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2章 いちゃつく坊主の冒険者

各所の反応 神父

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(最近忙しい・・・)

 内心独り言ちる、村で唯一の教会の神父として働いているが最近はやたらと忙しい、教会近くの川の水が濁った、それだけなら上流で雨が降ったとか地すべりや土砂崩れが起きたとか、そんな何時もの事だと思っていたが、川周辺の草木が枯れ始めた、水を飲んだ鳥や動物が死んだ、周辺住人が体調不良を訴えている。

 教会の神父として放って置く訳にも行かずに、ギルドに原因調査と解決を依頼し、浄化の奇跡で体調不良者を癒して回っていた。小さな怪我や傷を治す治療術を使える者はある程度居るのだが、毒や病気、呪いを治療できる浄化の奇跡を使えるのはほぼ神職の者ばかりで少数派、この村では私一人しかいない。

 それでも通常ならそれほど忙しくはなく、教会で預かっている孤児の世話以外は巡回の名目で充てもなくぶらぶらと散歩がてら歩いていたりするのだが、ここ最近が異常なのだ。

 そんなこんなでふと村の中で浄化結界が起動した気配があった、何事かと発動地点を探す、巨大な網目模様の壁が家から生えていた。あの方向だとギルドマスターの家が有る筈、確か見慣れない来客があったとか噂が流れていた。壁は直ぐに消えたのだが、濃密な浄化の神気が残っている、何にしても確かめなくては。



 逸る心でギルドマスターの家まで移動して、気持ち居住まいを正してドアノッカーでドアを叩く、場所は直ぐ判った、この村の住人の住居と住人の顔は粗方覚えているし、そもそもこの浄化の神気の気配は間違え様がない、近くに寄っただけで軽い病人が治りそうなほどの強い力を感じる。

 少し待つと奥方が出てきた。

「この辺に聖者が降臨されたと聞いて来ました。」

 噂ではただの来客と聞いているが、少し大袈裟に言ってみる、神が直接降臨したと言っても異論をはさむ者はいなさそうだが・・

「あらあら、丁度良かった、お待ちですよ?」

 奥方が出迎えてくれた、部屋に案内される。

「{こんにちわ、和尚とよばれております}」

 小声でエリス譲に和尚という人が話しかけ、その言葉をエリス譲が改めて話しているようだ。

 挨拶らしくにこやかに手を出してくる。握手でいいのだろうか?手を出してみると優しく握り返された。

「こんにちは、この土地の教会を任されております、クルアと申します」

 先ずは名乗らなくては。しかし、これだとエリス譲と和尚殿、どちらを見ていいのかわからない。

「こちらから出向く予定でしたが、来てくれるということでお待ちしてました、」

 どうやら遅かれ早かれ会うことは決まっていたらしいが、こちらとしても早く会っておくことに越したことはない。

「ええ、あれほど強力な浄化な力を見たら来ないわけにはいきませんから。」

 苦笑交じりに返す、あれだけ目立ったのだから私は飛んで来ない訳には行かない。

「少々遠くから来たもので、言葉が通じないので私が翻訳をしてます。」

 なるほど、それでこういう不思議なしゃべり方になると。

「なるほど、異界は言葉が違いましたか。」

 遠くというのは異界だろうか?

「問題無くお会いできて安心しています、私の地元ではほかの住民との出会いは争いの元ですから。」

 和尚さんの世界では人同士の争いが多かったのだろうか?こちらでは魔物との戦いが最優先で人同士の戦い処では無いので、それ処ではない。

「託宣がありまして、異界より救世主が派遣されるので失礼のないようになさいと。」

 確か近いうちに来客があると託宣が来て世界中の教会で大騒ぎになった。

「それはまた、準備して待っていたのはお互い様ですか。」

 和尚さんが苦笑する。

「ええ、この託宣はしっかりと全世界に文が伝わっている筈です。」

 和尚さんが少し困ったような顔をした。

「ここに私がいることは?」

 隠れておきたいのだろうか?

