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気持ちは嘘じゃないけど
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「あっ」
友達と購買からクラスに帰る途中、珍しい光景を見て思わず声が出た。
ハイメくんの事を気になって、ついハイメくんの姿を探しちゃう様になって知った事の一つが、仲が良いのか、ハイメくんはいつも同じメンツの男子と四人組で居るって事。だけど今日は、女子も居た。
緩くウエーブした黒紫の髪の女の子。制服で有るワンピースの裾を切っているのか、ちょっと短い。ハイメくんと同じ朝雷寮の子みたいだけど、仲良いのかな。いいな、話せて。
つい、眺めてしまっていると、女の子の顔が見えた。
わぁ、凄い美人。
垂れ目で、ダウナーな雰囲気が、大人っぽい。でも、クスリと笑った顔が凄く可愛い。
モテそうな子、姿だけでそう思わせる。
……それに比べて私は、灰をそのまま被ったような色の長い髪はもさもさしているし、どんぐりのような丸く茶色い目で、全体的に子供っぽい。
ブスとは言われたことは無いけど、特別可愛いとも言われたことも無い、微妙な女だ。
「三つ編み止めよっかな」
そしたら、子供っぽさは減るかも。
でも、そんなことしたら、もさもさの髪がもっと広まっちゃうし……。
「急にどうしたの?」
髪をまとめるために結ばれた大きな三つ編みを触っていると、一緒に居た友達、アンジュに不思議がられる。
「えーっと、なんとなく」
気になる人の側に女の子が居たから気になって、なんて言うのが恥ずかしくて誤魔化すけど、別の友達、ドロシーが、私がさっきまで見ていたものに気づく。
「そういえば、グリーって最近、あの人……何だったかしら? ああ、ハイメの事をよく見ているわよね」
不思議そうなドロシーの言葉を聞いて、アンジュも思い出した様に話す。
「そういえば……私も、グラちゃんと彼が話しているの見たことあるかも」
それを聞いて、ドロシーは心配そうに尋ねる。
「え、それって大丈夫? いじめられてはいない?」
「大丈夫。いじめられてないよ」
アンジュもドロシーも同じクラスの女の子で、学校ではいつも一緒に居る二人。
アンジュは、同寮の同室でも有る。大人しく目立つのが苦手なのが私と同じで、とても気が合う子。鳥人で、白い翼を持っている。
ドロシーは、昼晴寮だけど、地元が同じ幼なじみで、昔から仲が良い。気が強めなところは有るけど、面倒見が良くて、優しい子だ。
「むしろ、助けられているよ」
「本当に?」
ドロシーの所属する昼晴寮は、ハイメくんの居る朝雷寮とは考え方が違う事が多く、どちらも行動していくタイプでぶつかりやすいので、特に相性が悪い。だから、私の事もこんなに心配している。
でも、本当にハイメくんは優しい人なので安心して欲しいけど、信じられないのか、ドロシーとアンジュは、心配そうに目配せしている。
どうしたら信じてくれるかな。
「本当に本当だよ。例えば「ねえ、ちょっといい?」はい」
二人を説得しようとしたら、後ろから声をかけられたので立ち止まり振り返ると、そこに居たのは、さっきまでハイメくんと一緒に居た女の子だった。
どこか、機嫌が悪そうに見える。
……大丈夫だよね。
さっき言った、大丈夫って言葉がフラグになりそうで、顔が引きつる。
「あなた、最近ハイメと話してるよね」
「そう……ですね」
目を見ず、髪を触りながら話す彼女からは、私より背が小さいのに見えない圧が有って、畏まってしまう。
制服に付けている学年を表すバッジは、一年生のものだから、同い年なのに。
「さっきも見ていたみたいだけど、ハイメが優しいからって、調子乗らないでね」
念を押すように睨む彼女の迫力に押され、何度も縦に頷く。
何、この子。すっごい、怖い!
