DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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23.新しい家

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消防隊がすでに駆けつけ、消火活動をしている。
迅速な対応があったおかげか、被害を受けたのは姫歌の部屋だけで済んだ。
焼け焦げた部屋を見ると、持ってきたものはもう何も使えない状態になっている。
身につけていた白羽がくれた雪のピアスとリボンは無事だったが、失ったものは大きい。
消防隊が姫歌の部屋から、火元が何になったかを調査していた。
ある程度時間が経ってから、姫歌のもとに先生と消防隊から火元の連絡を受ける。

「あの部屋の火元は、消し忘れだと思われる煙草が原因だと、現時点では予測されています」
「私そんな物吸ってませんし、持ってません」
「ご本人がそう言われましても、部屋の燃え残った引き出しの中から、煙草の箱と、机の上から灰皿があったことは事実ですので、これからまた詳しい調査をしなくてはいけません」
「そんな…」

無実だったとしても状況証拠がそうさせてくれない。
これから一体どうしたらいいのだろう。
やっと警察から解放されて学園に入ったのに、また警察に行かなくちゃならない毎日になるのだろうか。
もう気持ちが壊れそうだった。
姫歌は疲れてしまったようで、ちかくのベンチに座り込んで項垂れている。
空が隣に座って寄り添い、手を握って励ましていた。

「桜川さん…、しんどいだろうね…」

遠くから楓真も徹も亮も心配そうに姫歌を見ている。

「あぁ…。悪い、ちょっと急用ができたから一回家に帰る。すぐ戻るから桜川の事見ててやってくれ」
「わかった。」

白羽は楓真と徹にそう伝えると変身して飛んで行った。

20分後、白羽は家から学園の姫歌達がいる位置まで戻ってくる。
姫歌の座る前のベンチまでいくと、姫歌に視線を合わせるように跪いた。
白羽が覗き込む姫歌の顔は心神喪失状態で、瞳には光がない。

「桜川、俺の話聞けるか?」

白羽のその言葉にゆっくりだが姫歌は顔をあげ、コクンと頷く。

「今からうちの当主が学園にくる。桜川の面倒はうちで見る。だからこれからのこと心配しなくていい。住むところもある。事件のことも、ちゃんと解決するまで協力する。だから大丈夫だ、ここにいる仲間は桜川の味方だ」
「……あっ…うっ…うぅ……」

姫歌からこぼれる大量の涙に、白羽は触れてあげたい気持ちもあったが、その役は空に任せ、先生達に話をしに行った。
10分くらい経っただろうか、美津子も朴木と共に駆けつけ、姫歌の姿を見るや抱きしめた。

「大丈夫よ姫歌さん、私達のうちにいらっしゃい。今学園と話をしてくるからね」
「はい……ありがとう…ございます……」

泣きながら返す姫歌の頭を美津子は撫でると、先生達に連れられ応接室に通された。
最近あった事の確認とこれからの事を話し合う為だ。

「学園で現在よからぬ噂が立っていると孫から聞きました。それに噂だけでは収まらず、実際に桜川さん側に被害がでていると」
「学園の方で現在確認している問題としては、この間実施された答案用紙が改ざんされていた事と、寮の部屋侵入により、桜川さんの持ち物に被害が出ていた事です。それに付け加え、今回の火災。学園側でも警察や消防と調査をしていた所でした」

担当の鈴木先生が説明すると、横にいた小太りの教頭が鼻で笑う。

「ふん、今回の火災は煙草の火が原因と言うではないか…。どうせ改ざんの件も、服が破れたのもその桜川とかいう生徒の作り話だ」
「では教頭先生はあの子の過去を知っているのですね?」
「過去~?しょっちゅう入れ替わる生徒1人1人の過去なんぞ覚えていられませんなぁ」
「ふっ、そうであるなら余計に憶測で物事を決めつける言動は慎むべきではありませんか?1人の人間としても、学園の上に立つべき役職としても、お粗末としか言いようがありませんわ」
「……くっ、ただの金持ち風情が……」

至極真っ当な事を言われた教頭が捨て台詞を吐く。

「学園内の揉め事の件や、彼女の今後の事を考えると、目の届きにくい寮に居させるのは酷かと思いますので、白銀家で引き取り面倒を見ようと思います。かまいませんね?」
「面倒を見る事に関して止めはしませんが、関心はしませんな。お互い生まれも育ちも違う男女が、あろう事か学園1位の男子と共に屋根の下で過ごすのでしょう?」
「あら、それは誤解ですわ。私共の敷地内はそれなりの広さを有しております故、離れもありますので、ひとつ屋根の下になることはありませんわ」
「ほう、では何もなく彼女の面倒を見ると?何の見返りもなく?タダで?いいご身分ですなぁ」
「ふふっ、その辺もちゃんと考えてありますの。姫歌さんには私共の屋敷のメイドとして雇わせていただきます。もちろん学園に通っている間は学業との両立が必要ですが。精神状態が回復すれば大丈夫でしょう」

