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96.熱意
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実は和音に美津子が、近々学園祭があることを和音に伝えていたらしい。
学校の行事や必要な事があっても、今までほとんど美津子に頼りきりだった事や、せっかく休みを取るのなら、自分の息子が活躍している時に訪れたかったようだ。
明日も明後日も準備のために遅くなることを白羽が伝えると、しっかりと準備をしてくるように言われた。
そこから寝るまでの間は、いろいろな事を話した。
再会した時の話、住む事になった経緯、学園生活や仲間の事、そして信じてもらえるかはわからなかったが、前世があり仲間がいて、自分たちも生まれ変わりの存在である事。
もしかしたら白羽の呪いが解けるかもしれない事や、静羽の名前、そして今までどう生きて来たのかも語った。
静羽にとって嬉しかったのは、白羽が自分の口から聞く事ができない、幼かったころの白羽の様子を、両親から聞けた事だった。
ドイツに帰ってからずっと静羽に会うために頑張っていた事や、毎日怪我をしながらも朴木に挑み稽古をつけてもらい、強くなろうと努力していた事。
小さい頃から本が大好きで、幼い頃の夢は学者だったのだと言う。
せっかくなのでお風呂に一緒に入らないかと和音に誘われ、静羽は同行することになった。
「本当に白羽でいいの?あの子癖強いけど大丈夫そう?」
そんなことを湯船につかりながら問われる。
愚問だ、むしろ白羽以外にあり得るわけがない。
癖が強いのはそうかもしれないが、その個性的な彼が好きで、自分の隣に他の誰かなんて考えられなかった。
興味のない人間に対しては、相手をしている時間も限られるため、冷たくなったり適当になったりするが、自分の親しい人には優しくきちんと丁寧に対応してくれる。
そしてその彼の好意が自分に向けられているのも、自分が白羽にとって特別な存在である事が嬉しくてたまらなかった。
「自分にできる事ならば、できる範囲のことはします。そして二人で支え合って生きていけるなら、これ以上の幸せはありません」
欲しいのはお金でも名誉でも名声でもない。
ただ白羽と共に、これからの人生をいろいろな事を共有して、一緒に楽しく幸せに過ごしていきたいだけ。
それができるならどれだけでも頑張れる、そう思った。
「そう…白羽もあなたもきっと出会う運命にあったのね。私もヴァイゼさんもね、最初は日本に送り出す事に反対だったの。静羽ちゃんには悪いけど、2週間の間に出会った相手が、白羽との約束を守る確証なんて無かったし、ドイツに帰ってから呪われて、大変な身体になってしまったから余計にね」
それはそうだ。
いくら白羽が一緒に遊んでいるうちに恋に落ちたとは言え、両親は会ったこともなく、2週間という短い期間での出来事は、普通は大人になるにつれ風化していってしまうものだ。
だがその考えは二人共に当てはまらなかった。
何週間も何ヶ月も何年も経とうとも、白羽は両親を納得させるためにひたすらに頑張った。
プレゼントをあげる時に何がいいか聞かれて、日本の学園に行くこととずっと答えるくらいに。
それ以外のプレゼントなどいらないと言い続けた。
その熱意と根気に負け、和音とヴァイゼはとうとう折れたのだ。
しかし、それにも条件があった。
勉学に励むことはもちろん、学園内で優秀な成績を残す事と、20歳までに静羽が来なければ、学園を卒業してしっかり働く事だ。
その条件を全て満たし、白羽は学園生活を送りながら静羽を待っていた。
ドイツからストーカーが来ていようが、そのストーカーに彼女であると言いふらされても、発作で倒れて苦しくても、静羽を信じ待ったのだ。
その話を和音から聞き、静羽は涙をこぼした。
自分が白羽にとって、昔からそんなに大切に想われ、一生懸命に頑張ってくれていた事を知らなかったからだ。
たとえそれが過去の白い鴉から生まれ変わりで惹かれあったのだとしても、今の白羽の姿で待ってくれていた事がたまらなく嬉しかった。
自分が白羽を忘れられず、ずっと会いたいと頑張っていたあの日々は、白羽にとっても同じものだったのだ。
静羽はお風呂から上がり気持ちを整えた。
明日も学校だ。
皆におやすみを言い自分の部屋に戻る。
布団に入る前に明日の準備をしながら考えたのは、学園祭2日目にあるミルカとの試合の事だった。
今まで横にいる事を嫌とは思っても止めはしなかった。
自分よりもミルカのほうがふさわしいかもしれないと、思った事もあったからだ。
ただ、学園生活を送り白羽の事を知り環境に慣れていくうちに、ミルカのやったことがあまりにも酷いと認識した。