まさか、これを言う為にわざわざ追いかけてきたのかな。
私が必死に頷いたのを確認して興味を無くしたのか、彼女は私から目を離すと、私と同じ十三歳とは思えないほど、色っぽくため息をついた。
「分かっているなら良いけど。ハイメに言わなきゃなぁ、勘違いする子が出るって」
親しいと分かるような話し方。……やっぱり、仲いい子なのかな。
胸の奥が、ずーんと沈む。
もう、一年も学校に居るんだから仲の良い女の子が居ても普通だけど、それでも、彼と仲の良い女の子が居るって事実に傷つく。
私も、もっと早く知り合いたかったな。
「あなたと違って私は、学校入ってすぐの頃からハイメと仲いいから、お願い、聞いてくれるの」
彼女は、ニコリと可愛く笑った。
うわぁーーー。
とどめの一撃に心が折れる。
この子、もしかして、いや、もしかしなくても、ハイメくんのこと好きなのかな。マウント取ってくる感じは嫌だけど、誰から見ても可愛い子が自分を好きだったら好きになっちゃうよね……
私の胸が、どんどん重くなって、上手く表情を作れない。彼女の赤紫の瞳に映る私は、顔が引き攣って、泣きそうに見えた。
「あなた、関係無くないかしら?」
え……ドロシー?
意気消沈している私と、勝ち誇っているような彼女の間に、突然、ドロシーが割って入る。
「別に、グリーは調子乗ってないと思うわ。それに、仲良くしたくないとか、そんな事ハイメが言ったわけじゃないのでしょう。なら、グリーも気にしなくて良いわよ」
にっこりと笑うドロシーを見ると、確かにそうかもと思うけど、落ち着いていた彼女の機嫌が悪くなったので頷けない。
「はあ? なに急に? あなた関係ないわよね」
「そうよ。関係無いわ。グリーとハイメの事だもの。だから、あなたも関係無いわよね」
バチバチと二人の目に火花が散るのが見えた気がする。
落ち着いてと、二人の間に割って入りたいけど、怖すぎて無理。アンジュも同じように青い顔で、二人を見ていた。
今、近くを歩いている人が少なくて良かったな。そう思うことにした。
「私は、ハイメと仲いいの」
「私だって、グリーと仲良しだわ。だから、グリーを傷つける様なことしないで」
ドロシー……
ハッキリと言い切ったドロシーに、心が揺れる。
ドロシーは昔からこうだった。好奇心旺盛で危険に突っ込んでいくから、近くにいてハラハラする子だったけど、とても優しくて、自分から動くのが苦手な私の手を引いてくれたし、何かを怖がったら守ってくれた。
そんなドロシーが、私には、とってもかっこ良くて、憧れていた。
今も、私よりも、彼女よりも小さいのに、壁になるように前に立っている。
ダメだ。いつまでもドロシーに守られていちゃ、任せていちゃ、ダメ。
言いたいことは、自分で言わなきゃ。私が憧れているドロシーみたいに。
睨み合っている二人の間に割って入る。
「私は!」
ドロシーが心配そうにこちらを見た。きっと、アンジュもこんな風に心配している。
それに比べて彼女は、イライラしているみたいで、目が鋭い。
怖い。でも、言うって決めた。
「あなたからすれば、調子乗っているように見えているかも知れないけど。私は、ハイメくんと普通に仲良くしたいです」
言いたかったのは、たったそれだけ? って思うかも知れないけど。私の心臓はバクバクして、顔が熱くなる。だって、こんな風に自分の意見をはっきり言うことなんて、私はとても苦手で、殆ど無い事だから。
「ハイメって、有名な魔法士の家系だけど。あなたは?」
彼女は、見定めるように、私の上から下まで見る。
「家は関係無いじゃないですか。ハイメくんは、気にしなかった」
この子に負けたくなくて言い返すけど、彼女は呆れた用にため息をついた。
「ハイメがそう思っても、ハイメの家族はどう思うかしらね」
そんな事言われても、分からない。ハイメくんの家族に会ったことなんかもちろん無いし、魔法士の家系にだって、会った事無い。
確かに、魔法士が非魔法士を見下しているとかそういう噂はあるけど、ハイメくんは全然そんな感じないし。……でも、寮ごとの対抗意識は大人になっても残っている人が多いって聞いたことがある。……ハイメくん、私と話すことで、家族に怒られちゃったりするのかな。
私が何も言えなくて固まってしまった所で、声がかかる。
「俺の家族がなんだって」
この声は……ハイメくん!
