上 下
4 / 33

4.不思議な人

しおりを挟む
「眠れない…」

横になってもう1時間くらい経つ。
いくら目を閉じて羊を数えても一向に眠れる気配がない。

『いろいろありすぎて…気が張ってるのかな』

窓から外を見ると綺麗な月明かりが見える。
そんな暗闇を見ているとなんとなく不安に駆られた。

『シラハ様…もう寝ちゃったかな…』

先に休めと言われ部屋に入ってしまった為、シラハの部屋はどこか知らない。
とりあえず眠れないので、部屋の外に出てダイニングへ向かった。
廊下の明かりはついていたものの、部屋の明かりは消えていて暗く、何がどこにあるのか分からない。

『…やっぱり…いなかった…』

諦めて部屋に戻るしかないと思い方向転換をすると、コツコツと足音がこちらに近づいてくる。
奥からシラハが歩いてきていた。

「シズハ様、お休みになられていたのでは…?それとも何か飲み物でもお持ちしましょうか?」
「ごめんなさい…寝付けなくて…」
「大変な事があったのです、無理もない」
「あの…ご迷惑でなかったら…一緒にいてもいいでしょうか……」
「わかりました、私の部屋の方が広いですから、よければ」

シラハに手を出され、その手を掴むとシズハはそのまま奥の部屋に連れて行ってもらった。
案内され中に入ると、自分がいた部屋より2倍くらい広く、ソファも2人がけ用になっており、書斎机や本棚が置かれている。
シズハがソファに座ると、シラハは水を出してくれた。

「ありがとうございます」
「いえ、私が寝る前でよかった」

出された水を飲むと、それは冷えていてとても美味しかった。

「シ…シラハ様、あの…」
「はい…?」
「偽装とはいえ夫婦になったので、…シズハ・クレーエと名乗ってもよろしいのでしょうか…」
「えぇ、構いませんよ」
「それと…私の事はシズハと…呼び捨てにしていただきたく…敬語も不要ですので…。夫婦になったのに敬語は…、私はともかくシラハ様にはその方が自然かと思いまして…。カロッソさんに話されていたように、私にもお話ください」

少し考えるようにシラハが間をあける。
そして、切り替えが出来たのか口を開いた。

「わかった、これでかまわないか?」
「はい」

ただ隣に座っているだけ。
何か話すわけでも、触れてくるわけでもなく、シラハは隣にいてくれる。
それがシズハにとって安心したのか、次第にウトウトし始め、身体は傾き、シラハの肩に頭を乗せる形になった。
それに気付いたシラハは、ゆっくりと抱き上げると、自分が寝る予定だったベッドへ運び寝かせる。
すやすやと眠るシズハを見て微笑む。
眠れないと言っていたが、横にいる事で安心して貰えたのが嬉しかった。
そして、自分はソファに横たわり眠りについた。

――――――

朝の軟らかな日が差し込み、鴎の鳴き声でシズハは目を覚ました。

「ん…あれ、私…」

見回すと、今まで寝ていた城ではない天井と部屋。

『あぁ…そうだ…私、お城から出たんだった…。それで…連れていかれた船から、シラハ様に連れ出してもらって…ご飯を食べてから寝たんだけど寝付けなくて………!!あれ?!シラハ様は?!』

飛び起きて周りを確認すると、近くのソファでシラハがすやすやと寝ている。

『私にベッドを使わせてくれて…自分はソファで…。優しい方…』

自分の事を攫いに来たのだろうし、国としてはそれは犯罪かもしれない。
それでも攫われた相手がシラハでよかったと、シズハは安堵するのだった。
もしガイツと一緒に行っていたら、今頃無理やり嫌なことをされていたかもしれない…。
そんな事を考えれば、いつかソラに会いに行けるかもしれないとわかっているほうが、望みはあった。
ベッドから起き上がり白羽に近寄る。
白い肌に綺麗な白い髪。

『綺麗な方だなぁ…、私の…旦那様…』

近くの床に座り、空いているソファのスペースに腕を置く。
その上に顔を置いて目を閉じた。

――――――

「おいおい…、部屋に居ないと思ったら…」

部屋にノックしても出てこなかったシズハを心配して、カロッソがシラハに知らせに来ていた。
そこで見たのはソファで眠るシラハと、その傍で寄り添うように寝ているシズハ。

