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1 . 襲撃と討伐
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公民館ごと鬼を爆破したあと、やはり方々から苦情が入った。
「田んぼが瓦礫だらけになった。」
「稲が倒れた。」
「畑が燃えた。」
「公民館が避難所として使えなくなった。」
「爆発音で心臓が止まりかけた!」
などなど……、災害の連続で、しかも重ねて鬼の襲撃に怯えて暮らす人たちにはあれだけ大きく響きわたった爆発音には相当に怖い思いをさせてしまったことだろう。そのことは事前に通達もせず、怖い思いをさせてしまい申し訳ないと思うものの、後の言い分はどうだろう?と新田は思う。
公民館を避難所として、使えなくなったというが、先に鬼に壊されていたし、あのまま鬼の寝ぐらにされていたのなら、避難所としては当然使えないだろう。それでも公民館を使うのは鬼のエサになりに行くようなものだ。
爆発の影響で使えなくなった田や畑も同様で、ダメになった作物はもったいし、悪いとも思うが、爆発の影響を受けたということは、鬼のいるところの近くの畑だったということだ。
そんな田や畑に行くのはやっぱり、鬼のエサになりに行くようなものだろう。
だから、大半の苦情は鬼がいなくなったからこその苦情だと言えた。
そうは思っても、苦情を言ってくる相手には中々伝わらない。結果、今回の作戦に従事した者たちがこの地域に居にくい雰囲気になってしまった。
いくらこちらが正しいと思ったことを言っても、相手側には相手側の正しさがあり、一旦、悪くなってしまった雰囲気を変えることは難しい。
そこで、畑中さんの言っていた『鬼を倒す方法を教えてくれる町』というのを探しに行くことになった。
森の守はここから南西にその町はあると言っていたと言うが、大雑把すぎる。そこまでの距離も、目印も、どんな町なのかもわからないのだ。
無理難題をふっかけられて、体よく追い払われる気がするのは俺だけではないはずだ。
それでも、怪我をしている俺までその旅に参加させるのはやり過ぎだと思ったのか、俺は居残り組になった。
俺としては一緒に行きたかったが、化膿止めに抗生剤も使えない昨今、旅先で怪我が悪化し、死なれても寝覚めが悪いというとこだろう。
「日奈も本当に行くのか? どれくらいかかるか分からないんだぞ。」
樹は数度目となる質問を心配そうに日奈に尋ねる。
尋ねられた日奈は同じ応えを繰り返す。
「行くよ。樹兄ちゃんも麗奈も行くんでしょ?私だけ独りなんてイヤ。残りたくないよ。」
「酒井のおばちゃんのところなら、いれるだろ?食べるものにも不自由するような旅になるかも知れないんだぞ。」
「でも、一緒に行く!絶対行くから。」
それ以上の説得は諦めたのか、樹は大きなため息をついた。
日奈には血の繋がった親族はもう従兄の樹だけだ。流星群の飛来した後、最初の地震で両親が亡くなり、近くに住んでいた母の弟夫婦、樹の家族に引き取られた。その後の富士山の噴火の影響で元いた場所には住めなくなり、樹の母親の実家を頼ってここまで来た。ここに来る途中で、樹の両親は帰らぬ人となり、再会を果たした樹の祖父母も二年の間に相次いで黄泉路へと旅立ってしまった。樹には姉の花音がいたが、花音も鬼に食べられ、日奈と樹は二人だけになった。
麗奈は樹が好きなんだ。だから、樹が旅立つと言えば、一緒に行くと言うはずで、実際、麗奈は最初から行くと言って聞かなかった。
樹も麗奈の好意をなんとなく気づいていて、悪くも思ってないから、一緒に行くのに強く反対しないんだ。
こんな時代によく恋愛なんかできるなって思う。私には信じられない。間違って赤ちゃんでもできたらどうするのか。病院もないのに、自殺するようなものなんじゃないのかって思う。
第一、自分のお腹から人が出てくるって、ホラー以外のナニモノでもない。
