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第34話 空欄と条件

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「所で、何で空欄と言うか、連名が?」
 先程の婚姻届をしげしげと確認すると、夫の欄は一つなのに、妻の欄が幾つもあった、今は空欄だ。
 …………いや、予想は付くのだが。
「ん? 埋めるか?」
 何でも無い事のようにヤタちゃんが反応する。
「立候補!」
『はい!』
 ヤタちゃんの掛け声と共に、何かいっぱい上がった。冗談ぽいのから目が血走ってるのまで、色々だ。
 ミサゴは若干寂しそうだが、しょうがないかと言う感じの、困り気味の笑顔を浮かべている。人口比的に重婚前提なのだろうと、説明されるまでも無く納得する。
「そんな訳でいつでも埋まるぞ?」
 何故か得意気なヤタちゃん
「いや、そうじゃなくて、いや、わかったんで良いです」
 悪手っぽかったので、一旦発言を下げる。
「はい!」
「はい!!」
「はい!!!!」
 逃してたまるかと言う様子で段々と距離を詰めてくる面々、圧が凄い。
 皆さんお年頃で、見た所適齢期で、美人さん揃いだ、そう言う意味で性対象としての魅力は有る。ハーレムの気配は凄いし、良い匂いがするが。
「すいませんが、未だちょっと早いので、一旦保留でお願いします」
 思わず土下座に近い勢いで頭を下げた。
 どうどうと言う感じに包囲網が広がった。
 人心地ついて、小さく溜め息をつく。
「ピラニア水槽にネズミ落とすようなもんじゃな? ……いや、パクーの水槽にバナナの方が絵的に合うか?」
「もげるじゃ無いですか、ヤダー」
 変な例えを出すヤタちゃんに思わず突っ込みを入れた。
 因みに、パクーはアマゾン川辺り原産のピラニアと同じカラシン族で植物食の魚だ、鋭くは無いがエグい歯をしていて、どんぐりみたいなやたらと固い木の実を噛み砕ける。肉食性は無いのだが、例のエグイ歯で金玉を食いちぎると言う現地の噂の関係上、ボールカッターと言う異名が有る。
「と言うか、犯人、いや主犯………」
 呟きつつ、怨みがましい目線を向ける。
「あれ?」
 先程の流れで、ヤタちゃんだけ手が上がっていなかった。
 そう言う対象では無いと? アレだけして置いて?
 むしろミサゴが1番なら。ヤタちゃんは距離感的に2番だと思うのだが。
「ん? 何かあったか?」
「いや、立候補してなかったなと?」
「わしか?」
「はい」
 頷く。
「こう言った時に年増は若いのに譲るもんじゃしな?」
「もう生理上がっとるから中に出しても無駄撃ちじゃし?」
「そもそも再婚じゃし?」
 今更赤い顔でもじもじ始まった、押したら行けそうだ。
「そんなワシのことを口説きたいと?」
「はい」
 思わず肯定する。
「ふむ……………」
 長考に入った様子だが。
「じゃあ、100人嫁にするか、ワシのことを落とせたらじゃな? こやつらの手前、爺様に操も立てなきゃならんし?」
 大した思考時間も無く、そんな提案がされた。何処と無く得意気で、簡単じゃろう? と言う雰囲気だった。
 同時に一瞬手元が隠れた次の瞬間、手品のようにわざとらしく左手薬指につけた指輪をアピールされた。今まで着けていなかったはずなのだが。
 ヤタちゃんの小さい手の指には、飾り気の少ない琥珀色の石がきらりと光っていた。

 追伸
 過去形だけど、この世界では数少ない相手居た類の既婚者です。
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