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第三話 若林博士、最後の挑戦!
第三章 Mの困惑(3) 若林宅(3)
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「長かったわね。大?」
顔に合わない下品なことを言う美奈の頭を、正木は無言のままこづいた。
面倒だから用が済んでもトイレにいただけだ。あと、少しだけ掃除。
「まーちゃん、ちゃんと手洗った?」
こづかれたところを押さえて、美奈がふと心配そうな顔になる。正木はにやっと笑って答えた。
「だから今、おまえの頭で拭いたんだ」
「やー、きったなーいっ!」
わめく美奈は放っておいて、正木は夕夜に目を向けた。
「うまくごまかせたか?」
何を、とは問い返すまでもない。
「何とも微妙なところですね」
正直に夕夜は答えた。
「最初に出たあなたの声と、僕の声は明らかに違うと断言しましたからね」
「ちー、まずったなー。まさかこんな朝っぱらからヘンリーがかけてくるとは思わなかったもんなー」
ダイニングに戻りながら正木はぼやいた。
「〝ヘンリー〟?」
それを耳に留めて、美奈が繰り返す。
瞬間、正木はしまったという顔になった。
「もしかして、まーちゃん、その人とすごく親しいの?」
「いや、まあ……アメリカに留学してたときな」
正木は言葉を濁して頭を掻いた。できることなら一生言わずに済ませたかったことだ。
「えー、そんなこと、さっきは全然言わなかったじゃなーい」
美奈は怒ったように声を上げたが、夕夜は何となくその理由がわかるような気がした。誰しも語りたくない過去の一つや二つはある。
「じゃあ、若ちゃんはそのこと知ってるの?」
だが、美奈は追及の手をゆるめない。しかも、的確に正木の痛いところばかりを突いてくる。
「まあ……ある程度はな。あ、夕夜。結局、ヘンリーの奴、どんな用でかけてきたんだ?」
まだ何か言いたそうな美奈を制して、正木は夕夜に救いを求めた。
「さあ……用件までは……とにかく若林博士に用があるようでしたよ。大学のほうにかけ直すって言ってました」
「若林にねえ……どっちも変なこと言わにゃーいいが……とりあえず俺は緊急避難だ。何か用があったら携帯にかけろ」
正木はテーブルの上に置きっぱなしにされていたメモ用紙の一枚目――そこにはウォーンライトの連絡先の電話番号が書いてあった――を破りとって自分のジーンズのポケットに押しこめると、足早にダイニングを出た。
「緊急避難って……いったいどこに?」
すでにもう玄関へと向かっている正木に、あわてて夕夜は叫んだ。
「俺の実家。今はそこがいちばん安全だ。……あまり気は進まないがな」
正木は前を向いたまま片手を挙げた。
「実家?」
思わず美奈と声がそろってしまう。
「あなたにそんなものがあったんですか?」
「……あって悪かったな」
正木はすねた顔をして振り返った。
「叔父貴の家だよ。とにかくもうここにはいられない。――ヘンリーが来る」
「どうして?」
美奈がきょとんとする。
「どうしてそんな人がうちに来るの?」
「さっきの電話でバレた」
くたびれたスニーカーをつっかけながら、正木は説明した。
「奴は若林と違って勘がいいんだ。俺がここにいると知ったら、必ず会いに来る。もしかしたら本当に若林に電話して、口を割らせてから来るかもしれないが……俺だったらそんなことしないで、まっすぐここに来る。いなけりゃいないで、夕夜に一目会いたかったとか何とか言い訳できるからな。とにかく俺がここにいちゃまずいんだ。夕夜、ヘンリーが来てもまたうまくごまかせよ。おまえだけが頼りだ。じゃあな」
一気にそれだけ言って、正木が玄関のドアを開けかけたそのとき。
来客を告げるチャイムが鳴った。