教頭の頭に血がのぼっているらしく、顔が真っ赤になっている。
何を言っても対策がなされており、マウントが出来ないからだ。

「白羽・クレーエ!桜川姫歌の家に入ることを禁ずる!わかったな?!」

最後に出てきたその言葉に、白羽は俯いていた顔をあげ、教頭を睨みつけた。

「もともとそのつもりですが、何か」
「ふふっ、さぁ白羽、姫歌さんを迎えに行きましょう。では失礼しますね、教頭先生」

歯を食いしばった悔しそうな教頭を見ながら、美津子と白羽は応接室を後にした。
姫歌の所に戻るが、項垂れたままだ。
無理もない。
今日はもう休ませた方がいいと、美津子に連れられ、姫歌は車に乗り込んだ。
まるで魂が抜けたようなその姿は人形のようにも見える。
白羽の家につくと、姫歌は客間に通され今日はそこで休むことになった。
むしろもう何も考える余裕などなかった。
色々な思いや今までの事が頭の中をぐるぐるまわり、自分が今何をどうしたいのかもわからず、促されるままベッドに入る。
その日はそのまま何もできず、姫歌は死んだように眠った。

次の日目を覚ました姫歌に日差しが差し込んだ。
太陽の光で目を覚まし、自分が寝ていた部屋が寮では無かったことに一瞬戸惑うが、少し考えて全部燃えたのだったと思い出す。
時計を見るともう9時を過ぎていた。
学校……と思いながらも、今日は土曜日で休みだった。
視線を右側から左に移すと、白羽が傍にあるソファで本を読んでいた。

「おはよう、少しは眠れたみたいだな」
「うん…」
「今飲み物と食事持ってくるから待ってて」

まだ少しぼーっとする。
白羽が朴木と話をしている。
少し待つと、朴木が暖かいお茶と朝ごはんを持ってきてくれた。
昨日食べないで寝たせいか、姫歌のお腹も空いているようで、朝ごはんの匂いを嗅いだ途端、口の中に唾液が溢れた。
白羽の近くにあったテーブルに朴木が並べてくれたので、椅子に移動し手を合わせ、いただきますを言う。
だし巻き玉子と味付け海苔、味噌汁とご飯、おひたしとお漬物の並んだ朝ごはん。
お腹が空いていた事もあり、とても美味しい。
昨日より顔色が良くなっている姫歌を見て、白羽も朴木も少し安心したようだ。
食事が終わり一息している頃を見計らって、美津子が部屋を訪ねてきた。

「昨日より顔色も少し良くなったわね。あなたの事だから、他人のお世話になる事をよく思っていないかもしれないけど、困った時はお互い様なのだから、甘えていいのよ」
「奥様…。私に…何か出来ることはありませんか。ただお世話になるだけでは……、私の気持ちが…」
「ふふっ、そう言うと思ったわ。その件は考えてあるのだけど、今は必要な物を揃えたりしないとね。朴木、買い物に行きたいのだけど車を出して貰えるかしら?」
「えぇ、そうおっしゃると思いまして、玄関の前に車を停車させてあります」
「さすがね。じゃあ姫歌さん、まずはあなたの家になる場所を見に行きましょう。朴木着替えを…」
「はい奥様、こちらに」

渡された少しラフな格好に着替えると、車庫の上にある階段へ皆で移動した。
1階が車庫で、2階が1LDKの住居になっているらしい。
鍵をあけ、中へ入ると綺麗な玄関が迎えてくれた。
玄関を入って少しいくと、正面に洗面所とお風呂、右に曲がってトイレ、リビングへと続き、1番奥に洋室とバルコニーがある。
中を見ると冷蔵庫や洗濯機、ベッドに電子レンジ、生活に必要な物はほとんど揃っている。

「奥様…ここ…」

美津子が姫歌の肩に手を置いて言った。

「今日からここが、あなたの家よ。好きに使って、ゆっくり勉強もするといいわ。なんなら、白羽と一緒にうちで勉強してもかまわないし」
「ありがとう…ございます」
「さて、新しい家も見た事だし、今度はあなたの必要な買い物ね。家の前の車で移動しましょう」
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