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6章 変な石とその後の話

第253話 領民達(黒皮病の頃)

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「もう終わりだ・・・・・・」
 夜更けに客もまばらな酒場に不景気な声が響く。
 何時もは其れなりに賑わっている店なのだが、最近は恐ろしい伝染病、黒皮病が流行している、出歩く勇気のある者も少なく、農村部の連中はかなりやられてしまったらしく、市場に品物も少なく、景気が悪い。
 疫病のことは飲み屋の店員である自分も他人事では無いが、蓄えなど無いので、働かないと言う選択肢は無い、ビクビクしながらもこうして働いている。

「又出たぞ?」
「又か・・・・・・」
 何がとは言わない、病人の事だ、共通認識で下手に名前を出すと巻き込まれると言う共通認識があるので、そんな恐れを誤魔化すために名前は出さない、そして、誤魔化すために酒をあおる。
「誰が運んだ?」
「あいつの所だ」
「そうか・・・・・・」
『うつされるから極力関わらないようにしよう』と言う言葉を内心で飲み込む、病が出たら、近所の人間が教会に運んでやると言うことは、最低限この地のルールだ、教会では治療と看取り、死体の後始末までやってくれるため、後は任せっきりだ、関わるとうつされそうだから、病と死に関わる教会を恐れ、極力関わらない。
「あそこに今教会の連中何人居たっけ?」
「神父と、その娘達と、どっかから流れてきたのが居たな?」
「人手足りるのか?」
「知らん、俺らは関わりにならんのが正解だ」
 そんなことを言っては居るが、それぞれこっそり食料やら何やら運んで言っている、表だって交流があると余計なことを言われるため、この場ではそうしておくのだ。


「なんか増えてたぞ?」
「アレか?」
「見慣れない若いのが彷徨いてるな?」
 この土地は田舎で有るため、大体顔見知りだ、見慣れないのが居ると、噂が飛び交い、何処に行った、何処に寄った、何処に泊まったと、瞬く間に広がっていく、市場を彷徨いている美人な若い女が2人もいれば、目立つ事この上ない。
 山ほどの食料を買い込んでいった、助平心を出した若いのが声をかけていたが、けんもほろろに遇われていた、ゴロツキや冒険者の類いも居たが、まるで相手にされていない、身持ちは堅い様子だ。


「馬車が走ってった」
「領主の館に何か入っていった」
「宿屋に身なりの良いのが泊ってる」
 何だか殺気立ったゴロツキの面々が聞き耳を立てていた。

 その夜、例の宿屋でボヤ騒ぎがあった、宿泊客には怪我は無く、それよりも、ここぞとばかりに待ち構えていた正規兵が出動して、チンピラやゴロツキどもが纏めてしょっ引かれていったらしい。


 最近領主が死んだらしい、公式に、大々的に発表された訳では無いが、人の口に戸は立てられないし、噂は何処からともなく流れて来る。
 そして自分は人の噂が集まる場所、アグリカ領の酒場で下働きをしているので、情報は幾らでも入って来る。
 先程の裏取りと成る物は、領主と繋がって甘い汁を吸って居たゴロツキ達が意気消沈している事だ。
 もっとも、残って居るのは下っ端ばかりで、上の面々は、領主が死んだ時の前後から王都からの正規兵がウロウロして居る事に影響されてか、暫く見ていない。
 噂によると例の兵達が乗り込んで行ったとか、兵が返り血だらけで出て来たとか、コレは下手に嗅ぎまわるとヤバいと言う事が噂だけでも判る為、全力で聞かなかった事にしている。
 よって、下っ端たちの会話は『コレから如何する?』の様な中身の無い堂々巡りの会話ばかりで、先行き不安で、酒でも飲まないとやって居られないと言う感じの殺伐とした雰囲気でつまみも無しに酒ばかり飲んでいる。
 因みに、そろそろツケを清算させて放り出す予定だ。
 後ろ盾が無くなったゴロツキは余り怖くない。ただ、完全に力を失っているかは未だ確定していないので、裏が取れ次第まで泳がせると言うことになっている。
 だが、正規兵が治安維持に駆け回っていると考えると、纏めてしょっ引かれて根切りにされてしまうとツケの清算すら出来なくなってしまうため、そのタイミングは色々見ている店主頼りだ。

「・・・・・・よし、裏が取れた、あいつらの上はもう居ないから、あいつらからだけでもむしり取れ」
「了解、やっちまいます」
 色々先行きは不透明だが、先ずは目先の利益確保が最優先である。

 どうやら病の治療が上手く行き始めたらしく、無事帰ってくる面々が増え始めた、治療の様子を聞いても、可愛いのに世話されたとか、ムキムキの禿が居たとか、蜘蛛が居たとか、百足に噛まれたとかよく分からない事を言われるだけで、まるで要領を得なかった。

 更に後日、領主とギルドマスターが入れ替わった、隣の領地からで、其処の領主の息子らしい、冒険者もやっていたとか、井戸を掘ってくれたとか、詳しく調べるほど、異様な程に評判が良かった。

 黒皮病の生き残り達は、その顔を見た時点で平身低頭と言った調子で平べったく成っていた、どうやら、例の禿の正体らしい、まさか領主直々で領民の治療に当たっていたと? そんな馬鹿な。

 領主の就任記念に減税を言い出した、いや、本気か?
 前の領主達は、事ある毎に増税しかしていないのだ、就任記念で増税、子供の誕生記念で増税、日照りや長雨での不作で増税と、本当に増税しかしていない、対して、この禿は減税と来た、剰りにも訳が分からずに集まっていた面々がぽかんとした。
 減税、その意味を理解して歓声が上がるまで暫く掛かったのは言うまでも無い。

 今までとは全く違う領主だと言うことは理解した、後は、本当に良い領主なのか、其ればかりは実際に暮らしてみての話だ、暮らしが楽になることを祈ろう。

 それが、この土地の歴史に残る、光頭卿(こうとうきょう)誕生の瞬間だった。

 追伸
 この称号、禿頭卿(とくとうきょう)かで悩みました。
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