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19.圧力
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昇級試験1週間前、いつものように勉強をしようと姫歌は図書室へ向かっていた。
「あ、いたいた…あいつだ…。あの地味なメガネの…」
図書室に向かう最中、すれ違った廊下のグループの話し声が聞こえ、自分の事を言っているのかなと思ったが、通り過ぎようとすると呼び止められる。
「あなた桜川姫歌さんよね」
赤紫色の髪とつり目で少し雰囲気の怖い女子。
その傍らには4人の女子も引き連れている。
「はい」
「ちょっと話があるんだけど、ついてきてもらえる?」
嫌な予感がした。
今までの小学校中学校共にこういう経験が姫歌にはあったからだ。
急いでるのでと断っても、また付きまとわれるのだろう。
こういう輩は話を聞くまであきらめようとしない。
仕方なく了承して、あとについていく。
学校でもあまり人気のない場所。
道具や備品をしまっておく倉庫の近く。
姫かは壁際に立たされると、逃げ場のないように囲まれた。
「あんたさぁ、最近白羽先輩と仲良くしすぎじゃないの」
第一声がそれだった。
やっぱりかと思ったが、黙って話を聞く。
「なんであんたみたいな地味なやつが、白羽先輩に目をかけられてるのか知らないけど…、調子のんなよ…」
「…そう言われても…。」
少し視線をずらしながら困っているそぶりを見せる姫歌。
それを見たグループの金髪の女子が、ニヤッと笑う。
「そー言えばこいつ、部活以外でも白羽先輩と一緒に出掛けてるところ見たやつがいるって話でしたよ」
「なんでこいつが?」
「そ、それは私だけじゃなくて…ほかの人も一緒に…」
「へー、言い訳するんだぁ。知ってるんだよ?白羽先輩に連れられて白羽先輩の家に行ったことも、この間キャンプの時に白羽先輩にペアになってくれって言われたってことも」
「な…んで…それを…」
ファンクラブがある白羽には、もちろん熱狂的なファンもいる。
そうでなくても学園1位は目立つのだ。
商店街の人達に話が知れていたように、情報網は街を駆け巡っている。
白羽の家に行ったことはもしかしたらたまたま見られたのかもしれないが、キャンプ場でペアを申し込まれた事に関しては、同じ班だった人から聞いたのだろう。
それもおそらく、話した本人はただ聞かれたことを答えただけの形で。
姫歌に話しかける前から、いろいろなことを調べてきたようだ。
「やだやだ…、ちょっと仲良くなっただけで舞い上がっちゃうやつー」
「あんたさ、ミルカ先輩って存在も知ってるんでしょ?それでよく白羽先輩に近づけるよね」
「…それは…」
「お揃いの指輪だってつけてて、あんた自分に振り向いてくれるとでも思ったの?頭お花畑?」
「…何が…望みなんですか…」
「白羽先輩に今後近づかないでくれる?あと部活も辞めて。そうすれば私ら何もしないわ」
どうして他人にそんなことを決められなくちゃならないのか。
それは私が力がないからなのだろうか…。
そう思いながら姫歌は勇気を振り絞る。
「私は…誰かに言われて辞めるほど、お人好しじゃありません。失礼します」
そう言って、その場を立ち去る。
できるだけ急いで離れたかったため、姫歌は走った。
走る姫歌の後ろを見ながら、赤紫色が呟いた。
「警告はしたからな…」
————————————
圧力がかかってから3日がたった。
姫歌はそのことは誰にも言う事はなく、相変わらず勉強三昧の日々を送っていた。
図書室での調べものも終わって、寮の自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると…
-バシャア!-
突然姫歌に水がかかった。
「うっわ、ごめーん!手が滑ったわー」
かけられたのはただの水ではなかった。
掃除をした雑巾を水で洗った汚い水。
「くっさ!お前臭いわ!汚ねぇし!!」
かけた人を見るとキャハハハ!と笑いながらその場を去っていく。
圧力をかけてきたグループの一人だったかもしれない。
姫歌の周りが水浸しになっており、ため息をつきながら姫歌は掃除をする。
辺りを拭き上げると急いで寮に戻りお風呂に入った。
小学校でも中学校でも同じようなことがあった姫歌にとって、もう味わいたくないその嫌がらせが、この学園でも起きていることに悲しみを感じる。
嫌がらせをしたところで、本人たちの気が済めばいいのだが、おそらく姫歌が部活をやめたり、白羽と交流をしなくなるまでやめることはないだろう。
次の日も、試験の前日も嫌がらせは続く。
時には虫の死骸が靴の中に入っていたり、歩いている時に足をひっかけられたり。
そして試験当日に学園中をある噂が流れていた。
“桜川姫歌は白羽先輩を略奪しようとしている”