『白羽くん…どれだけ苦しかっただろう…。あの状態になってからも、ずっと待っててくれたんだよね…。今の私に出来ること、それは試合をしてミルカさんに勝つ事。もう…白羽くんの彼女ですなんて言わせないんだから!』
ミルカの現在の地位がSランクだろうとも、他の人から見て無謀だと言われようとも、負けられない戦いがある。
勝って皆の前で白状させ、自分がやった事の重大さを認識させ、白羽に謝ってほしい。
謝ったところで何か変わるわけではないし、呪いの解除方法も恐らく言わないだろう。
それでも、狂って歪んだ愛の矛先が白羽に向いている事は許し難い事実。
『大丈夫、絶対に勝つ!白羽くんの彼女は私だもん!』
気合いを入れ気持ちを学園祭へ向けると、布団へ入り眠りについた。
次の日、学園祭の準備期間…教室や部室、そして校庭や体育館、学園のありとあらゆるところが飾り付けられていく。
同じ敷地内にある研究所も関連施設も、学園祭のために動くのだ。
ただの学校の学園祭の規模ではなく、日本中からお客様がくる。
なかには海外からの来賓もおり、どのくらいこの学園祭が大きな事なのか見せつけられているようだ。
これだけの人が集まる事になれば、警備もより厳重になる。
もとより、学園は半分以上が戦闘員であるため、何か下手なことをしても返り討ちにあうだけなのだが、学園祭の期間はいつにも増して戦闘員が増えている。
静羽達も自分達が所属する創作部の飾り付けに追われ、ひと段落したところでステージでの説明、リハーサル、ダンスと歌の確認を行った。
家に帰る頃には2人とも疲れているのだが、帰ったあと迎えてくれる家族と、暖かく美味しい料理が身体にしみる。
実は美津子の計らいで、大事な期間に怪我をしないように、マッサージ師が家に来て白羽と静羽の身体を整えてくれているのだが、これがまた幸せなひと時で、用意してくれた美津子に2人は感謝していた。
学園祭前日、完成した飾り付けを確認し、自分たちで見え方や実際に見るルートを歩く。
設備の点検も完了し、部室のほうはこれで良さそうだ。
リハーサルの時間には実際の出番通りになるよう、全出演グループが歌って踊った。
目の前にお客さんはおらず、今の衣装は学生服のままだったが、当日の衣装を来て披露するのを皆も楽しみにしている。
解散し帰宅する前、部室で、そしてグループで、円陣を組み皆で気合いを入れた。
「明日の学園祭、今まで頑張った分の成果、きっちり出せるように気合い入れていくぞ!」
「おーっ!!」
学校の行事や必要な事があっても、今までほとんど美津子に頼りきりだった事や、せっかく休みを取るのなら、自分の息子が活躍している時に訪れたかったようだ。
明日も明後日も準備のために遅くなることを白羽が伝えると、しっかりと準備をしてくるように言われた。
そこから寝るまでの間は、いろいろな事を話した。
再会した時の話、住む事になった経緯、学園生活や仲間の事、そして信じてもらえるかはわからなかったが、前世があり仲間がいて、自分たちも生まれ変わりの存在である事。
もしかしたら白羽の呪いが解けるかもしれない事や、静羽の名前、そして今までどう生きて来たのかも語った。
静羽にとって嬉しかったのは、白羽が自分の口から聞く事ができない、幼かったころの白羽の様子を、両親から聞けた事だった。
ドイツに帰ってからずっと静羽に会うために頑張っていた事や、毎日怪我をしながらも朴木に挑み稽古をつけてもらい、強くなろうと努力していた事。
小さい頃から本が大好きで、幼い頃の夢は学者だったのだと言う。
せっかくなのでお風呂に一緒に入らないかと和音に誘われ、静羽は同行することになった。
「本当に白羽でいいの?あの子癖強いけど大丈夫そう?」
そんなことを湯船につかりながら問われる。
愚問だ、むしろ白羽以外にあり得るわけがない。
癖が強いのはそうかもしれないが、その個性的な彼が好きで、自分の隣に他の誰かなんて考えられなかった。
興味のない人間に対しては、相手をしている時間も限られるため、冷たくなったり適当になったりするが、自分の親しい人には優しくきちんと丁寧に対応してくれる。
そしてその彼の好意が自分に向けられているのも、自分が白羽にとって特別な存在である事が嬉しくてたまらなかった。
「自分にできる事ならば、できる範囲のことはします。そして二人で支え合って生きていけるなら、これ以上の幸せはありません」
欲しいのはお金でも名誉でも名声でもない。
ただ白羽と共に、これからの人生をいろいろな事を共有して、一緒に楽しく幸せに過ごしていきたいだけ。
それができるならどれだけでも頑張れる、そう思った。
