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4章 助けた少女とその後

第163話 駆け回る役人の苦労

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終わったふりして続きます。特大爆弾持たされたキツネさん。

「何で今まで気が付かなかったのか・・・」
 王宮の片隅の自室で報告書に目を通して、思わず頭を抱える、開拓村で領主であるギルの元に水晶硝子(クリスタルガラス)が献上されたが、製法に鉛が掴まれている為、もしかして献上品のブレイン領製水晶硝子も同じ製法では無いか?と言う報告が上がり、念の為に調べて見た所、見事に同じ製法だった、しかも鉛多めである。
 あのうつけ物、和尚が硝子工房に渡した配合表(レシピ)に有った加工に使う為の最低量では無く、溶け残りが無いようにした上での最大量である、最低量なら其処まで中毒を起こすような物には成らない筈なのだが。
 尤も、永く蓄積される物なので微量だろうと危ないらしいのだが・・・
 少し前までご婦人の白粉(おしろい)に使われていた為、中毒者は多かったので、今更でも有るのだが・・・・
 危険だと何処からか新しい白粉のレシピが流れて来て、鉛の白粉は何時の間にか無くなって居たと言うか、鉛の白粉を売る業者は2級品どころか、毒物を売りつける3流の粗悪な業者だと、業者内で動きが有り、勝手に一斉に潰れたのだ、一体何が有ったのか分からないが、悪い事では無いだろう、結果として、ブレイン領の儲けが大分少なくなったようだが・・・
 今回献上されて居たのは酒用のグラスである。
 無色透明で、目で見て美しく、そのせいか酒が甘くなって美味しく飲めたと・・・
 味が変わって居る時点で気付けこの馬鹿共・・・
 どうせだからこの国の特産として諸外国に売り込もうかと?
 毒性がバレたら外交問題に成るので止めろ。
 思わず不敬な事を思い浮かべて、げんなりする。
 思ったより、この王族は馬鹿なのかと頭を抱えたくなるが、下手に首を挿げ替えても碌な事には成らないので、今はそう言う事は置いて置く。
 後釜探しと、治安や経済、その他色々の安定化は大変なのだ。
 首を斬られたら終わりの王族では無く、皺寄せは自分たち役人に来るのだ、今でも既に十分グダグダである。
 そのグラスを愛用している王族内でも、以前から手足の震えや、不自然な冷え等の不調をお抱えの医者に訴えて居た物は居たのだが、器が怪しいと指摘されるまで、原因不明だったのが恥ずかしい。
 言い訳をさせてもらうと、傍から見ると只の無色透明の美しい硝子なので、配合表を知らない者に分れと言われても困るのが正直な所だ。
 因みに、毒見薬は別の器を使って居たので気が付かなかったと言う阿呆なオチである、何のための毒見薬なのか・・・
 更に言うと、王宮内で王族以外で中毒症状が重かったのは、ちゃっかり残り物を始末して居た厨房に居る皿洗いの小僧だった。

 彼奴らには褒美を出さんとな・・・
 揃って出世などの野心に興味が無さそうな、2人の親子?の顔を思い浮かべる。
 一つ上がって子爵?いや、曲がりなりにも王族の命を救った形になる、秘密裏に事を運ぶのならばともかく、一見判り難い毒殺で有ろうと、我々役人は見逃さないと大々的に見せしめをしてしまった方が、後々自分達の発言権が大きくなる、褒美は大きくしてしまって良いだろう。
 今回は影響が大きい、鉱山持ちで金は有る為、発言権も強いブレイン領の首を刈り取るのだ、結構な金が動く事だろう。
 現状は名目貴族の男爵だが、辺境そのままの辺境伯にしてしまおうか?
 現状あの土地は国境を接する意味での辺境では無く、只の危険地帯の森が有る田舎と言うだけの辺境なので、言うほど強くは無いのだ。国境線の辺境の場合は権限に外交と戦争も含まれるため、上手く回った場合、辺境伯は下手な王族よりも強い権限を持つので下手に出せなくなるが、あの土地なら問題無いだろう。
 因みに、今回不明だった王族の体調不良の原因を看破したと言う事で、私の発言権はかなり上がって居る、実益はしっかりもらえるので、無駄働きには成らないのが救いだ。