「……はい」
正木が顔をしかめてドアを閉め直すのを横目で見ながら、夕夜はリビングに戻ってインターホンの通話ボタンを押した。モニタにも映っているが、ちょうど逆光になっていてよく見えない。
『先ほどお電話したウォーンライトですが』
まごうことなきあの低い声が、スピーカーから流れてきた。
「だから言ったろ」
無表情に正木は肩をすくめた。
「奴は勘がいいって」
これはもう勘がいいとか悪いとかのレベルではないような気がしたが、当面の問題はウォーンライトに何を言うかである。
夕夜の困惑を感じとったか、正木は再び家に上がると、夕夜を押しのけてインターホンの前に立った。
「何の御用でしょうか?」
驚いたことに、正木は夕夜の口調をそっくり真似てそう返した。目を閉じてしまえば、夕夜と聞き分けがつかない。だが、普段のべらんめえ調に慣れ親しんでいる夕夜たちには、その姿はかなり不気味に映った。
『君に会いに来たんだよ、ガイ』
笑いを噛み殺しているかのような声。
正木凱博士はあきらめたように天井を仰ぐと、深い溜め息をついた。
「おまえ、どこから電話かけた? 早すぎるぞ。まさかこの家張ってたわけじゃねえだろうな」
開き直ったか、正木はいきなりいつものべらんめえ調に戻った。やはりこちらのほうがしっくりする。
『まさか! 単にタクシーの中で携帯電話でかけていただけさ。あせったよ。ぐずぐずしていたら、きっと君は、すぐにまたどこかへ行ってしまうと思ったからね。――ところで、僕とは会ってくれないのかい?』
正木は叩き壊すかのようにボタンを押すと、どかどかと廊下を歩いていって玄関に下り、再びスニーカーをつっかけて外に出た。
「やあ。何年ぶりかな」
閉じられた黒い鉄製の門の向こうには、異国の男が一人立っていた。
正木の陰で夕夜たちはひそかに感心した。一言で言ってしまえば〝いい男〟、なのである。
年は正木や若林と同じくらいだろう。若林よりわずかに高い長身をベージュのトレンチコートで包んでいる。褐色の髪は自然に整えられ、端整な顔は柔和な笑みをたたえていた。
それなのに、横から正木の顔を覗いてみると、彼は不愉快そうにその男を見ているのだった。
「話なら外でしよう」
そのままの表情で正木は言った。
「ここは若林の家だ。駅まで行きゃー喫茶店の一つや二つあるだろう。――じゃあな。夕夜。美奈」
正木はぞんざいに片手を振ると、ウォーンライトのほうに向かって歩き出した。
事情はよくわからないが、正木とウォーンライトの間には、何か浅からぬ因縁がある……らしい。
「ちょっと待ってよ!」
正木が門に手をかけたところで、美奈が猛然と正木に駆け寄った。
何をするのかと思いきや、美奈は正木に思いきりしがみついたのだった。
「な、何だッ?」
「私も行く!」
ぎゅっと正木の腕にしがみついたまま、美奈は言った。
「私も行くって……おまえな」
正木は呆れたように美奈を見下ろした。
「だって、何だかよくわかんないけど、ここでまーちゃんと離れたら、もう一生会えないような気がするんだもの! 私はそんなの嫌! まーちゃんは私たちといなきゃ駄目なの!」
他人が聞いたら無茶苦茶に思うだろう美奈の主張に、正木も夕夜もはっと胸を突かれた。
きっと、美奈は正しい。彼女は考える前に感じるのだ。だから理屈なんていらない。
「彼女が〝美奈〟ちゃんかい?」
門ごしにウォーンライトが美奈を覗きこんだ。〝さん〟をつけるには幼すぎると美奈は判断されたらしい。確かに、美奈の言っていることだけを聞いていたら、そう思われても仕方がない。
「ああ。まだ起動してから日が経ってないから、安定してないとこがある。……ほら、美奈。離れろ。話が済んだら戻ってくるから」
「私も連れてってくれるって約束してくれなきゃ嫌!」
美奈は頑として正木から離れない。