「そう…白羽もあなたもきっと出会う運命にあったのね。私もヴァイゼさんもね、最初は日本に送り出す事に反対だったの。静羽ちゃんには悪いけど、2週間の間に出会った相手が、白羽との約束を守る確証なんて無かったし、ドイツに帰ってから呪われて、大変な身体になってしまったから余計にね」
それはそうだ。
いくら白羽が一緒に遊んでいるうちに恋に落ちたとは言え、両親は会ったこともなく、2週間という短い期間での出来事は、普通は大人になるにつれ風化していってしまうものだ。
だがその考えは二人共に当てはまらなかった。
何週間も何ヶ月も何年も経とうとも、白羽は両親を納得させるためにひたすらに頑張った。
プレゼントをあげる時に何がいいか聞かれて、日本の学園に行くこととずっと答えるくらいに。
それ以外のプレゼントなどいらないと言い続けた。
その熱意と根気に負け、和音とヴァイゼはとうとう折れたのだ。
しかし、それにも条件があった。
勉学に励むことはもちろん、学園内で優秀な成績を残す事と、20歳までに静羽が来なければ、学園を卒業してしっかり働く事だ。
その条件を全て満たし、白羽は学園生活を送りながら静羽を待っていた。
ドイツからストーカーが来ていようが、そのストーカーに彼女であると言いふらされても、発作で倒れて苦しくても、静羽を信じ待ったのだ。
その話を和音から聞き、静羽は涙をこぼした。
自分が白羽にとって、昔からそんなに大切に想われ、一生懸命に頑張ってくれていた事を知らなかったからだ。
たとえそれが過去の白い鴉から生まれ変わりで惹かれあったのだとしても、今の白羽の姿で待ってくれていた事がたまらなく嬉しかった。
自分が白羽を忘れられず、ずっと会いたいと頑張っていたあの日々は、白羽にとっても同じものだったのだ。
静羽はお風呂から上がり気持ちを整えた。
明日も学校だ。
皆におやすみを言い自分の部屋に戻る。
布団に入る前に明日の準備をしながら考えたのは、学園祭2日目にあるミルカとの試合の事だった。
今まで横にいる事を嫌とは思っても止めはしなかった。
自分よりもミルカのほうがふさわしいかもしれないと、思った事もあったからだ。
ただ、学園生活を送り白羽の事を知り環境に慣れていくうちに、ミルカのやったことがあまりにも酷いと認識した。
『白羽くん…どれだけ苦しかっただろう…。あの状態になってからも、ずっと待っててくれたんだよね…。今の私に出来ること、それは試合をしてミルカさんに勝つ事。もう…白羽くんの彼女ですなんて言わせないんだから!』
ミルカの現在の地位がSランクだろうとも、他の人から見て無謀だと言われようとも、負けられない戦いがある。
勝って皆の前で白状させ、自分がやった事の重大さを認識させ、白羽に謝ってほしい。
謝ったところで何か変わるわけではないし、呪いの解除方法も恐らく言わないだろう。
それでも、狂って歪んだ愛の矛先が白羽に向いている事は許し難い事実。
『大丈夫、絶対に勝つ!白羽くんの彼女は私だもん!』
気合いを入れ気持ちを学園祭へ向けると、布団へ入り眠りについた。
次の日、学園祭の準備期間…教室や部室、そして校庭や体育館、学園のありとあらゆるところが飾り付けられていく。
同じ敷地内にある研究所も関連施設も、学園祭のために動くのだ。
ただの学校の学園祭の規模ではなく、日本中からお客様がくる。
なかには海外からの来賓もおり、どのくらいこの学園祭が大きな事なのか見せつけられているようだ。
これだけの人が集まる事になれば、警備もより厳重になる。
もとより、学園は半分以上が戦闘員であるため、何か下手なことをしても返り討ちにあうだけなのだが、学園祭の期間はいつにも増して戦闘員が増えている。
静羽達も自分達が所属する創作部の飾り付けに追われ、ひと段落したところでステージでの説明、リハーサル、ダンスと歌の確認を行った。
家に帰る頃には2人とも疲れているのだが、帰ったあと迎えてくれる家族と、暖かく美味しい料理が身体にしみる。
実は美津子の計らいで、大事な期間に怪我をしないように、マッサージ師が家に来て白羽と静羽の身体を整えてくれているのだが、これがまた幸せなひと時で、用意してくれた美津子に2人は感謝していた。
学園祭前日、完成した飾り付けを確認し、自分たちで見え方や実際に見るルートを歩く。
設備の点検も完了し、部室のほうはこれで良さそうだ。
リハーサルの時間には実際の出番通りになるよう、全出演グループが歌って踊った。
目の前にお客さんはおらず、今の衣装は学生服のままだったが、当日の衣装を来て披露するのを皆も楽しみにしている。
解散し帰宅する前、部室で、そしてグループで、円陣を組み皆で気合いを入れた。
「明日の学園祭、今まで頑張った分の成果、きっちり出せるように気合い入れていくぞ!」
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