 さらに後日。
 ブレイン領の貴族の動向、余罪の裏を取って居た所、ボロボロと粗が出て来た。
 税率はまさかの5割越えの6割、治水やその他を考えずに鉱山を掘るだけ掘ると言う無理矢理な開発により崩落が発生、周辺の山から鉛の精錬の為に木を伐るだけ伐って丸裸、水害も発生、死亡した工夫の身内の補填も無しに次の工夫を強制徴集、周辺住人の飲み水が、川も井戸も鉛が溶けた毒水で、揃って鉛中毒で・・・・
 誰だこの無能に領地運営任せた馬鹿者は・・・。
 担当は・・・彼奴か、余り縁は無いが、同僚の役人が思い浮かぶ、派閥は、王族3男か、さらにそこから調べると、其の3男グループだけが水晶硝子の食器を嫌って自前の食器、若しくは別の食器を使用と、此処まで来ると何故気が付かなかったのかと頭を抱える、犯人があっさり判明してしまった、派閥の中でも口が軽そうなのを捕まえ、軽く脅した所、直ぐにボロボロと吐き始めた、鉛中毒でも何でも良いから、順当に上が死ねば自分がこの国を継げると?鉛を使った水晶硝子ならバレる筈も無かったと?
 先にお前らが死ね・・・・
 頭を抱えてげんなりする、思ったより根が深いと言うか、範囲が広い、鉛の利権が吹き飛ぶが、一度ブレイン領主の首をもぎ取って、比較的マシなのを派遣して立て直すしかなさそうだ、鉱山開発させている状態じゃない。

 更にブレイン領の余罪を洗うと、不自然に住み込みメイドの数が有って居ない、雇った記録が有るが、何処かに消えて居る、後ろ盾の有る有力者の娘や関係者では無く、平民メイドの類が不自然に数が合わない。貴族特権の関係上、無礼打ちで平民を殺して居ても特に問題には成らないのだが、裁判やその他を通さずに殺せるだけで、正当な理由が無い場合は貴族と言えども罰する事は出来る、尤も、書類上でも誤魔化されてしまえば其処までなのだが、後ろめたい事が有るのか、報告に上げずにただ居なくなっている、行先は・・・?

 ゴブリンが増えてあの領地が潰れればうちの子が継がせられると国王に一筆書かせることが出来たので、ゴブリンが増える様にと、ゴブリンの苗床に成るように、魔の森に近い崖で突き落とした?
 あの時死んだバカ息子の独断では無くお前らも仕込みか。
 各地の検問は?
 貴族特権で脅して、賄賂をちらつかせればどうとでも?
 貴方の取り分も有ります、如何ですと?
 思わず、深くため息をつく。
 調べにやった手駒が賄賂に転んでいる。
 他にもかなり賄賂をばらまいて各方面を黙らせているらしい。
 私に下手な賄賂が通じるとでも?
 お前は既に沈みかかった船だ、今更ばら撒いても沈む流れは変わらん。
 止めを刺して沈めてやろうか?

 もう面倒だ、一族纏めて首を取ってしまおう、此処迄腐ってるとは思わなかった・・・


追伸
 まあ、この辺はもう一寸はもうちょい早目に出せれば良い感じにアクセントになったかもしれない、この作品中唯一の邪悪、そんな領主でした。
 和尚が木仏彫った時に大自在天のハンドグリップとして握り潰されていた豚達です。
 因みに、今更ですが、ブレインは鉛のドイツ語Blei(ブライ)の捩りと言うかこじ付けです、頭花畑でブレインフラワーでも有りますけどね。
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