『偽装夫婦と思えん距離だな…、案外姫さんシラハ様の事気に入ってるな?こりゃあ…もしかしたら…いろいろ動くかも知れん…』

カロッソは今まで何度かカマをかけたことがある。
その度にシラハは女性に興味を示さず、お金や権力、ステータスとして自分に寄ってくる女性を嫌い、デートに誘われようが、パーティに招待されようが、仕事ですら女性を避ける始末だった。
シズハの事も仕事だから仕方なくやっている…最初はそう思っていた。
が、何かが違う。
本来なら女性が近くにいるだけで、何かのアンテナが作動して去っていってしまうのに。
こんなに近くにいる女性はカロッソも初めて見た。

「お二人さーん、すやすやと寝てるとこ悪いけど、本土についたから起きてくれー」
「ん………ん?!」

シラハがその言葉に合わせて起きる。
と同時に自分の置かれた状況にギョッとした。
ベッドで寝ていたはずのシズハが自分に寄り添って寝ている。

『どうしたらいいんだこれは…』

「姫様おこしたら、朝食用意してあるからダイニングに来てくれ」

そう言って去っていくカロッソは少しニヤついていたようにも見えた。

『不思議だ…、今こうやって隣にいても嫌と感じないなんて…。昨日初めて船で出会った時も…何故か自然と抱きしめていたし…。いつも女性なんて…避けてきたのに…』

そうシラハは思いながら、シズハの頭に手を伸ばす。
綺麗な黒髪を撫でながらシズハに声をかけた。

「シズハ…朝だ、起きれるか?」
「……ん、う…」

ボーッとした顔をあげ、うつろな目で白羽を見ている。

「……ひゃうっ!!」

シズハの寝ぼけていた顔が突然普通に戻った。

「わ…私、1度起きたのに、また寝てしまってました…ごめんなさい…」
「いや、少しでも休めたのならよかった。カロッソが朝食を用意してくれている、食べに行こう」
「はい」

2人がダイニングにつくと、テーブルには焼きたてのパンと卵焼き、ベーコンとサラダが並べられていた。
朝食を済ませると食器を片付け、ダイニングテーブルの上に地図を置く。
ルートの確認をするためだ。

「今いる位置がここだ」

シラハが指さした場所は、タクタハの島からは相当離れていた。
そして指をなぞって行先のララシュトを指す。
海が続いていれば5日くらいあれば移動出来る距離だが、そうはいかない。
途中には獣の住む森や、山賊の出る山、険しい谷等もあって、進む道は慎重に選ばなくてはならない。
途中で食べ物や水も確保しなくてはならない事も考え、川沿いに進むというルートだった。

「通り過ぎる国や各地域に、同じ種族の仲間が点在してる。夜はそこにお世話になる予定だが、無理に歩いて怪我をしても国王に怒られてしまうから、状況に合わせて臨機応変に行こう」
「わかりました」

ルート確認を終え、船から降りる準備をする。
と言ってもシズハは水筒しか持っていないので、シラハが荷物を持ってくるまでカロッソと待った。

「姫様…、シラハ様の事満更でもないんじゃないですか?」
「えっ…えっ??」
「今日朝見に行ってビックリしましたよ、あんなに近くにいて」
「すみません…1度起きたはずなのですが、いつの間にか寝ていて…。不思議なんです…、なんとなく安心するというか…」
「そうですかい…、2人の相性がいいのでしょう。隣にいても疲れないとは、大事な要素の1つですから。偽装夫婦って関係かもしれませんが、旅が終わるまでは、普通の夫婦のように接してやってください」
「はい」

話し終えてすぐ、シラハが合流し船を降りる。
歩き始めて船が少し小さくなってから別れを惜しんで手を振った。
カロッソから見えた後ろ姿の2人は、しっかりと手を繋ぎ歩いて行く。
女性嫌いだったシラハが愛を知る、そんな旅になる事をカロッソは祈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。 騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。 主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...