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4章 助けた少女とその後

第169話 番外 和尚対ぬーさんの模擬戦

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 現在地は家の裏庭である、草は程よく刈って有り、広さは十分。
 観客はエリスと灯に子供達。
 先ずは呼吸を整え、模擬戦用の棒を構えて対峙する。
 対するぬーさんは気の無い様子で此方を見て居るが、基本的にあの状態は獲物を油断させる為のポーズで有る。
 細めた目が笑って居ない。
 一瞬誘うつもりで構えを下げる振りをする。
 誘われて、ぬーさんの先程までのやる気のない様子が一瞬で消え、此方に飛び掛かって来る。
 誘い通りに乗ってくれたので、軌道に合わせて真正面から棒を突き出した。
 人間相手の模擬戦なら反応する事も無く刺さる速度なのだが。
 ぬーさんは当然と言う様子でタイミングを合わせて棒を踏み付ける。
 其れも此方は読んでいるので、踏まれた方の重さを使って棒を回転、反対の石突き側で頭を打とうとしたが、対するぬーさんは一瞬触れた分で足場の加速は十分とばかりに体勢を崩す事も無く跳躍、軌道が変わり、一段階上を飛んで行く。
 くるりと反転してぬーさんの頭に当たる予定だった石突が空を切る。
 すれ違いざまにぬーさんが前足を振るうのを、咄嗟に仰け反ってを躱す。
 ひゅんと言う風切り音を纏って目の前を前足が通り過ぎる。
 流石に爪は出て居ないが、ぬーさんの前足自体が大きく、勢いが乗っているので当たっただけで飛ばされそうだ。
 ぬーさんが上空を通過して、流石に慣性を殺しきれなかったらしく、地面に爪を立て着地する。
 此方も改めて構え直し、ぬーさんに向き合った。

 その後も当たりそうになっても全て回避するぬーさんと、すれ違いざまに飛んで来る攻撃を必死に回避する図が延々と続き。
 お互い其れなりに息が上がって来て。

「そこまで!」
 灯の声に合わせて、自分とぬーさんが脱力する。
 終わり際に追撃と言う流れでは無いらしい。
 こう言った時にも話が通じるぬーさんなので、止まれの合図を間違える事も無い。
 もう要は無いな?と言う様子でぬーさんが木陰に移動して寝転んだ。

「しかし、和尚さんでも千日手ですか・・・」
 灯が少し残念そうに呟く。
 因みに、勝ち負けの判定は当人達の認識と、見物人の判定、具体的には、攻撃が当たって痛がったり、寸止めで止めが刺された時に終わりとなる。
 因みにぬーさん相手の負けの場合は、相手を地面に転がして踏み付けるか、首元を噛み付く仕草をされたら完敗である。当然牙や爪を立てたりしないので、じゃれて居る内であろう。
 あの動きは酷いとか、何か文句がある様な時は甘噛みが入るので初見では結構驚く事に成るが。
「真言無しだとこんなもんだな」
 実質的に切り札を全部封印して居るので、手札が足りない、本気を出せば負けないと言外に示すが、そうなると恐らくぬーさんも本気に成るのでどうなるか分からない。
 韋駄天で加速するか、距離を取って投擲武器の八幡様ホーミングで誤魔化す以外に無いが。
 若しくは武器を変えて手数を増やすべきだろうか?
「というか、この辺の冒険者がぬーさんに勝てるか如何か怪しい事に成りますね・・」
 エリスがしみじみと言う。
 現状この辺では最強枠に成って居る筈の自分相手に千日手なので、暴れられたらとんでもない事に成るであろう。
「勝てないんだ?」
「アレ全部避けたの凄いと思うけど・・・」
「じゃあぬーさんに勝てればこの辺で最強?」
 子供達が好き勝手口走る。
「多分そう成るな、頑張れ」
 無責任に炊き付ける。
「はーい」
「頑張る」
「どっちが楽なんだろ?」
 子供達が思い思いに微妙な返事をする。
 因みに、身体能力最強のぬーさんと、対人戦最強の自分である、何方が楽なのかは不明だが、1対1で義父上に勝てない限りは無理だと思われる。義父上も年は取ったが、1本先取の模擬戦ではまだまだ負けはしない様で、祖父の威厳はしっかりと死守して居る。
 もっとも、まだまだ子供なのでムキに成る事には成らない筈なのだが・・・
 

 因みに、灯とエリスの場合は攻撃速度の関係でぬーさんには手も足も出ないが、子供相手には防御を貫通させて盛大に吹き飛ばすので、其れは其れでやりにくいらしい。

 他にもこの子達の教育として、アカデさんが魔物の生態学を念入りに刷り込んでいたり。
 エリスが何故か値切りのコツやら世渡りのコツ、契約書の注意点やら、冒険者としての色々な生存戦略を刷り込み。
 当然の様に、自分も仏教知識やら山歩きの生存戦略を念入りに教え込み。
 灯が現代知識を交えて学問を仕込み。

 後日、結果として其処等の冒険者より強い学者擬きなひよっこチームが出来上がるのだが、其れは其れで別の話である。
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