正木は助けを求めるように夕夜を振り返った。それに応えて夕夜も門の前へ行く。
「そして彼が――」
ウォーンライトの緑色の目は、今度は夕夜に向けられた。
「先ほどは失礼いたしました。夕夜です」
夕夜は軽く頭を下げた。
間近で見るウォーンライトは、やはり相当な美男子だった。こう言っては何だが、とてもロボット工学者とは思えない。まるで映画俳優のようだ。
「いいや、こちらこそ。ガイにそう言われたんだろう? 以前から、君には一度会いたいと思っていたよ。よかったら、握手してもらえないかな?」
ウォーンライトはそう言って、門の間から大きな手を差し出してきた。
夕夜はちらっと正木を見、正木がやってやれと軽くうなずくのを確認してから、その手に自分の手を重ねた。
表皮の硬い、けれど温かな手だった。若林の手によく似ている。
ウォーンライトは力強く握って二、三度振ると、静かに離した。
そういえば、何となく雰囲気も若林に似ているような気がする。図体が大きいくせに威圧感を与えないところとか、妙に礼儀正しいところとか。
「正直言って、君たちがロボットだとは、とても信じられない」
夕夜と美奈を見比べながら、感嘆したようにウォーンライトは言った。
「僕にはまったく人間のように見えるよ。ロボットだということを知っていてもね。――ガイ、君さえよかったら、僕は彼らにも来てもらいたい。彼らには僕たちの話を聞く権利があると思うんだ。君と若林の〝子供たち〟としてね」
それに気づいたのは自分だけだったのか――
夕夜はあわてて正木と美奈を見、そして安堵した。
彼らも夕夜と同じように、驚愕の表情をしていた。
本来なら、ウォーンライトの言う〝子供たち〟とは、〝子供〟でなくてはならない。
正木と若林の〝子供〟は美奈一人であり、夕夜は若林一人の〝子供〟であるからだ。――世間的には。
「OK。行こう。夕夜、美奈、戸締まりしてこい」
だが、正木は不敵に笑うと、一気に門を開け放った。
正木とは、そういう男なのだ。
顔に合わない下品なことを言う美奈の頭を、正木は無言のままこづいた。
面倒だから用が済んでもトイレにいただけだ。あと、少しだけ掃除。
「まーちゃん、ちゃんと手洗った?」
こづかれたところを押さえて、美奈がふと心配そうな顔になる。正木はにやっと笑って答えた。
「だから今、おまえの頭で拭いたんだ」
「やー、きったなーいっ!」
わめく美奈は放っておいて、正木は夕夜に目を向けた。
「うまくごまかせたか?」
何を、とは問い返すまでもない。
「何とも微妙なところですね」
正直に夕夜は答えた。
「最初に出たあなたの声と、僕の声は明らかに違うと断言しましたからね」
「ちー、まずったなー。まさかこんな朝っぱらからヘンリーがかけてくるとは思わなかったもんなー」
ダイニングに戻りながら正木はぼやいた。
「〝ヘンリー〟?」
それを耳に留めて、美奈が繰り返す。
瞬間、正木はしまったという顔になった。
「もしかして、まーちゃん、その人とすごく親しいの?」
「いや、まあ……アメリカに留学してたときな」
正木は言葉を濁して頭を掻いた。できることなら一生言わずに済ませたかったことだ。
「えー、そんなこと、さっきは全然言わなかったじゃなーい」
美奈は怒ったように声を上げたが、夕夜は何となくその理由がわかるような気がした。誰しも語りたくない過去の一つや二つはある。
「じゃあ、若ちゃんはそのこと知ってるの?」
だが、美奈は追及の手をゆるめない。しかも、的確に正木の痛いところばかりを突いてくる。
「まあ……ある程度はな。あ、夕夜。結局、ヘンリーの奴、どんな用でかけてきたんだ?」
まだ何か言いたそうな美奈を制して、正木は夕夜に救いを求めた。
「さあ……用件までは……とにかく若林博士に用があるようでしたよ。大学のほうにかけ直すって言ってました」