まぁ、人のお腹から、人以外の犬とか猫とか虫とか……そんなのが出てくるほうがホラーだろうけど。
なんで人を産めるなんて簡単に信じられるんだろう。
男の子のほうが、女は子どもが産めると思ってる。男の子は自分が子どもを産めるとはかけらも思っていないのに。女の子たちだって、産めると思ってない子は大勢いるはず。
自分のお腹から出てくるものはエイリアンだ。産みたいと思うわけがない。
それでも……恋をすれば変わるのだろうか?私が誰かを好きになれる日がくるとも思えないけど。
「しょうがないか……。酒井のおばちゃんたちにはちゃんと挨拶しとくんだぞ。」
「うん! ありがと。」
やっと折れた樹にご機嫌に日奈は返したところで、気になっていたことを尋ねる。
「ねぇ、あの子も行くの?」
日奈は少し離れたところにいる同年代の男の子を見た。
「ああ、類くん? ちょっと乱暴なトコあるよね。」
麗奈が分かってると言いたげに言うが、私の言いたいことは違う。
「類は乱暴じゃないよ。確かに集団行動はちょっと苦手だけど、気は使えるし、大丈夫だよ。」
樹兄ちゃんまで勘違いしている。
「そうじゃなくて、その隣の……。」
「いつも類くんと一緒にいる子?なんていったっけ?……持木くんかな?」
「朝陽か?持木朝陽だよ。朝陽は大丈夫。問題行動を起こすようなやつじゃないし、結構重たいのも運べるから、頼りになるさ。」
「へぇ、見かけにやらないんだね。」
麗奈が樹兄ちゃんの話に感心してるが、そうじゃない。私が気にしてるのはそんなことじゃないんだけど、言えないし、伝えるすべを持ってないから、返す言葉が分からずに黙ってしまう。
「大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「大丈夫。」
あの子が行くなら、悪い予感しかしないけど、仕方ないから、なるべく近寄らないようにしよう。
そう心に決めて旅の準備をする。
田畑に散乱した瓦礫の除去や旅の準備に二週間ほどとり、あまり秋が深まらないうちに鬼との闘い方を教えてくれるという町を探しに旅立った。
「田んぼが瓦礫だらけになった。」
「稲が倒れた。」
「畑が燃えた。」
「公民館が避難所として使えなくなった。」
「爆発音で心臓が止まりかけた!」
などなど……、災害の連続で、しかも重ねて鬼の襲撃に怯えて暮らす人たちにはあれだけ大きく響きわたった爆発音には相当に怖い思いをさせてしまったことだろう。そのことは事前に通達もせず、怖い思いをさせてしまい申し訳ないと思うものの、後の言い分はどうだろう?と新田は思う。
公民館を避難所として、使えなくなったというが、先に鬼に壊されていたし、あのまま鬼の寝ぐらにされていたのなら、避難所としては当然使えないだろう。それでも公民館を使うのは鬼のエサになりに行くようなものだ。
爆発の影響で使えなくなった田や畑も同様で、ダメになった作物はもったいし、悪いとも思うが、爆発の影響を受けたということは、鬼のいるところの近くの畑だったということだ。
そんな田や畑に行くのはやっぱり、鬼のエサになりに行くようなものだろう。
だから、大半の苦情は鬼がいなくなったからこその苦情だと言えた。
そうは思っても、苦情を言ってくる相手には中々伝わらない。結果、今回の作戦に従事した者たちがこの地域に居にくい雰囲気になってしまった。
いくらこちらが正しいと思ったことを言っても、相手側には相手側の正しさがあり、一旦、悪くなってしまった雰囲気を変えることは難しい。
そこで、畑中さんの言っていた『鬼を倒す方法を教えてくれる町』というのを探しに行くことになった。
森の守はここから南西にその町はあると言っていたと言うが、大雑把すぎる。そこまでの距離も、目印も、どんな町なのかもわからないのだ。
無理難題をふっかけられて、体よく追い払われる気がするのは俺だけではないはずだ。
それでも、怪我をしている俺までその旅に参加させるのはやり過ぎだと思ったのか、俺は居残り組になった。