「現状私だけの秘密です、誤報であっては困りますから。」

 今回の(巨大な浄化の力が出現しました、不明です)だけ送っても何の意味も無いだろうし、出来る限り話を聞いておきたい。

「それは良かった、正直こちらの世界の右も左もわかりません、出来ればこちらの準備が出来てからお願いします。」

 どうやら和尚さん側の準備が整って居ないと言う事らしい、こちらの託宣も失礼の無い様にとしか伝わっていないのだ、ここで無理難題を頼んでは失礼にあたるだろう。

「はい、では準備が出来たら?」

 ここでは一歩下がっておこう。

「ええ、その時はお願いします。」



 後日、和尚さんが冒険者として仕事を受けているという事を聞いた。大物のハイエナやイノシシをギルドに納品していたらしい、小さい村だ、新顔の行動は筒抜けだ、そもそも何がとは言わないが、和尚さんの一行は目立つ、表立ってではないが、かなり観察されているだろう。

 改めてギルドに行き調査依頼等の進捗状況の確認を行う。水に浄化の奇跡を使えばある程度無害化できることは判ったが、私の力では川の水をすべて浄化することはできない。

 大本の濁りは沼で発生しているらしいが、あの沼の水をすべて浄化するほどの出力が無いし、自分は村の中で浄化してまわるので手いっぱいだ。

「指名依頼で和尚に水源から何から浄化してもらった方が早そうだな?」

 ギルマスがそんなことを提案してきた、確かに其れが出来れば一番手っ取り早いが。

「受付にガンダーラのPT来たら指名依頼あるからこっちに通すよう言っておいてくれ。」

 ギルマスが書記として付いて居た職員に指示を飛ばしている、

「そんな簡単に頼んで良いのですか?」

「大丈夫だ、ガンダーラのPT組んでるメンバーはうちのエリスと、その旦那として和尚、その嫁としての灯だ、つまり全員俺の息子と娘だ、多少仕事振っても問題無いだろう。」

 自慢気にギルマスが笑う、それで和尚さんがエリス譲と一緒に家にいたのか。

「だが昨日の今日でエリス譲を外に出していいのか?」

 数日前は帰ってこないエリス譲を待ち焦がれて憔悴しきっていたのだが。

「あの和尚、噂で聞いてるかもしれんが、俺より強い、下手に引き離してエリスに恨まれるより一緒にいてもらった方が安心だ。」

 確かに村の中が安心とは限らない、魔物の襲撃で地図から消えてしまった村は少なくないのだ。今は引退してはいるが「疾風のギル」と呼ばれていた全盛期は凄腕と評判だったのだ、それが認めているのなら私からは異存は無い。



「失礼します、丁度窓口にガンダーラの方々がいらっしゃったので連れてきました。」

 そうして居る内に和尚さんの居るPTが来たらしい。

「ああ、入ってくれ。」

 ギルマスが促す。

「神父さん?」

 和尚さんは予想外だったらしく驚いている、

「はい、また会えて何よりです。」

 前回和尚さんは此方の言葉を喋れないと言う話だったが、今は喋れるらしい、こちらとしては都合が良いので問題は無い。

「この村の近くには水源が二つあってな、山側と沼側にそれぞれ一つあるんだが。」

 ギルマスが説明を始めた。



 和尚さんが実演してくれる流れになった。

「私が浄化の発動は判ります。」

「なるほど。」

 和尚さんが汚れた水の入った瓶を注意深く眺めて居住まいを正し、精神統一を行っているようだ。

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

 それだけでも燐光を発している、多分私の浄化の奇跡と同じぐらいだ。

 瓶の中のにある濁った水、大分透明度が上がった。

「簡単にだとこんな感じですね。」

 確かに簡単な呪文だ、同じ言葉を繰り返しているだけだが、それだけでも効果があるのか。

「それだけでも立派なもんだ、もっと強いのももあるんだろう?」

 ギルマスがもっと強いのをやって見てくれと言う、あまり無理をさせるものではないが、私も見たい。

「ちょっと時間かかるので、少々お待ちください。」

 和尚さんが居住まいを正してもう一度唱え始める、今度は長かった。



「摩訶般若波羅蜜多心経・観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識・亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智、亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罜礙、無罜礙故、無有恐怖、遠離・一切・顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経」



