DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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128.ドイチュラントという国

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先日白羽の家に来ていなかった亮と愛莉に、ドイツに行く計画がある事を告げる。
すると愛莉が、実は祖母の具合が芳しくなく、何かあったらすぐには帰れない事も踏まえて辞退したいと言ってきた。
愛莉がいかないなら僕も残りますと言う亮。
特にドイツに行く理由も今のところはない。
ただお土産は楽しみにしているらしく、現地のお菓子や土産話等は待っているとの事だった。
2週間過ぎた頃、皆それぞれ申請も終わりパスポートも手元に届いたようだ。
小雪の場合は宝石化しているため、実際に搭乗するのは貴紀だけになるので、その場合は7人分でよさそうだ。
もし海外に行くのであれば、何の下調べもせずその国に行くのは望ましくない。
相手の国のルールや生活の仕方、やってはいけない事等あれば学んでおくべきである。

「よし、皆集まったな」

ドイツに行く予定の8人で集まり、白羽にドイツの事について話してもらう機会を設けた。
自分で調べるのもいいが、やはり一番は知っている人の実際の声を聞くのが理解しやすい。
まずは基本的なところからと、白羽はドイツの名前について語り始めた。

「日本ではドイツとしての名前が馴染みが深いと思うが、正式にはDeutschland(ドイチュラント)という。さらに言うならBundesrepublik Deutschland(ブンデスレプブリーク・ドイチュラント)、日本語で言うならドイツ連邦共和国ってところだな」

え?そうなの?!知らなかった…と空が言う。
日本で生活している分にはドイツで通じるし、特に行く予定もなければそこまで調べないものなので無理もない。
他にもドイチュランドと言う呼び方以外に、他の国では色々な呼ばれ方をしている事も教えてくれた。
ヨーロッパで一番呼び名の多い国なのだ。
これはドイツという国の位置と統一の民族が統治しているわけではなく、色々な民族が混じり合って生活している事による。

「俺は料理をよくするしそうは思わないかもしれないが、ドイツでは食についてはあまり重視しない傾向がある。日本での主食は米だが、ドイツは主にジャガイモでそれと同じくらいよく食べられるのがソーセージや豚肉だ。日本では沢山の皿にそれぞれを盛りつけたり、見た目や味付け等こだわる事も多い。でもドイツでは節約・倹約を美徳とする文化があるため、一つの皿に一人分を盛りつけたり、作った料理をフライパン事出したりする」

他にも日本と違い一日の食事の中で一番大切にしているのは昼食で、暖かいものもそこで食べるのだという。
日本人は夕食に楽しむという人も多いが、ドイツでは活動の多い昼間はしっかりと食べその後寝るだけの夕食は食べすぎずに一日を終わる。
料理の中でジャガイモが主食でソーセージを欲食べるのは、土が肥えておらず寒い地域だったという事もあって、そういった土地でも育つジャガイモと、保存食としてのソーセージが発展していき、今では1500種類ものソーセージが存在する。
海が北側しかなく魚もそこまで取れないことも、そういった食文化になったことの1つなのだろう。
時間に厳しい点は日本と似ているが、違うのは仕事の時間はきっちりとその時間で終わらせ、仕事が終わっていなくても帰るところだ。
夏休みだって2週間もある。
この”も”という感覚も日本人だからであり、家族との時間を大切にしているドイツの人たちにとっては2週間ではリフレッシュできないと言うくらいだ。
長い人は4週間あるらしい。
日曜日はスーパーなども閉店しており平日に済ませておくことや、洗濯できる時間も決まっている事が多い。
道路に面した場所に洗濯物を干すのもご法度だ。
一般家庭にはエアコンはなく、窓を開けて過ごしている。
夏も比較的過ごしやすい20度前後の平均気温気温で、日本のようにジメジメとした湿度の高い気温ではない。
日本人にとっては細かいことにはなるだろうが、何かをすすって音を立てる事を嫌う。
鼻、食べ物もそうだ。
男女問わず思いっきりティッシュで鼻をかむようで、マスクをしていて鼻をすするほうが嫌な顔をされる。

「あぁ…そういえば、日本だとサービスや接客業に関して細やかな気配りができるよう普段から教えているから、客が嫌な思いをすることは少ないと思うが、ドイツはそれができないのが日常だ。サービス砂漠なんて言われるくらいには。それに日本人は相手の事を察したり、遠回しに何かを言って伝えようとするが、ドイツではやらない。はっきりと伝えたいことや感情はぶつけるし、言語上そういう風になっていないからっていうのもある。まぁ常に俺みたいなのがその辺にごろごろいると思ってくれていい」

日本で学んだ事は他国では通用しない。
自分の固定概念をどれだけ取り払い、その地域の文化を受け入れられるか。
郷に入っては郷に従えということだ。
3月の終わりごろにドイツに行くとなっても、日本よりは北に位置するためまだまだ寒い。
冬用の装備を持って行くことを推奨され、白羽は何か質問はないかと皆に聞く。

「治安ってどうなの?」
「そうか、それも話しておくべきだな」

基本的に日本は治安がいい。
夜に女性が一人で歩く事は普通であり、レストランでテーブルにスマホや鞄を置いてそのまま席を立つ人がいても盗まないのが常識であるが、ドイツだけでなく他の国は全く違う。
スリや置引き、窃盗や車上荒らしに関しては日本の約10倍の犯罪発生率と言われており、夜も人通りのない場所に出歩くのは危険である。
席を立つ時は自分で貴重品を持つか、信頼できる人にきちんと預ける等の対策は必要だ。
白羽の家があるデュセルフの街は比較的治安がいい方だが、気は抜かないようにと言われた。
基本的に白羽の家からメイドか執事が一緒に回る事や、白羽自身が会話ができるので任せればよさそうだ。
ドイツにあるデュセルフは日本人が多く、日本語の店も立ち並ぶという。
リトル東京とも言われ、日本人になじみがあるような漢字や文化を取り入れた街で、その地域にホテルも白羽の家も存在する。
今から行くのが楽しみになったと皆が口をそろえて言った。
また何か聞きたい事があればまたあとで聞く事にし、その日はそれで解散となった。

――――――

「亮くん甘い物って大丈夫?」

いつものように放課後校舎近くで発声練習を終えた亮に愛莉が尋ねる。
もうすぐバレンタインということもあって、亮のために何か用意したいと言っていた。
チョコそのものとなるといくつも食べるのはしんどいが、クッキーや生地などに練りこまれていたほうが食べやすいと伝えると、愛莉は頑張ってクッキーを作るねと返している。
その様子を神無月暁人も横で見守っていた。
まさか同じ質問を愛莉から自分にされるとは思わず動揺してしまったが、もらえるなら何でも食べると返すと愛莉は嬉しそうだ。
初めてここで亮に出会ってから暁人はちょくちょく顔を出すようになった。
そうしているうちに愛莉とも話すようになり、学園生活を送る上での名目上友達として行動している。
伝承を調べる事が主な任務だが、人間を観察して知る事も必要だと考えたからだ。
今まで友達や人付き合いなんてものがなかった暁人にとって、なぜ他人に何かを送るのかが理解できなかった。
ただ、そういったわからずとも隣にいるという時間を過ごすうちに、なんとなく他の人間よりは亮達とは行動がとりやすくなっていた。

『なぜ…任務をしている時よりも…心地がいいのだろう…』
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