「ハイメ!」
横から声をかけてきたハイメくんは、いつもより鋭く感じる目で、私達を見た。
「ハイメが、この子に迷惑かけられているみたいだから、私……」
近づきながら、涙声で訴える彼女をハイメくんは一刀両断する。
「ダイナが何を勘違いしているのか知らないけど、俺、グラを迷惑だと思ったこと無いよ」
あ、良かった、私迷惑じゃないんだ。
それを知れただけで、ほっと一息つける。
「でも、彼女とは寮が違うじゃない。それなのに仲良くするなんて裏切りよ」
否定された、ダイナと呼ばれた彼女は、感情を露わにして、ハイメくんに訴える。
反対にハイメくんは、とても冷静で、冷たい程だった。
「確かにグラと寮は違うけど、それの何がいけないの? 寮の規則として決まってないよ」
彼女は何も言えなくなってしまい、口を結びながら、手をぎゅっと握っている。
「俺は、俺が仲良くしたい子と仲良くするよ」
私は、その一言で宙に舞えるくらい嬉しかった。
ハイメくんも仲良くしたいって思ってくれているんだ。
でも、彼女には、とどめの一撃だったらしい。
「ハイメのバカ!」
彼女は、泣きそうな顔で去って行く。
その姿を見守ることなく、ハイメくんは私に向き直る。怖かった顔が、いつもみたいに優しくなっている。
「ごめんね、グラ。困らせちゃったね」
「私は大丈夫だけど、良かったの?」
ハッキリと、仲良くなるって宣言しちゃったのも、彼女のことを放っておくのも。
私の心配をよそに、ハイメくんは機嫌が良さそうに、微笑んだ。
「うん。大丈夫だから、気にしないで。それよりも俺、グラが俺と仲良くしたいって言ってくれて、嬉しかった」
「聞いてたの!?」
恥ずかしくて、顔が熱くなる。ハイメくん、近くには居なかったと思うんだけど。
「俺、耳が良いんだ」
ハイメくんは器用に狼耳をピクピクと動かした。
えー、何それ知らなかった。すごく、恥ずかしい……。
気持ちは嘘じゃないけど、聞かれていたと思うと、恥ずかしくて仕方ない。
「これからも仲良くしようね」
素敵な笑顔のハイメくんに頷くことしか出来なかった。
友達と購買からクラスに帰る途中、珍しい光景を見て思わず声が出た。
ハイメくんの事を気になって、ついハイメくんの姿を探しちゃう様になって知った事の一つが、仲が良いのか、ハイメくんはいつも同じメンツの男子と四人組で居るって事。だけど今日は、女子も居た。
緩くウエーブした黒紫の髪の女の子。制服で有るワンピースの裾を切っているのか、ちょっと短い。ハイメくんと同じ朝雷寮の子みたいだけど、仲良いのかな。いいな、話せて。
つい、眺めてしまっていると、女の子の顔が見えた。
わぁ、凄い美人。
垂れ目で、ダウナーな雰囲気が、大人っぽい。でも、クスリと笑った顔が凄く可愛い。
モテそうな子、姿だけでそう思わせる。
……それに比べて私は、灰をそのまま被ったような色の長い髪はもさもさしているし、どんぐりのような丸く茶色い目で、全体的に子供っぽい。
ブスとは言われたことは無いけど、特別可愛いとも言われたことも無い、微妙な女だ。
「三つ編み止めよっかな」
そしたら、子供っぽさは減るかも。
でも、そんなことしたら、もさもさの髪がもっと広まっちゃうし……。
「急にどうしたの?」
髪をまとめるために結ばれた大きな三つ編みを触っていると、一緒に居た友達、アンジュに不思議がられる。
「えーっと、なんとなく」