ミルカという存在は、学園の中では白羽の彼女として有名である。
それは本人が事あるごとに私の彼氏で、私が彼女だと言いふらしているからなのだが、それでもそれだけ言いふらされれば、ひそかに想いを抱いていても、ミルカとの仲を邪魔しようという人はいなかったし、遠くから見守っていることのほうが多いのだ。
それが姫歌の場合は話が違う。
白羽のほうから声をかけていることもあったし、何より話をしている二人が敬語ではないのだ。
白羽はともかく、姫歌のほうが先輩に対してその態度であることに、周りはよく思っていない。
もちろん白羽がそうさせているのだが、周りの矛先は姫歌に向かっていた。
試験日当日、姫歌はあまり良くない環境の中でもなんとか気持ちを落ち着けて試験を受ける。
解答欄は全部埋めたし、自信もあった。
時間より早く終わって、見直しをするぐらいの余裕もあった。
試験用紙も回収され、あとは合格発表を待つだけだ。
亮も空もそれなりに自信はあるようで、3人で楽しみだねなんて話をする。
試験が終わってから寮に戻ると、部屋の鍵が開いていることに気付いた。
びっくりして中に入ると、部屋の中の物がぐちゃぐちゃに荒らされている…。
『なんで…鍵は閉めたはず……』
盗まれた物がないか確認する。
大事な物は金庫に保管しているため、それは大丈夫そうだ。
ただ、自分の持っていた服はハサミで切り刻まれており、もう着れる状態ではなかった。
おばあちゃんに買ってもらった大事な帽子も踏みつけられ破れていた。
洗えば何とか使えそうだが、嫌がらせの域を超えている行動に非常に心が苦しくなった。
姫歌は1人で泣きながら部屋を片付ける。
誰かに助けを求めるべきなのだろう。
でも、それをしたら巻き込んでしまうのではないか。
大事な友達に嫌な思いはさせたくない。
それなら自分が苦しんで我慢すればいいだけ…。
そう思う姫歌は歯を食いしばる。
大丈夫……また1つクラスが上がれば、白羽くんに近づける。
おばあちゃんが最後に用意してくれた大事な道だ。
ここで挫ける訳にはいかない。
悔しい思いはあるけれど、頑張ると何とか持ち直して、とりあえず部屋は綺麗になった。
破けている服も、直せそうな所は不器用ながら縫って直した。
制服だけは着ていた為無事だったのが救いだ。
その日の夜はよく眠れなかった。
また誰かに嫌がらせをさせられ続けたら、自分の心は持つのだろうか……。
それでも前に進まなくちゃ…。
1人で枕を濡らしながら夜は更けていく。
心の中では白羽に助けを求めながら…。
「あ、いたいた…あいつだ…。あの地味なメガネの…」
図書室に向かう最中、すれ違った廊下のグループの話し声が聞こえ、自分の事を言っているのかなと思ったが、通り過ぎようとすると呼び止められる。
「あなた桜川姫歌さんよね」
赤紫色の髪とつり目で少し雰囲気の怖い女子。
その傍らには4人の女子も引き連れている。
「はい」
「ちょっと話があるんだけど、ついてきてもらえる?」
嫌な予感がした。
今までの小学校中学校共にこういう経験が姫歌にはあったからだ。
急いでるのでと断っても、また付きまとわれるのだろう。
こういう輩は話を聞くまであきらめようとしない。
仕方なく了承して、あとについていく。
学校でもあまり人気のない場所。
道具や備品をしまっておく倉庫の近く。
姫かは壁際に立たされると、逃げ場のないように囲まれた。
「あんたさぁ、最近白羽先輩と仲良くしすぎじゃないの」
第一声がそれだった。
やっぱりかと思ったが、黙って話を聞く。
「なんであんたみたいな地味なやつが、白羽先輩に目をかけられてるのか知らないけど…、調子のんなよ…」
「…そう言われても…。」
少し視線をずらしながら困っているそぶりを見せる姫歌。
それを見たグループの金髪の女子が、ニヤッと笑う。
「そー言えばこいつ、部活以外でも白羽先輩と一緒に出掛けてるところ見たやつがいるって話でしたよ」
「なんでこいつが?」
「そ、それは私だけじゃなくて…ほかの人も一緒に…」
「へー、言い訳するんだぁ。知ってるんだよ?白羽先輩に連れられて白羽先輩の家に行ったことも、この間キャンプの時に白羽先輩にペアになってくれって言われたってことも」
「な…んで…それを…」
ファンクラブがある白羽には、もちろん熱狂的なファンもいる。
そうでなくても学園1位は目立つのだ。
商店街の人達に話が知れていたように、情報網は街を駆け巡っている。
白羽の家に行ったことはもしかしたらたまたま見られたのかもしれないが、キャンプ場でペアを申し込まれた事に関しては、同じ班だった人から聞いたのだろう。
それもおそらく、話した本人はただ聞かれたことを答えただけの形で。
姫歌に話しかける前から、いろいろなことを調べてきたようだ。
「やだやだ…、ちょっと仲良くなっただけで舞い上がっちゃうやつー」