「若林にねえ……どっちも変なこと言わにゃーいいが……とりあえず俺は緊急避難だ。何か用があったら携帯にかけろ」
正木はテーブルの上に置きっぱなしにされていたメモ用紙の一枚目――そこにはウォーンライトの連絡先の電話番号が書いてあった――を破りとって自分のジーンズのポケットに押しこめると、足早にダイニングを出た。
「緊急避難って……いったいどこに?」
すでにもう玄関へと向かっている正木に、あわてて夕夜は叫んだ。
「俺の実家。今はそこがいちばん安全だ。……あまり気は進まないがな」
正木は前を向いたまま片手を挙げた。
「実家?」
思わず美奈と声がそろってしまう。
「あなたにそんなものがあったんですか?」
「……あって悪かったな」
正木はすねた顔をして振り返った。
「叔父貴の家だよ。とにかくもうここにはいられない。――ヘンリーが来る」
「どうして?」
美奈がきょとんとする。
「どうしてそんな人がうちに来るの?」
「さっきの電話でバレた」
くたびれたスニーカーをつっかけながら、正木は説明した。
「奴は若林と違って勘がいいんだ。俺がここにいると知ったら、必ず会いに来る。もしかしたら本当に若林に電話して、口を割らせてから来るかもしれないが……俺だったらそんなことしないで、まっすぐここに来る。いなけりゃいないで、夕夜に一目会いたかったとか何とか言い訳できるからな。とにかく俺がここにいちゃまずいんだ。夕夜、ヘンリーが来てもまたうまくごまかせよ。おまえだけが頼りだ。じゃあな」
一気にそれだけ言って、正木が玄関のドアを開けかけたそのとき。
来客を告げるチャイムが鳴った。
「……はい」
正木が顔をしかめてドアを閉め直すのを横目で見ながら、夕夜はリビングに戻ってインターホンの通話ボタンを押した。モニタにも映っているが、ちょうど逆光になっていてよく見えない。
『先ほどお電話したウォーンライトですが』
まごうことなきあの低い声が、スピーカーから流れてきた。
「だから言ったろ」
無表情に正木は肩をすくめた。
「奴は勘がいいって」
これはもう勘がいいとか悪いとかのレベルではないような気がしたが、当面の問題はウォーンライトに何を言うかである。
夕夜の困惑を感じとったか、正木は再び家に上がると、夕夜を押しのけてインターホンの前に立った。
「何の御用でしょうか?」
驚いたことに、正木は夕夜の口調をそっくり真似てそう返した。目を閉じてしまえば、夕夜と聞き分けがつかない。だが、普段のべらんめえ調に慣れ親しんでいる夕夜たちには、その姿はかなり不気味に映った。
『君に会いに来たんだよ、ガイ』
笑いを噛み殺しているかのような声。
正木凱博士はあきらめたように天井を仰ぐと、深い溜め息をついた。
「おまえ、どこから電話かけた? 早すぎるぞ。まさかこの家張ってたわけじゃねえだろうな」
開き直ったか、正木はいきなりいつものべらんめえ調に戻った。やはりこちらのほうがしっくりする。
『まさか! 単にタクシーの中で携帯電話でかけていただけさ。あせったよ。ぐずぐずしていたら、きっと君は、すぐにまたどこかへ行ってしまうと思ったからね。――ところで、僕とは会ってくれないのかい?』
正木は叩き壊すかのようにボタンを押すと、どかどかと廊下を歩いていって玄関に下り、再びスニーカーをつっかけて外に出た。
「やあ。何年ぶりかな」
閉じられた黒い鉄製の門の向こうには、異国の男が一人立っていた。
正木の陰で夕夜たちはひそかに感心した。一言で言ってしまえば〝いい男〟、なのである。
年は正木や若林と同じくらいだろう。若林よりわずかに高い長身をベージュのトレンチコートで包んでいる。褐色の髪は自然に整えられ、端整な顔は柔和な笑みをたたえていた。
