7 / 10
7
しおりを挟む
湧泉の中に宮城らしきモノを見てから、夜毎夢を見るようになっていた。
最初の夜は 手を引かれ、どこかに預けられる夢。手を引いてくれて居たのは大好きな声の人だった。顔は分からないけど、声がそうだったんだ。
2日目
水の中を覗き込む夢を見る。
水の中に宮城が見える。よく見るとそれは和風というより、街の周囲をぐるっと塀に囲まれた中国の古都の様な街並みで、所々に高層階の建物がある。
あんなに栄えていたのに…
そう思うと悲しくなる。誰も居ない街。誰も居ないだろうに、その街は荒れておらず、無人なのが不思議なぐらい、綺麗に整備が行き届いている。
街の中央には宮殿があり、水の外から見ているにも関わらず、中の様子が分かった。透けて見えると言うより、その場所を思い出すような感覚に近かった。
朱色の門や、柱や梁を彩る螺鈿細工の輝き、中庭の珊瑚のオブジェ。廊下を彩る青色の光。
全てが懐かしく、まるで故郷を恋うかのように、その場所が恋しかった。
3日目
水の中の宮城を覗き込む。
幼い人達が集まる広場。コンサートや劇が催されたステージ。美味しい物が沢山並んだ屋台に市場。整然と屋根の並んだ街並み。賑やかな喧騒が直ぐにでも聞こえてきそう。
全てが今にも動き出しそうなのに、誰も居ない。静か過ぎる街。
あんなに大勢居たのに…もう、誰も居ない。
宮殿が目に入る。広く、この街の威容を見せつけるかのように立派な宮殿。
宮殿にも大勢の人達が居たのに。今は一人。宮殿どころか、この宮城にたった一人。一人でここを護ってる。
そう思うと、心がギュと痛む。
目が覚めると、涙が出ていた。
4日目
夢の中で、私は何処かから逃げていた。私の周りには複数の人の気配がする。集団で逃げているようだった。
街に戻りたい。私は残りたかったのに。
そんな私の願いは聞き届けられる事は無く、早く早くと、周りに急かされる。周りの人達も必死な様子だった。
「ここまで来れば大丈夫なはずです。」
さぁ!と促されて陸に上がる。
押しては寄せる波を振り返りながら、前に前にと押し出されてしまう。
置いて来てしまった事に対する後悔が、胸を占めて、どうしても、そこを離れがたい。たたらを踏む私に
「待っていれば、必ず迎えに来られます。○○様はご無事なはずですから!あんな者達に遅れを取るはずがありません。」
ぐずる私に剛を煮やしたのか、強い口調で先にと促される。否応なく、先に進むより他は無かった。
5日目
水の中の宮城を見る。
そこに暮らしていた人達を思うと、胸を締め付けられる様な思いがする。胸が張り裂けそうな気持ちでいると、無表情の子供達の顔が次々と浮かんできた。知ってる子は誰もいない。
無表情の子供達は悲しそうでもあり、寂しそうでもあった。
何とも言えない苦しさで目が覚める。
初めは湧泉の中に見たモノが何なのか知りたかった。夢の中でだけでも、あの不思議な声の人と逢えたら、もっと関わる事が出来たら良いのに…と思っていた。
でも、連日夢を見続け、夢の内容が少しずつ進むにつれて、湧泉の中に見た宮城の夢を見るのが怖くなっていった。
6日目
水の中に宮城を見る。水の外から水の中を覗き込んでる。
かつては繁栄し、賑やかだった街を見て寂しさに囚われる。
昨日までの夢と同じ事をなぞりながら、子供達の顔が浮かんでは消えて行く。やっぱり、今日も子供達の顔に表情は無く、何も手助けが出来ず、見てるだけの自分に心苦しさと申し訳なさが押し寄せる。
子供達の次は大人達だった。大人達の顔も無表情だった。無表情の大人達の顔は悲しそうと言うよりも、恨み辛みに満ちているようで、ゾッとする。そんな人達の顔が次々と浮かんでくる。
あまりの怖さに目が覚める。目が覚めて、目を開けているのに、まだ、無表情な人達の顔が浮かんでくる。
どうして、起きたのに夢の続きを見ているのか。目を閉じて…まだ、見える。目を開けて、まだ、人の顔が次々と浮かんでくる。
どうしたら、消えるのか、いつになったら、この夢は終わるのか。いつ終わるとも知れない顔を見続けて、震える手で自分を抱き締める。
その時、リーン、リーン、リーンとりんを叩く音が聞こえた。
最初の夜は 手を引かれ、どこかに預けられる夢。手を引いてくれて居たのは大好きな声の人だった。顔は分からないけど、声がそうだったんだ。
2日目
水の中を覗き込む夢を見る。
水の中に宮城が見える。よく見るとそれは和風というより、街の周囲をぐるっと塀に囲まれた中国の古都の様な街並みで、所々に高層階の建物がある。
あんなに栄えていたのに…
そう思うと悲しくなる。誰も居ない街。誰も居ないだろうに、その街は荒れておらず、無人なのが不思議なぐらい、綺麗に整備が行き届いている。
街の中央には宮殿があり、水の外から見ているにも関わらず、中の様子が分かった。透けて見えると言うより、その場所を思い出すような感覚に近かった。
