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第33話 翡翠の指輪

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「どうせだからこれもやっとけ?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべ、あまり響かない様に小声でそんな事を言いながらヤタちゃんが何かを取り出した。
 翡翠の指輪だった、材質が翡翠の石だけで構成されるシンプルなヤツだ、中国とか台湾土産に見かける感じがする。白と緑、青や紫のグラデーションする色調、共に透明感が有って、とても綺麗だ。
 硬度7で劈開が無い特異な性質を持つ翡翠たからこそ成立する、シンプルな構造美だった。
(これが、これで?)
 と言う感じに目立たない様に小さく人差し指と親指で指さして確認する。
 ミサコは先ほどから仲居さん達にもみくちゃにされていてこちらを向いていない。
(うむ)
 得意気に声を上げずに頷き、やっちまいなYOって感じにヤタちゃんが笑顔で親指を立てた。
 仕込まれた通りにやるのはどうなのだ? と言う頭の中の童貞と、やっちまってどんなリアクション取られるか見てみたいな? と言う芸人根性が一瞬拮抗した。
「ミサゴさんやーい?」
「はい?」
 ミサゴがこちらを向く
「お手を拝借?」
「はい?」
 右手が出て来た。
「そっちじゃ無い、こっち」
 ぺいっと右手を下げさせて、左手を掴む。
「え?」
「指伸ばして? パーで」
 呟くように指示しつつ、指先を掴んで指先の姿勢を固定する。
(入るかな?)
 そもそもサイズどうなんだ?
 そんな内心のツッコミをさておいて。
 誂えた様に指輪はスルッと左手薬指に収まった。
「おーーー」
 周囲から感嘆の声? が漏れた。
 ミサゴがパクパクと口を動かす。目からは涙が滲んで来ている気がする。
「駄目だったら外して良いよ?」
 その反応がどっちだか判らず、駄目だったかな? と言う感じに予防線を張ってみる。
 …… 
 ………
 ……………
 しばらくの間、無音が続いた、滑ったかな? 回収にかかるべきだろうか。
「や!」
 反応悪いので回収ですよーと指輪に触れると、物凄い勢いで逃げられた。
 ふしゃーっと威嚇する猫を彷彿とさせる動き。と言うか一緒に同じ威嚇のポーズをとる猫がミサゴの横に居た、いつの間に?
 咄嗟に目線がそちらの猫に滑る、目つきの悪いキジトラと、目が大きいちょび髭の三毛猫だった。
「一生外しませんから!」
 いやそっちじゃないこっちだとミサゴから反応が返って来た。
「それは何より、大事にしてくださいね?」
 にっこり笑っておいた。
 何だか後ろで胸を押さえて悶えてるのがいっぱい居た。
 胸やけかな? 医者でも進めるべきだろうか?


 その後、お手付き後は翡翠にアクセサリーを装着させてもらうのが流行ったのは言うまでも無い。

 追申
 猫の名前、目つきの悪い方、ちんぴらさん。
 ちょび髭、部長さん。
 共に接客担当の看板猫。さんを含め無いと返事しません。
 因みに、このくりぬき翡翠の指輪のお値段は国内産のそこそこで市販価格は一個10万程、多色系なのでレアリティ上がって相場は多分もっと上、材料費的には一話のアレみたいに毎日ミサゴが浜辺で拾ってきてたアレですので、ミサゴの時給と加工賃考えなければお土産として儲けが割と美味しいブツ。帳簿的には例の白濁液の一時買取価格で相殺、ヤタちゃんは抜け目ないのでタダ働きはしません。
 ミサゴにとってこの指輪自体はかなり見覚えのある物だけど、翡翠に直で送られて装着されたという行動でプライスレス。ミサゴ的には捨てられないお祭りの玩具の指輪みたいなお話、原産地なので価値観がバグってます。
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