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3章 活躍する坊主
夜と写経
しおりを挟む夕飯は例のサラマンダー肉をソテーしたものと山もりのオレンジ、何時もの精力スープだった。
オレンジ皮を削ると日持ちが悪くなるからしょうがないよね。余ったらジャムとかですね。
疲れているようだから精力剤と言われるこの肉をいっぱい食べて下さいと?
うん、それは判った、確かに疲れてた、昨日ヤルこともやらずに寝た挙句に、今日寝坊したのは悪かった。
だからと言ってそこまで力強く何度も回復せんから、出なくなるまで二人がかりで搾り取られるのは流石に辛いんだが。
もうちょっとのんびり、激しく動かない方向で。落ち着いて。
最初の頃の受け身はどこ行ったのさ・・・
次の日、義父上がげっそりしていて、義母上がつやつやしていた。どうやら、同じように搾り取られているらしい、お互い大変ですねと、目だけで通じて、二人で苦笑いを浮かべた。
疲れが溜まっているという事で、今日のクエストを休みにしようと言って、写経や木仏を掘る事にした、小僧時代は写経は散々やっているので、般若心経ぐらいはそらで書ける、覚えていない分は虚空の蔵から情報を引き出せるようなので、問題無い、いざと言う時は知識チートもできるだろう。
余談としては、情報を引き出すとき、自分の内のみに作用する真言は、口に出さなくても作用する様だ。
対して自分の外に作用する物は、口に出さないと作用しないと言う事らしい。
最初の一枚の般若心経、手本を書いて、灯に渡す、一先ず硬筆だが、墨と筆よりは楽だろう。
授業で書いて居ただけあって、灯は特に問題なく書き写していく。
エリスがどんな意味かと聞いて来たので一通りの意味を解説していく。灯は授業でやっていたと言う事で、作業のBGMとして聞き流すポーズだ。
般若心経の中身としては。
最初に観音菩薩が悟りを求めて修行中、五蘊(この世の全て)は空である(何もない)と悟った。
「舎利子」は弟子の名前で、弟子に対して、悟りの内容を説明する流れだ。
「この世のあらゆるものには実体がない(空)。それは人の肉体や感覚でも同じことだ。」
「実体がないから、生まれもしないし、消えることもない。汚れることもないし、清らかでもない。増えることも、減ることもない」
「ほんとうには、人の体や心が感じることや、考えることもすべて存在しないのだ。それらを知らないことから起こる、悩み苦しみも存在しない。しかし、老いも死も避けることはできず、悩み苦しみは尽きることがない。それらをすべて解決などできないし、その方法を知ることもできない。そこで、すべてのことにこだわりを持たず、欲望から離れることでこそ、悟りを得て涅槃へと至ることができるのだ。」
「偉大な真言が、悟りへと導いてくれる。その真言はこれだ。」
此処からがいわゆるサビで。
「ギャーテー・ギャーテー・ハーラーギャーテー・ハラソーギャーテー・ボージー・ソワカ」
羯帝羯帝波羅羯帝波羅僧羯諦菩提薩婆訶
「往ける者よ、往ける者よ、彼岸に往ける者よ、彼岸に全く往ける者よ、さとりよ、幸あれ」
分かりやすくかいつまんで説明するとこんな感じ。
最初と最後に言う般若心経はタイトルコールだ。
「ぎゃーてーにそんな意味ありましたっけ?」
灯が何気なく突っ込んできた。確かにここ部分訳すのは珍しい。
「中村先生の解説般若心経だったかな?珍しく訳してあるって事で、一部の業界で話題になったんだ。」
「一部の業界・・・」
「仏教大学と仏教徒だな。」
むしろ其処でしか話題になって居ない。
「わかりました?」
「さっぱりです・・・」
エリスには難しかったらしい。
「世の中全部、無い物だから執着するな、困ったときにはぎゃーてーぎゃーてー唱えろって意味よね?」
義母上が横で聞いていて要約する。さっきの説明で其処まで噛み砕いたのか、凄いな・・・
「良く分かりましたね?」
素直に称賛する。
「実行なんて出来ないけどね?」
それはそうだ。
「心構えみたいなもんなんで、実行まではしなくて良いです。」
この類は最低限予備知識として覚えていたら良いぐらいだ。
「色々無い物だって感覚は、冒険者で戦場に居ると意外と感じるわよ?執着捨てると死ぬからお勧めしないけど。」
「そりゃそうですわな。」
「和尚さん、あなたはちゃんと現世に執着しなさいよ?」
少し困り気味な様子でそんな釘を刺してきた。確かに般若心経の空の感覚を語り続けるとそう取られるか。
「大丈夫です、煩悩だらけの似非坊主ですから、煩悩を捨てるにはまだ早いです。」
「それなら良いけど、ヤルことはやって私に孫抱かせなさいよ?」
最後がその落ちだった。思わずがくりとする。
「毎日搾り取ってるので大丈夫です。」
灯がそのまま打ち返した。
「楽しみにしておくわね?」
笑顔を浮かべてくるりと振り返ってキッチンに向かう、料理を始めたらしい。
「変な死亡フラグ立てないでくださいね?」
灯が微妙な顔でそんな事を言う。
「あったか?」
「まだ早い。」
「あれもカウントするのか?」
「するんで、注意してください。」
「はいはい。」
不安に思ったらしいエリスがいつの間にか張り付いていた、とりあえず落ち着くまで撫でておこう。
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