「あんたさ、ミルカ先輩って存在も知ってるんでしょ?それでよく白羽先輩に近づけるよね」
「…それは…」
「お揃いの指輪だってつけてて、あんた自分に振り向いてくれるとでも思ったの?頭お花畑?」
「…何が…望みなんですか…」
「白羽先輩に今後近づかないでくれる?あと部活も辞めて。そうすれば私ら何もしないわ」
どうして他人にそんなことを決められなくちゃならないのか。
それは私が力がないからなのだろうか…。
そう思いながら姫歌は勇気を振り絞る。
「私は…誰かに言われて辞めるほど、お人好しじゃありません。失礼します」
そう言って、その場を立ち去る。
できるだけ急いで離れたかったため、姫歌は走った。
走る姫歌の後ろを見ながら、赤紫色が呟いた。
「警告はしたからな…」
————————————
圧力がかかってから3日がたった。
姫歌はそのことは誰にも言う事はなく、相変わらず勉強三昧の日々を送っていた。
図書室での調べものも終わって、寮の自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると…
-バシャア!-
突然姫歌に水がかかった。
「うっわ、ごめーん!手が滑ったわー」
かけられたのはただの水ではなかった。
掃除をした雑巾を水で洗った汚い水。
「くっさ!お前臭いわ!汚ねぇし!!」
かけた人を見るとキャハハハ!と笑いながらその場を去っていく。
圧力をかけてきたグループの一人だったかもしれない。
姫歌の周りが水浸しになっており、ため息をつきながら姫歌は掃除をする。
辺りを拭き上げると急いで寮に戻りお風呂に入った。
小学校でも中学校でも同じようなことがあった姫歌にとって、もう味わいたくないその嫌がらせが、この学園でも起きていることに悲しみを感じる。
嫌がらせをしたところで、本人たちの気が済めばいいのだが、おそらく姫歌が部活をやめたり、白羽と交流をしなくなるまでやめることはないだろう。
次の日も、試験の前日も嫌がらせは続く。
時には虫の死骸が靴の中に入っていたり、歩いている時に足をひっかけられたり。
そして試験当日に学園中をある噂が流れていた。
“桜川姫歌は白羽先輩を略奪しようとしている”
ミルカという存在は、学園の中では白羽の彼女として有名である。
それは本人が事あるごとに私の彼氏で、私が彼女だと言いふらしているからなのだが、それでもそれだけ言いふらされれば、ひそかに想いを抱いていても、ミルカとの仲を邪魔しようという人はいなかったし、遠くから見守っていることのほうが多いのだ。
それが姫歌の場合は話が違う。
白羽のほうから声をかけていることもあったし、何より話をしている二人が敬語ではないのだ。
白羽はともかく、姫歌のほうが先輩に対してその態度であることに、周りはよく思っていない。
もちろん白羽がそうさせているのだが、周りの矛先は姫歌に向かっていた。
試験日当日、姫歌はあまり良くない環境の中でもなんとか気持ちを落ち着けて試験を受ける。
解答欄は全部埋めたし、自信もあった。
時間より早く終わって、見直しをするぐらいの余裕もあった。
試験用紙も回収され、あとは合格発表を待つだけだ。
亮も空もそれなりに自信はあるようで、3人で楽しみだねなんて話をする。
試験が終わってから寮に戻ると、部屋の鍵が開いていることに気付いた。
びっくりして中に入ると、部屋の中の物がぐちゃぐちゃに荒らされている…。
『なんで…鍵は閉めたはず……』
盗まれた物がないか確認する。
大事な物は金庫に保管しているため、それは大丈夫そうだ。
ただ、自分の持っていた服はハサミで切り刻まれており、もう着れる状態ではなかった。
おばあちゃんに買ってもらった大事な帽子も踏みつけられ破れていた。
洗えば何とか使えそうだが、嫌がらせの域を超えている行動に非常に心が苦しくなった。
姫歌は1人で泣きながら部屋を片付ける。
誰かに助けを求めるべきなのだろう。
でも、それをしたら巻き込んでしまうのではないか。
大事な友達に嫌な思いはさせたくない。
それなら自分が苦しんで我慢すればいいだけ…。
そう思う姫歌は歯を食いしばる。
大丈夫……また1つクラスが上がれば、白羽くんに近づける。
おばあちゃんが最後に用意してくれた大事な道だ。
ここで挫ける訳にはいかない。
悔しい思いはあるけれど、頑張ると何とか持ち直して、とりあえず部屋は綺麗になった。
破けている服も、直せそうな所は不器用ながら縫って直した。
制服だけは着ていた為無事だったのが救いだ。
その日の夜はよく眠れなかった。
また誰かに嫌がらせをさせられ続けたら、自分の心は持つのだろうか……。
それでも前に進まなくちゃ…。
1人で枕を濡らしながら夜は更けていく。
心の中では白羽に助けを求めながら…。
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