、どうせ誰も見てないし」
「よしっ」
と意気込んで座る。意外と座り心地はいいものだ。
それからしばらく待ったが誰も来る気配はない。
そこでふと思う。
(これってもしかして罠じゃないのか?)
そんな考えが浮かんでいると
「随分楽しそうだな? 俺の椅子はそんなに、座りたかったのか?」
急な声に戸惑い振り向けば玉座を背にして寄りかかる一人の男性の姿が見えた。
「父さん、なんでこんな」
「お前を許せだなんて、皆が言うから、ついな、で、何時まで座っている気だ? 我が子よ」
「父さん……」
「俺はお前の行為を怒っている気は無いぞ、勝手に出て行かれて許せる親はいないだろう?」
「家出くらいさせてくれよ、それに、息子の事を言われたくらいで部下に手を上げるような父親だとは知りたくなかったかな」
そう言うと父親はニヤリと笑って言った。
「あれは、あいつが悪いんだろう? それにお前が出て行く必要はなかったぞ、俺が全て終わらせてやったからな」
その一言を聞いて怒りが込み上げてくる。
「俺は、あんたのせいで人生狂わされたんだ、そんな姿は望んでない」
そう叫ぶと俺は剣を構えた。
「へぇ、やる気か? なら仕方ない」
そう呟くと父親の体から魔力が溢れ出す。
(なんだこれ)
その圧倒的な力の前に圧倒されていると、父親が言った。
「安心しろ、殺しはしない、ただ少し痛い目を見てもらうだけだ」
そう言った瞬間目の前に現れると俺の腹を殴った。
「うぐっ」
鈍い痛みが全身を駆け巡る。
(やばい、このままだと殺される)
俺は慌てて立ち上がると距離を取る。
「どうした? 俺はお前にちゃんと言っていただろう? 『父を敬え』と」
「その教え方も、間違っている、息子の生き方を強制する事が父親のする事かよ」
「いいや、違うね、間違ったことをした時に正すのが親の務めさ」
そう言って殴りかかってくる父の拳を避けることができない。
避けようとした時には既に殴られていたからだ。
吹き飛ばされ壁に叩きつけられるが何とか意識を保つことができた。
そんな俺を見て父は言った。
「まだ倒れないか、なかなかやるじゃないか」
そう言って近づいてきた父が俺を抱きしめる。
突然の行動に戸惑っていると耳元で囁かれた。
「流石は俺の子だな、強く育ってくれて嬉しいよ」
「なっ、」
そのまま、無言で蹴り飛ばされる。
魔剣で切られないだけましなのかもしれない。
そう思った時再び蹴られた。
今度は腹に一発入れられて咳き込む。
そんな俺に容赦なく振り下ろされる拳を受け止めようとするが簡単に弾かれてしまう。
その後も何度も殴られた後、床に押さえつけられて首を掴まれる。
徐々に力が込められていき息が出来なくなる。
「うっ」
苦しみながらもなんとか抵抗しようとするが無駄だった。
やがて意識が薄れていく中で聞こえた言葉がある。
それは今まで聞いた事のない優しい声で告げられた言葉だった。
「これでおしまいだ、お前はよく頑張った、今は気絶していなさい、目が覚めたら、また話を聞いてあげよう」
その言葉を聞き終える前に俺の意識は途切れたのだった。
気がつくとそこはベッドの上だった。
(ここは何処だ?)
そう思って体を起こすとそこには母さんがいた。
「起きたのね、よかったわ無事で」
そう言うと優しく抱きしめてくれた。
(あれっ? なんで母さんがいるんだろ)
疑問に思っていると母さんが言った。
「どうしたの?」
不思議そうに見つめる母さんの顔を見ているうちに思い出した。
(そうだ、俺は負けたんだ)
それを認識すると涙が溢れ出した。
それを黙って見ている母さんは何も言わずに背中をさすってくれた。
「ここに、魔王が訪れた時は驚いたわ、貴方を返すと」
そう言われてもなんの事だかわからない。
「貴方は、魔王城の地下に囚われていたのよ、それに、魔族の姿に変えられていたみたい」
「えっ」
それを聞いて驚く。
(嘘でしょ、なんで)
「それで、今お父さんは何処にいるの?」
そう聞かれて俺は答えた。
「わからない、多分、自分の城に戻ったんじゃないかな」
「そう、じゃあ行きましょうか」
そう言って母さんは俺の手を引いた。
「行くって、どこに」
「決まっているじゃない、貴方の生まれた場所によ」
そっと微笑まれる。
俺は生まれ故郷に返された。
急な理不尽の返却に戸惑う。
「ねぇ、リュート」
「何、母さん」
話しかけられたので聞き返すと意外な答えが返ってきた。
「実はね、貴方に言っていなかったことがあるの」
その言葉に首を傾げると彼女は話し始めた。
「私ね、貴方が産まれる前から貴方のことを知っていたのよ」
そう言って微笑む彼女に困惑するが構わず話を続ける。
「私は、彼に恋をした、で貴方が生まれた、貴方が最初に管轄していた村に来た時は驚いたと言っていたわ」
そこまで話すと一度区切ってから続きを話した。
「最初は信じられなかったけど、確かに彼の魔力を感じ取れたと言っていて、確信に変わったわ、彼は本当に私のところに来てくれたんだって」
嬉しそうに語る母を見ていると自然と涙が流れてきた。
そんな俺に彼女が言った。
「大丈夫、これからは私が傍に居るから泣かないで、それとこれは私から彼へのプレゼントだから受け取ってくれるかしら」
そんなことを言って渡されたものは一本の短剣だった。
鞘から抜いてみると刃の部分が白く輝いていた。
そんな俺を見ながら母が言う。
「聞きなさい、リュート、貴方の父親はね魔王なのよ、世界一かっこいいんだから」
そんな台詞を聞きながら俺は剣を握りしめた。
父親が本当に魔王だったと知って驚いた、多々の養子だと思っていたから、なのに、父親である、クロードは何も言わなかった。
「俺はそれでも、まだ、あの人のしたことが許せない、母さん、有難う、父さんの所にもう一度行って来るよ」
「一人では、無理よ」
「呼ばれてなくても、行かないといけない、父さんが俺を返したのだって、気に入らないしね」
そう言うと、母さんは呆れたように笑っていた。
「わかったわ、でも気を付けて、相手は魔王なんだから」
「うん、行ってきます」
そう言って俺は歩き出した。
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