気になる人の側に女の子が居たから気になって、なんて言うのが恥ずかしくて誤魔化すけど、別の友達、ドロシーが、私がさっきまで見ていたものに気づく。
「そういえば、グリーって最近、あの人……何だったかしら? ああ、ハイメの事をよく見ているわよね」
不思議そうなドロシーの言葉を聞いて、アンジュも思い出した様に話す。
「そういえば……私も、グラちゃんと彼が話しているの見たことあるかも」
それを聞いて、ドロシーは心配そうに尋ねる。
「え、それって大丈夫? いじめられてはいない?」
「大丈夫。いじめられてないよ」
アンジュもドロシーも同じクラスの女の子で、学校ではいつも一緒に居る二人。
アンジュは、同寮の同室でも有る。大人しく目立つのが苦手なのが私と同じで、とても気が合う子。鳥人で、白い翼を持っている。
ドロシーは、昼晴寮だけど、地元が同じ幼なじみで、昔から仲が良い。気が強めなところは有るけど、面倒見が良くて、優しい子だ。
「むしろ、助けられているよ」
「本当に?」
ドロシーの所属する昼晴寮は、ハイメくんの居る朝雷寮とは考え方が違う事が多く、どちらも行動していくタイプでぶつかりやすいので、特に相性が悪い。だから、私の事もこんなに心配している。
でも、本当にハイメくんは優しい人なので安心して欲しいけど、信じられないのか、ドロシーとアンジュは、心配そうに目配せしている。
どうしたら信じてくれるかな。
「本当に本当だよ。例えば「ねえ、ちょっといい?」はい」
二人を説得しようとしたら、後ろから声をかけられたので立ち止まり振り返ると、そこに居たのは、さっきまでハイメくんと一緒に居た女の子だった。
どこか、機嫌が悪そうに見える。
……大丈夫だよね。
さっき言った、大丈夫って言葉がフラグになりそうで、顔が引きつる。
「あなた、最近ハイメと話してるよね」
「そう……ですね」
目を見ず、髪を触りながら話す彼女からは、私より背が小さいのに見えない圧が有って、畏まってしまう。
制服に付けている学年を表すバッジは、一年生のものだから、同い年なのに。
「さっきも見ていたみたいだけど、ハイメが優しいからって、調子乗らないでね」
念を押すように睨む彼女の迫力に押され、何度も縦に頷く。
何、この子。すっごい、怖い!
まさか、これを言う為にわざわざ追いかけてきたのかな。
私が必死に頷いたのを確認して興味を無くしたのか、彼女は私から目を離すと、私と同じ十三歳とは思えないほど、色っぽくため息をついた。
「分かっているなら良いけど。ハイメに言わなきゃなぁ、勘違いする子が出るって」
親しいと分かるような話し方。……やっぱり、仲いい子なのかな。
胸の奥が、ずーんと沈む。
もう、一年も学校に居るんだから仲の良い女の子が居ても普通だけど、それでも、彼と仲の良い女の子が居るって事実に傷つく。
私も、もっと早く知り合いたかったな。
「あなたと違って私は、学校入ってすぐの頃からハイメと仲いいから、お願い、聞いてくれるの」
彼女は、ニコリと可愛く笑った。
うわぁーーー。
とどめの一撃に心が折れる。
この子、もしかして、いや、もしかしなくても、ハイメくんのこと好きなのかな。マウント取ってくる感じは嫌だけど、誰から見ても可愛い子が自分を好きだったら好きになっちゃうよね……
私の胸が、どんどん重くなって、上手く表情を作れない。彼女の赤紫の瞳に映る私は、顔が引き攣って、泣きそうに見えた。
「あなた、関係無くないかしら?」
え……ドロシー?
