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6章 変な石とその後の話

第213話 和尚達の活躍(ロニ視点)

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「おや、大分手荒れ酷いですね、洗濯ですか?」
 先程灯と名乗った少女が話しかけて来る。
「見ての通りです、毎日今いる患者のシーツを交換して、タオルと着衣を洗って・・・」
 洗いもの用の籠には山ほどの洗いものが山と成って居る、これで全部では無いのだが、どうやら衛生・清潔と言うのが大事だとサン先輩に指示を出されて居る、産婆仕事の際には色々洗う事や清潔が大事な事と実体験で体感しているらしいのと、何でも学会でアカデと言う人が論文を色々発表、出版してその筋では一般常識と成ったらしい。
 そして患者が吐き出した物や、唾、よだれなども感染の元だとサン先輩が予測をして、汚れた物をひたすら洗えば、新たな感染を防ぎ、病気の悪化も防げる筈と言う事で、結果として私の仕事が病人の処置では無く、掃除と洗濯、食事作りがメインと成ってしまったのはしょうがない事だ、現在進行形で洗濯用の灰汁に負け、ヒビアカギレが酷くて、皮膚が割れて酷い事に成って居る、患者さんの治療の為に倒れる寸前までひたすら浄化と治療を使って居るので治療魔法を自分に使う余裕が無いのだ。
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ・・・」
 灯さんが私の手を取って小さく呟くと、あっという間にヒビアカギレが治った、治療術? それにしては聞き覚えなない呪文だったけど・・・
「あ・・・・有り難うございます、珍しい呪文ですね?」
 思わずお礼を言いつつ、珍しい事を指摘する。
「どういたしまして、薬師如来の真言です、これ位なら私でもどうにかなりますね」
 私の手を離し、灯さんが得意気に胸を張る。
「和尚さん、私とエリスちゃんはこっち手伝うんで、治療の方は任せました」
「了解、任せた」
 灯さんが一言、和尚と呼ばれる人に断りを入れる、どうやらあの人がこの3人のリーダー格らしい。
「ひびが酷いって事は、洗濯は洗濯板ですか?」
「そうです」
 最近は手荒れがあまりにも酷いので、こっそり足で踏み付けて洗濯しているが、それでも追い付かない。
「じゃあ、これ持って来たのも無駄に成りませんね?」
「和尚さん、アレ出してください、洗濯樽、セットで全部」
「了解、これで良いか?」
 和尚さんと呼ばれた人が何か唱えると、唐突に不思議な台座と言うか、足つきの樽が4つ現れた。
 何アレ?
「上出来です、洗剤とハンドクリームもお願いします」
「はいよ」
 又何か唱えると、小さなタルと、大きめの二枚貝が取り出された、何でも出て来るんだなあの人・・・
 深く考えるのは止めて置こうと頭が理解を拒む。
「で、洗濯するのは何処です? 運んじゃうんで」
 私が入れるぐらいの結構大きめな樽なのだが、誰が運ぶのだろう?
「洗濯は裏庭の井戸の近くで・・・こっちです」
「了解、エリスちゃんもお願いしますね」
「はい」
 指差して案内しようとすると、二人揃って両手に一つずつ軽々と樽を抱えてというか、掴んで持ち上げた。
 何と言うか、持ち方が軽い。
 見た目より軽いのだろうか?
「大丈夫ですか? その持ち方で? 手伝いましょうか?」
「大丈夫です、むしろ変に手を出される方が困ります」
「流石に戸はあけられませんけどね?」
 エリスさんが手を出すなと言いつつ灯さんがおどける、流石に両手が塞がって居る見てのは見てわかるので、先行して戸を開ける。
「此処です」
「了解、よっと」
「ん」
 ずずんと、軽い掛け声にそぐわない重い音で樽が置かれた。
(嘘だあ・・・)
 内心で思わずそんな一言が浮かぶ、何気にその樽の一つを掴んで少しだけ動かして見ようとするが、樽本体はキイキイとあまり手ごたえも無く回るが、下の台座の部分はビクともしなかった。
 さっき手を出したら確かに酷い事に成っていそうだ、私だったら確実に潰れる。
「水と洗濯物入れて回すんです、其れより台座が重く無いと回転が安定しませんから、初期型よりさらに重く成りました」
 頼んでいないのだが、灯さんが得意気に補足説明をする、そもそも何をする物なのだろう?
 と言うか、これを二つ、二人揃って軽々と持ち上げて運んでいたと?
「何ですその顔? ゴリラを見る様な目は?」
 灯さんが楽しそうに此方を見て軽口を叩く、と言うかゴリラって何だろう?
「すいません、そもそもこれって何ですか?」
 洗濯樽と言って居たが、何に使うのだろう?
「洗濯をする物の憧れ、今流行の足回し式洗濯機って奴ですよ」
「ああ、何だかお金持ちの人の間で流行ってるとか・・・・・」
 最近、家のご主人様が買ってくれた、びっくりするほど洗濯が楽に成ったとか、あそこのご主人様は立派だとか、使用人が居るのなら、実質その使用人が洗濯機なんだから無駄遣いだとか、あーだこうだと噂が流れて来てはいたが、実物は見た事が無かったのだが、コレがそうなのか・・・・
「あのこれ・・・高いって・・・・」
 噂では値段が金貨何枚とか聞いて居る、清貧を是とする教会の財政は火の車だ、そもそもこの土地は領主の財布の紐が渋い、便利だとしても、あまりそんな贅沢品は買えない。
「今コレの相場っていくらでしたっけ?」
 灯さんが覚えていないと言う様子でエリスさんに聞く。
「一つ金貨2枚です、出来れば横の洗う用と縦の絞る用が両方欲しいですから、実質4枚ですね」
 其れが4台だから金貨8枚? あわわわ・・・
「あの、そんなお金・・・・」
 値段を聞いて眩暈がする、そんなお金は私の一存と言うか、この教会を逆さに振っても出て来ない、下手すると増えに増えた患者さんの食費ですっからかんだ。
「必要経費です、洗濯をするのは防疫の第一歩、今回私達の依頼主は結構太いですから請求はそっちです、此処の教会に押し売りしたりしませんからご安心を・・・」
 その一言で安心して、ほうとため息を付く、心臓が止まるかと思った。
「そんな訳で、防疫戦線の第一歩、洗濯開始です」
 灯さんが明るく言う、色々暗かった現状、その明るさはある意味救いだった。

 ・・・その後、この人達自体が救いそのものだったと私達が痛感する事と成る。
 其れと、洗濯樽はものすごく便利だった。
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