俺としては一緒に行きたかったが、化膿止めに抗生剤も使えない昨今、旅先で怪我が悪化し、死なれても寝覚めが悪いというとこだろう。
「日奈も本当に行くのか? どれくらいかかるか分からないんだぞ。」
樹は数度目となる質問を心配そうに日奈に尋ねる。
尋ねられた日奈は同じ応えを繰り返す。
「行くよ。樹兄ちゃんも麗奈も行くんでしょ?私だけ独りなんてイヤ。残りたくないよ。」
「酒井のおばちゃんのところなら、いれるだろ?食べるものにも不自由するような旅になるかも知れないんだぞ。」
「でも、一緒に行く!絶対行くから。」
それ以上の説得は諦めたのか、樹は大きなため息をついた。
日奈には血の繋がった親族はもう従兄の樹だけだ。流星群の飛来した後、最初の地震で両親が亡くなり、近くに住んでいた母の弟夫婦、樹の家族に引き取られた。その後の富士山の噴火の影響で元いた場所には住めなくなり、樹の母親の実家を頼ってここまで来た。ここに来る途中で、樹の両親は帰らぬ人となり、再会を果たした樹の祖父母も二年の間に相次いで黄泉路へと旅立ってしまった。樹には姉の花音がいたが、花音も鬼に食べられ、日奈と樹は二人だけになった。
麗奈は樹が好きなんだ。だから、樹が旅立つと言えば、一緒に行くと言うはずで、実際、麗奈は最初から行くと言って聞かなかった。
樹も麗奈の好意をなんとなく気づいていて、悪くも思ってないから、一緒に行くのに強く反対しないんだ。
こんな時代によく恋愛なんかできるなって思う。私には信じられない。間違って赤ちゃんでもできたらどうするのか。病院もないのに、自殺するようなものなんじゃないのかって思う。
第一、自分のお腹から人が出てくるって、ホラー以外のナニモノでもない。
まぁ、人のお腹から、人以外の犬とか猫とか虫とか……そんなのが出てくるほうがホラーだろうけど。
なんで人を産めるなんて簡単に信じられるんだろう。
男の子のほうが、女は子どもが産めると思ってる。男の子は自分が子どもを産めるとはかけらも思っていないのに。女の子たちだって、産めると思ってない子は大勢いるはず。
自分のお腹から出てくるものはエイリアンだ。産みたいと思うわけがない。
それでも……恋をすれば変わるのだろうか?私が誰かを好きになれる日がくるとも思えないけど。
「しょうがないか……。酒井のおばちゃんたちにはちゃんと挨拶しとくんだぞ。」
「うん! ありがと。」
やっと折れた樹にご機嫌に日奈は返したところで、気になっていたことを尋ねる。
「ねぇ、あの子も行くの?」
日奈は少し離れたところにいる同年代の男の子を見た。
「ああ、類くん? ちょっと乱暴なトコあるよね。」
麗奈が分かってると言いたげに言うが、私の言いたいことは違う。
「類は乱暴じゃないよ。確かに集団行動はちょっと苦手だけど、気は使えるし、大丈夫だよ。」
樹兄ちゃんまで勘違いしている。
「そうじゃなくて、その隣の……。」
「いつも類くんと一緒にいる子?なんていったっけ?……持木くんかな?」
「朝陽か?持木朝陽だよ。朝陽は大丈夫。問題行動を起こすようなやつじゃないし、結構重たいのも運べるから、頼りになるさ。」
「へぇ、見かけにやらないんだね。」
麗奈が樹兄ちゃんの話に感心してるが、そうじゃない。私が気にしてるのはそんなことじゃないんだけど、言えないし、伝えるすべを持ってないから、返す言葉が分からずに黙ってしまう。
「大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「大丈夫。」
あの子が行くなら、悪い予感しかしないけど、仕方ないから、なるべく近寄らないようにしよう。
そう心に決めて旅の準備をする。
田畑に散乱した瓦礫の除去や旅の準備に二週間ほどとり、あまり秋が深まらないうちに鬼との闘い方を教えてくれるという町を探しに旅立った。
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