それなのに、横から正木の顔を覗いてみると、彼は不愉快そうにその男を見ているのだった。
「話なら外でしよう」
そのままの表情で正木は言った。
「ここは若林の家だ。駅まで行きゃー喫茶店の一つや二つあるだろう。――じゃあな。夕夜。美奈」
正木はぞんざいに片手を振ると、ウォーンライトのほうに向かって歩き出した。
事情はよくわからないが、正木とウォーンライトの間には、何か浅からぬ因縁がある……らしい。
「ちょっと待ってよ!」
正木が門に手をかけたところで、美奈が猛然と正木に駆け寄った。
何をするのかと思いきや、美奈は正木に思いきりしがみついたのだった。
「な、何だッ?」
「私も行く!」
ぎゅっと正木の腕にしがみついたまま、美奈は言った。
「私も行くって……おまえな」
正木は呆れたように美奈を見下ろした。
「だって、何だかよくわかんないけど、ここでまーちゃんと離れたら、もう一生会えないような気がするんだもの! 私はそんなの嫌! まーちゃんは私たちといなきゃ駄目なの!」
他人が聞いたら無茶苦茶に思うだろう美奈の主張に、正木も夕夜もはっと胸を突かれた。
きっと、美奈は正しい。彼女は考える前に感じるのだ。だから理屈なんていらない。
「彼女が〝美奈〟ちゃんかい?」
門ごしにウォーンライトが美奈を覗きこんだ。〝さん〟をつけるには幼すぎると美奈は判断されたらしい。確かに、美奈の言っていることだけを聞いていたら、そう思われても仕方がない。
「ああ。まだ起動してから日が経ってないから、安定してないとこがある。……ほら、美奈。離れろ。話が済んだら戻ってくるから」
「私も連れてってくれるって約束してくれなきゃ嫌!」
美奈は頑として正木から離れない。
正木は助けを求めるように夕夜を振り返った。それに応えて夕夜も門の前へ行く。
「そして彼が――」
ウォーンライトの緑色の目は、今度は夕夜に向けられた。
「先ほどは失礼いたしました。夕夜です」
夕夜は軽く頭を下げた。
間近で見るウォーンライトは、やはり相当な美男子だった。こう言っては何だが、とてもロボット工学者とは思えない。まるで映画俳優のようだ。
「いいや、こちらこそ。ガイにそう言われたんだろう? 以前から、君には一度会いたいと思っていたよ。よかったら、握手してもらえないかな?」
ウォーンライトはそう言って、門の間から大きな手を差し出してきた。
夕夜はちらっと正木を見、正木がやってやれと軽くうなずくのを確認してから、その手に自分の手を重ねた。
表皮の硬い、けれど温かな手だった。若林の手によく似ている。
ウォーンライトは力強く握って二、三度振ると、静かに離した。
そういえば、何となく雰囲気も若林に似ているような気がする。図体が大きいくせに威圧感を与えないところとか、妙に礼儀正しいところとか。
「正直言って、君たちがロボットだとは、とても信じられない」
夕夜と美奈を見比べながら、感嘆したようにウォーンライトは言った。
「僕にはまったく人間のように見えるよ。ロボットだということを知っていてもね。――ガイ、君さえよかったら、僕は彼らにも来てもらいたい。彼らには僕たちの話を聞く権利があると思うんだ。君と若林の〝子供たち〟としてね」
それに気づいたのは自分だけだったのか――
夕夜はあわてて正木と美奈を見、そして安堵した。
彼らも夕夜と同じように、驚愕の表情をしていた。
本来なら、ウォーンライトの言う〝子供たち〟とは、〝子供〟でなくてはならない。
正木と若林の〝子供〟は美奈一人であり、夕夜は若林一人の〝子供〟であるからだ。――世間的には。
「OK。行こう。夕夜、美奈、戸締まりしてこい」
だが、正木は不敵に笑うと、一気に門を開け放った。
正木とは、そういう男なのだ。
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