朱色の門や、柱や梁を彩る螺鈿細工の輝き、中庭の珊瑚のオブジェ。廊下を彩る青色の光。
全てが懐かしく、まるで故郷を恋うかのように、その場所が恋しかった。
3日目
水の中の宮城を覗き込む。
幼い人達が集まる広場。コンサートや劇が催されたステージ。美味しい物が沢山並んだ屋台に市場。整然と屋根の並んだ街並み。賑やかな喧騒が直ぐにでも聞こえてきそう。
全てが今にも動き出しそうなのに、誰も居ない。静か過ぎる街。
あんなに大勢居たのに…もう、誰も居ない。
宮殿が目に入る。広く、この街の威容を見せつけるかのように立派な宮殿。
宮殿にも大勢の人達が居たのに。今は一人。宮殿どころか、この宮城にたった一人。一人でここを護ってる。
そう思うと、心がギュと痛む。
目が覚めると、涙が出ていた。
4日目
夢の中で、私は何処かから逃げていた。私の周りには複数の人の気配がする。集団で逃げているようだった。
街に戻りたい。私は残りたかったのに。
そんな私の願いは聞き届けられる事は無く、早く早くと、周りに急かされる。周りの人達も必死な様子だった。
「ここまで来れば大丈夫なはずです。」
さぁ!と促されて陸に上がる。
押しては寄せる波を振り返りながら、前に前にと押し出されてしまう。
置いて来てしまった事に対する後悔が、胸を占めて、どうしても、そこを離れがたい。たたらを踏む私に
「待っていれば、必ず迎えに来られます。○○様はご無事なはずですから!あんな者達に遅れを取るはずがありません。」
ぐずる私に剛を煮やしたのか、強い口調で先にと促される。否応なく、先に進むより他は無かった。
5日目
水の中の宮城を見る。
そこに暮らしていた人達を思うと、胸を締め付けられる様な思いがする。胸が張り裂けそうな気持ちでいると、無表情の子供達の顔が次々と浮かんできた。知ってる子は誰もいない。
無表情の子供達は悲しそうでもあり、寂しそうでもあった。
何とも言えない苦しさで目が覚める。
初めは湧泉の中に見たモノが何なのか知りたかった。夢の中でだけでも、あの不思議な声の人と逢えたら、もっと関わる事が出来たら良いのに…と思っていた。
でも、連日夢を見続け、夢の内容が少しずつ進むにつれて、湧泉の中に見た宮城の夢を見るのが怖くなっていった。
6日目
水の中に宮城を見る。水の外から水の中を覗き込んでる。
かつては繁栄し、賑やかだった街を見て寂しさに囚われる。
昨日までの夢と同じ事をなぞりながら、子供達の顔が浮かんでは消えて行く。やっぱり、今日も子供達の顔に表情は無く、何も手助けが出来ず、見てるだけの自分に心苦しさと申し訳なさが押し寄せる。
子供達の次は大人達だった。大人達の顔も無表情だった。無表情の大人達の顔は悲しそうと言うよりも、恨み辛みに満ちているようで、ゾッとする。そんな人達の顔が次々と浮かんでくる。
あまりの怖さに目が覚める。目が覚めて、目を開けているのに、まだ、無表情な人達の顔が浮かんでくる。
どうして、起きたのに夢の続きを見ているのか。目を閉じて…まだ、見える。目を開けて、まだ、人の顔が次々と浮かんでくる。
どうしたら、消えるのか、いつになったら、この夢は終わるのか。いつ終わるとも知れない顔を見続けて、震える手で自分を抱き締める。
その時、リーン、リーン、リーンとりんを叩く音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ザ・マニアック
フルーツパフェ
大衆娯楽
現在の最新作
高級官僚である父親の反対を押し切って警察官の道を歩んだ桜井美里(22)。
親の七光りの誹りから逃れたい彼女は成果を急ぐあまり、初任務のパトロールで一般人男性を誤認逮捕してしまう。
事件が明るみに出れば父親の立場も危うくなる。
危惧した美里は刑事補償として同僚達と一緒にご奉仕をすることに!?
しかしながら清楚な道を歩んできた美里に羞恥の道は歩みがたく。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
京都市左京区下鴨女子寮へようこそ!親が毒でも彼氏がクソでも仲間がいれば大丈夫!
washusatomi
ライト文芸
「女の子に学歴があっても仕方ないでしょ」。京都の大学に合格した美希は、新年度早々に退学するように毒母に命令される。「父親が癌になったのだから娘が看病しに東京の実家に戻ってくるのが当然」と。大学で退学手続きしようとした美希を、金髪でヒョウ柄のド派手な女性が見つけ、したたな京女の営む女子寮へ連れて行き……。京都で仲間と一緒に大学生活を送ることになった美希の解毒と成長を描く青春物語!後半はラブコメ風味です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる