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(マジかよ、あの人娘に甘すぎだろ)
そんなことを考えながら呆然としていると、突然抱きつかれる。
「うわぁ」
驚いていると、ルーティアは嬉しそうな表情で言った。
「これで私達は恋人ですね」
その一言に俺は固まった。
「こ、こいびと」
「はい、だって私達結婚するのですから」
「はぁ? ありえないだろう?」
「だからお城に戻りませんか、お父さんもは心配していますよ」
そんな訳あるかと思いながらも反論できずにいると抱きしめられてしまう。
その瞬間頭の中が真っ白になった。
(何これ、すごい柔らかいんだけど……それにいい匂いがする)
そんなことを考えているうちに段々と顔が近づいていくのがわかる。
(やば、このままだとキスしちゃうんじゃ……)
そんなことを考えていたらいつの間にか唇が触れ合っていた。
(うぉぉぉぉぉい! なんでこうなったぁぁぁぁぁぁぁあ!!)
そんなことを考えているうちにだんだん頭がぼーっとしてきて何も考えられなくなる。
どれくらい時間が経っただろうか。気がつくとベッドに押し倒されていた。
「ふふ、やっと大人しくなってきましたね」
「お城に帰りましょう、リュート」
そう言われた途端俺は、彼女を押し退けて壁に置かれた剣を掴んだ。
「断る!!」
そう言うと同時に斬りかかる。しかし、避けられてしまった。
「なぜですか? お父さまは貴方の事を心配していましたよ」
「うるさい! どうせまた閉じ込められるだけだろ!」
叫びながら何度も何度も攻撃するが一向に当たる気配がない。
(くっそぉ、全然当たらない、このままじゃ埒が明かないな)
そう判断した俺は一気に距離を詰めると首元を狙って切りかかった。
だがそれをあっさりと躱されてしまう。
「まだやりますか?」
にっこりと微笑む顔とそのオーラで分かった。
「ねぇ、君はなんで、何時も、何時も、私の言う事を聞いてくれないのかな」
その言葉で確信に変わる、目の前のこの人は、ルーティアではない、そもそも、あの城でルーティアなんて人の話は一度も聞かなかった。
「父さん、息子をたぶらかして、何をなさっているんですか」
「おや、気づいていたのかい」
父さんはそう言って笑う。
「当たり前だ、いくら父さんでもやりすぎだ、俺に何をするつもりだ」
睨みつけながら問いかけると父さんは言った。
「お前こそ何を言っているんだ、お前は俺の息子だ、つまりは後継者だぞ、それなのになんだ帰るとは」
「はぁ? ふざけるなよ、勝手に連れてきておいて何を」
「お前のために、お前の好きな魔族にしてやったんだぞ、感謝されてもいいくらいだ」
「ふざけんじゃねぇよ、人を魔族にしておいてよくもまぁそんなこと言えるな」
「ふん、なんとでも言えばいい、とにかく、お前には、魔王城に来てもらう、拒否権はない」
そう言って転移の魔法を使うと次の瞬間には別の場所にいた。
「ここは、魔王城の地下だよ、少しここで頭を冷やしなさい」
そう言うとどこかに行ってしまった。
「くそぉ」
(どうすればいいんだよ)
そんな事を考えているうちに疲れからか眠ってしまったようだ。
目が覚めると辺り一面が血の海になっていた。
その光景を見て唖然としていると不意に声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは母さんだった。
「あら、起きたのね、よかったわ無事で」
そう言って近づいてくる姿に恐怖を感じた俺はその場から逃げ出した。
背後から声が聞こえたような気がしたが無視して走り続ける。
(なんなんだこれは)
走りながらも周囲を見渡すと辺りに転がっている死体の山が目に入った。
その全てが見覚えのある人物ばかりだ。
その中に見知った顔を見つけて近づくと声をかける。
「おい、しっかりしろ、何があった?」
するとその男は顔を上げて答えた。
「ぐふっ……リュート……さん?」
血を吐きながら俺の顔を見て驚いたような顔をする男に問いかけた。
「一体何があったんだ?」
すると男は言った。
「わかりません……急に……魔王様が暴走し始めて……みんな……殺されました……」
その言葉を聞いて背筋が凍った。
(嘘だろ……なんで、こんなことになってるんだよ)
心の中で自問していると男が呟いた。
「リュートさんは逃げて……ください……」
その言葉に思わず聞き返す。
「どういうことだ?」
「僕はもう長くありません、せめて最後に、貴方には生き残って欲しい……」
その言葉に、俺は答える。
「わかった、あとは任せてくれ」
そう言うと、男は安心したように目を閉じると、そのまま動かなくなった。
(クソッ、俺は無力だ)
そう思うと悔しくて涙が出そうになる。
(だけど、泣いている暇なんてない)
そう思い、顔を上げると、俺は歩き出した。
(俺はこんなところで死ぬわけにはいかない)
そして、俺は走り出した。
俺は走る、ただひたすらに、生き残るために、そして俺は辿り着いた。
父親である、あの人の待っているであろう、魔王の間、普段ここに入るのが、こんなに怖かったことはあっただろうか?
この先に居るのは、優しい父親ではないだろう。
俺は、ゆっくりと重たい扉に手をかける。
親子の会話ができるかすらわからないのだ。
そのまま扉を押して行った。
「暗いな」
部屋の暗さに戸惑う。
「闇に抱かれ、安心して生きろ。それが父さんの口癖だったな?」
暗がりの中、玉座へと歩いて行く。
相手が不在な事に、ほっとした。
俺はここに来てから一度も玉座に座ったことはなかったなと思い興味を持つ、
後継者なのに、一度も座ったことのない椅子、それがこの玉座だった。
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