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6章 変な石とその後の話

第229話 坊主の正体(サン視点)

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「結局あの人達って何者だったんです?」
 ロニが不意にそんな事を呟いた。
 現在地は先日迄野戦病院状態だった教会の食堂で、患者の受け入れやら、看病やら手当も一段落して、和尚さん達御一行も自分達の領地に帰った所だ。
 今迄の殺人的な忙しさは鳴りを潜め、嘘の様に平和な時間と成ったので、こうしてのんびりお茶を呑んでいたりもする。
 私も出番無くなったし、そろそろ移動するかなとぼんやり考える。次は何処行こうかなあと。
「医療系の知識やら何やら凄かったですけど、教会関係者って訳じゃ無いんですよね?」
 どうやらあの人達は正体やら何やら明かしていないらしい、正直それどころじゃない忙しさで聞く余裕が無かっただけかもしれないが。
「学者って聞いたけど?」
 確かに一人は学者だ。
 内心で答え合わせをする。勝手に人のプライベート公開するのもアレだしなあと言う事で、聞かれるまでは答えない事にして置く。
「冒険者だって言ってたような?」
 確かにそんな事もしていた。
「でも、あの人達って結局どんな関係で?」
「関係?」
 微妙に此方に向いて来たので聞き返して見る。
「いや、揃って仲良く作業してたじゃないですか、分業体制バッチリで、なんと言うか夫婦?」
 それは正解だけど、何処まで言おうかなあ?
 サン先輩何か知ってそうですけど
 二人の視線が改めてコチラを向く。
「知ってるケドねえ」
 どうしよっかなあと薄い笑みを浮かべながらお茶を飲む。
 因みに、お茶うけのお菓子は小麦粉を麦芽で分解した飴だ。
 ご飯を食べる暇が無い程の状況と言うか、流石にぐったりして来た時に、灯さんから口の中に放り込まれた、疲れた時には甘い物ですとにっこり笑顔で。
 不意打ち的に甘い物だったので驚いたが、砂糖より優しい甘さで、疲れた身体に染み渡った。
「特製です、良いでしょう?」
 悪戯成功と言う様子でにっこり笑う、成程、この人も根っからの善人の類だ。
「この飴って初めてですか?」
「はい、甘い物は貴重ですから」
 泣くほど有り難い物だが、そこいらでコレを買おうとすると粒で銀貨が飛んで行きかねない。
「じゃあ、儲かりますね?」
 良い事を思い付いたと言う感じの、少し悪い笑みを浮かべていた。
 いや、根っからの善人とはちょっと違うのだろうか?


 カーンカーンカーン
 と、そうこうして居る所で、この領地の中央広場辺りから集合の鐘が鳴った。
 この叩き方は緊急事態では無いが告知的な何かがあるから集合と言う意味だった筈。
 緊急事態の場合は途切れずに叩き続けるモノだからだ。
 カーンカーンカーン
 何だか発表が有るらしい、まあ私余所者だからあんまり関係ないかなと部外者を決め込みたい所だが……
 カーンカーンカーン
 リカとロニは、いそいそとフード付きのローブ的な上着を羽織り始めた。
「行くの?」
 思わず確認する、この場所は集落からは若干外れ気味なので、少し遠いのだが。
「この間まで頼りにされてましたけど、こう言った病気とか人死が出た騒ぎの後って、死の穢れ運ぶって言われて私達は爪弾きにされるんです、告知に寄っては色々動かなきゃ行けないんで、嘘が挟まれる事も有るから、人伝に聞くのはアテに出来ないので、極力直接聞きに行きますよ」
 当然じゃないですかと言った調子で淡々と答える、この娘達の間では当然と。
 成程、田舎もご近所付き合いの生き残り戦略が厳しいらしい、世の中世知辛い。
 其れなら私も行ったほうが良さそうだ。
 神父さんは病み上がりで未だ本調子では無い様子で、行ってらっしゃいと手を振って居た。

 そして、広場で告知が行われ、内容は領主が代わった事で、その領主はつい最近別れたばかりで、元の領地に帰った筈の和尚さんだった。
 私は内心で大笑いして居たが、リカとロニには完全に不意討ちだったため、一緒に居た時に何か失礼が無かったかと顔を青くして、目を白黒させていた。
 うーん、此処まで直ぐ判るのなら、あの時私が教えても変わらなかったなあと思ったりするが、この顔色百面相が至近距離で見れたのだから十分かと内心で笑う。
 次いで、領主が代替わりした祝いとして、今年の税を安くすると言う事。
 そして、収穫が余るのなら相場で買い取ると言う事。
 更に、今回の疫病騒ぎの功労者として教会に褒奨金を出すという事を告知して行った。
 タダ働きに成るかと思ったが、ちゃんと報われそうで何よりだ。

「知ってたんですか?!」
 発表告知が終わり、教会に帰った所で、パニック気味に二人揃って、主にリカに詰め寄られる。
「うん、前からの知り合いと言えば知り合い」
「どんなお知り合いで?」
 ロニも詰め寄って来る。
「お貴族様の産婆やってたから、其れ関係でね?」
 お察しーと、口の前にひとさし指を立てる。
「成程……」
 察したらしい二人が口をつぐんで一歩下がる。
 お偉いお客さんのあれこれを話すと色々怖いので、根掘り葉掘りするのはマナー違反なのだ。
「でも、私達色々やってたと言うか、色々お貴族様とも思えない事やらせてた気がするんですけど……」
「大丈夫ですか……?」
 とても今更な事を言い出す二人。確かに上から下から汚れ仕事てんこ盛りで、男爵夫人にトイレ掃除までやらせているが……
「あの人達に関しては、そんな事で怒る様な小っちゃい器してないから大丈夫」
 少なくとも今回のアレコレに関しては、あの人達が怒る要素は無い。
 有ったとすれば、この二人は気が付いて居なかった様だが、夜襲された時に怪我人出した場合に、襲撃犯が怖い事に成った位だ。
 あの人達が手を下すまでも無くアレな事に成って居るのは、役人さんに聞いたので、今更怒る相手が居ない。
 因みに、あの役人さんはお仕事先で時々見かける程度には顔見知りなので、悪影響が無い範囲で色々情報を交換したりするのだ。
「あの人達は立派な人なので大丈夫ですよ」
 神父さんが色々察したと言う様子で結論付けして、お茶を啜る。
 何か感じる物は有ったらしく、二人も静かに成った。
 実際、この二人のから騒ぎの取り越し苦労だったのは言うまでも無い。
 
 でも、あの人が領主やるんだったらどうなるか気に成るから、ちょっと腰を落ち着かせてみようかな?


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