 和尚さんが目を開け居住まいを崩す、こちらの言葉になっているらしく聞き取れるが、何を言っているのかわからなかった、そして一度で5分もかかるのか、こちらの呪文の詠唱よりかなり長い。

 更に唱えている間中、燐光が強く発光している、下手な魔物はこれだけで焼けるのではないだろうか?

「こんなもんでどうです?」

 瓶の中に入っていた色の付いた濁り水は無色透明になっていた。

 これでは私が発動がわかるどころではない、誰が見てもわかる、聖人が出ましたと報告して総本山に連れて行ったら異を唱える者は誰も居ないだろう。そのまま聖人認定の後に各地を巡礼として回ってほしいと頼み込まれたり飼い殺しにもされかねない。確かに隠れていた方が無難だ。

「・・・いや、圧倒された。まさかここまで強いとは思わなかった。」

 ギルマスもあれの異常さは良く分かったらしい、冷や汗をかいている。

「これでは私の立場がありませんね。」

 私の立場も出る幕も在りはしない、今回仕事として受けてくれるなら、そのまま任せて安心だろう。

 それに対して横にいた灯さんとエリスが得意気に胸を張っている。

「私の誇張じゃなかったですよね?」

 エリス譲が胸を張ってって言う、私の旦那様はすごいでしょう?と自慢しているらしい。確かに凄い。

「いや、あの報告は大分誇張だったと思うぞ?」

 和尚さんが得意満面のエリスに突っ込みを入れる。灯さんは得意気に笑っている。

「こういうの当人には判らないんですよ。」

 自覚無しでこれをやられたらもっと立場がない、凄い事を自覚した上で身の振り方を考えてほしい。

 前回様子見の色が強かったのはそう言うことかと思うが、それどころでない。

 そういう意味で後でもう一度話さなければならないだろう。

「これなら私が行かなくても安心ですね、出番が有りません。」

 むしろ付いていったら私の別行動で浄化して回れると言う存在意義が消えてしまうので着いていくだけ無駄である。



「で、最終的には何するんです?」

 そうだ、結局そこは説明していなかった。

 説明を終えると特に問題無くPTガンダーラは依頼を受けてくれた。

 逆に依頼料が高くないかと言われたが、今回はギルドに出ている領地管理の補助金で賄われる、人類領地の前線基地である開拓地は税金免除でむしろギルドと教会に補助金が出ている、こういう災害じみた依頼の時には問題無く活用できるので、ある意味豊かだ。

 人死にや表立っての被害が出てからでは遅いので、このギルドはそこらの加減は上手いので信頼できる。



「そういえばギルマス。この地図もらえます?」

 依頼の説明を終えて地図を前に作戦会議をしていたエリス嬢がギルマスにそんな事を言った。

「直接呼ぶときはお義父さんと呼んでくれ・・・」

 ギルマスが悲しそうな様子でそんな事を言う、義父と義娘の関係は距離感が難しいらしい。

「私混同しないんじゃなかったんじゃ・・・じゃあ、お義父さんこれ下さい。」

 エリス嬢の前では確かに公私混同していないが、ギルマスはエリス嬢のための名目の親馬鹿の為、裏側で色々やっているので今更である。

「しょうがないから選別にしておく。大事に使ってくれ。」

 エリス嬢から、わがまま言われて内心嬉しそうだなと要らない事を思いつつその様子を見ていた。

「はい、ありがとう、お義父さん。」



 そんなこんなで無事依頼を受けて行ってくれたので、無事解決することを祈ろう。
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