意気消沈している私と、勝ち誇っているような彼女の間に、突然、ドロシーが割って入る。
「別に、グリーは調子乗ってないと思うわ。それに、仲良くしたくないとか、そんな事ハイメが言ったわけじゃないのでしょう。なら、グリーも気にしなくて良いわよ」
にっこりと笑うドロシーを見ると、確かにそうかもと思うけど、落ち着いていた彼女の機嫌が悪くなったので頷けない。
「はあ? なに急に? あなた関係ないわよね」
「そうよ。関係無いわ。グリーとハイメの事だもの。だから、あなたも関係無いわよね」
バチバチと二人の目に火花が散るのが見えた気がする。
落ち着いてと、二人の間に割って入りたいけど、怖すぎて無理。アンジュも同じように青い顔で、二人を見ていた。
今、近くを歩いている人が少なくて良かったな。そう思うことにした。
「私は、ハイメと仲いいの」
「私だって、グリーと仲良しだわ。だから、グリーを傷つける様なことしないで」
ドロシー……
ハッキリと言い切ったドロシーに、心が揺れる。
ドロシーは昔からこうだった。好奇心旺盛で危険に突っ込んでいくから、近くにいてハラハラする子だったけど、とても優しくて、自分から動くのが苦手な私の手を引いてくれたし、何かを怖がったら守ってくれた。
そんなドロシーが、私には、とってもかっこ良くて、憧れていた。
今も、私よりも、彼女よりも小さいのに、壁になるように前に立っている。
ダメだ。いつまでもドロシーに守られていちゃ、任せていちゃ、ダメ。
言いたいことは、自分で言わなきゃ。私が憧れているドロシーみたいに。
睨み合っている二人の間に割って入る。
「私は!」
ドロシーが心配そうにこちらを見た。きっと、アンジュもこんな風に心配している。
それに比べて彼女は、イライラしているみたいで、目が鋭い。
怖い。でも、言うって決めた。
「あなたからすれば、調子乗っているように見えているかも知れないけど。私は、ハイメくんと普通に仲良くしたいです」
言いたかったのは、たったそれだけ? って思うかも知れないけど。私の心臓はバクバクして、顔が熱くなる。だって、こんな風に自分の意見をはっきり言うことなんて、私はとても苦手で、殆ど無い事だから。
「ハイメって、有名な魔法士の家系だけど。あなたは?」
彼女は、見定めるように、私の上から下まで見る。
「家は関係無いじゃないですか。ハイメくんは、気にしなかった」
この子に負けたくなくて言い返すけど、彼女は呆れた用にため息をついた。
「ハイメがそう思っても、ハイメの家族はどう思うかしらね」
そんな事言われても、分からない。ハイメくんの家族に会ったことなんかもちろん無いし、魔法士の家系にだって、会った事無い。
確かに、魔法士が非魔法士を見下しているとかそういう噂はあるけど、ハイメくんは全然そんな感じないし。……でも、寮ごとの対抗意識は大人になっても残っている人が多いって聞いたことがある。……ハイメくん、私と話すことで、家族に怒られちゃったりするのかな。
私が何も言えなくて固まってしまった所で、声がかかる。
「俺の家族がなんだって」
この声は……ハイメくん!
「ハイメ!」
横から声をかけてきたハイメくんは、いつもより鋭く感じる目で、私達を見た。
「ハイメが、この子に迷惑かけられているみたいだから、私……」
近づきながら、涙声で訴える彼女をハイメくんは一刀両断する。
「ダイナが何を勘違いしているのか知らないけど、俺、グラを迷惑だと思ったこと無いよ」
あ、良かった、私迷惑じゃないんだ。
それを知れただけで、ほっと一息つける。
「でも、彼女とは寮が違うじゃない。それなのに仲良くするなんて裏切りよ」
否定された、ダイナと呼ばれた彼女は、感情を露わにして、ハイメくんに訴える。
反対にハイメくんは、とても冷静で、冷たい程だった。
「確かにグラと寮は違うけど、それの何がいけないの? 寮の規則として決まってないよ」
彼女は何も言えなくなってしまい、口を結びながら、手をぎゅっと握っている。
「俺は、俺が仲良くしたい子と仲良くするよ」
私は、その一言で宙に舞えるくらい嬉しかった。
ハイメくんも仲良くしたいって思ってくれているんだ。
でも、彼女には、とどめの一撃だったらしい。
「ハイメのバカ!」
彼女は、泣きそうな顔で去って行く。
その姿を見守ることなく、ハイメくんは私に向き直る。怖かった顔が、いつもみたいに優しくなっている。
「ごめんね、グラ。困らせちゃったね」
「私は大丈夫だけど、良かったの?」
ハッキリと、仲良くなるって宣言しちゃったのも、彼女のことを放っておくのも。
私の心配をよそに、ハイメくんは機嫌が良さそうに、微笑んだ。
「うん。大丈夫だから、気にしないで。それよりも俺、グラが俺と仲良くしたいって言ってくれて、嬉しかった」
「聞いてたの!?」
恥ずかしくて、顔が熱くなる。ハイメくん、近くには居なかったと思うんだけど。
「俺、耳が良いんだ」
ハイメくんは器用に狼耳をピクピクと動かした。
えー、何それ知らなかった。すごく、恥ずかしい……。
気持ちは嘘じゃないけど、聞かれていたと思うと、恥ずかしくて仕方ない。
「これからも仲良くしようね」
素敵な笑顔のハイメくんに頷くことしか出来なかった。
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