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第五章

38 混沌の狭間にて(エピローグ)機械人形視点

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「アズライルは結局、2週間以上も地上にいたのね。すっかり光が失われているじゃない」
「だが、アリアと一緒に過ごせて楽しそうでもあった。羨ましいことだ」
「そうね……私達も『惑星アズイル』の地上に行く? アリアに会いに」

 メインコントロール室にて、ナナシ様とノルン様がアリアチャンネルを見て、またアリアを話題にしていた。このお二方は何故あの少女に拘るのか? 私には謎だ。

「何を仰ってるんです、ナナシ様とノルン様は。全宇宙の最上位たる神が、アズライルのように気軽に降臨するなど、駄目に決まっているじゃないですか」
「あら、オートマタに叱られてしまったわ」
「オートマタは厳しいな」

 そうだ。貴方達は早々に諦めて破滅への道を歩もうとしているが、私は足掻あがく。
そんなににっこり微笑みながら、世界を終わらすわけにはいかない。

「そろそろ研究室に行きます。では失礼します」
「ええ」
「また」

 アリアチャンネルを見ようと、お二方ふたかたに誘われて見ていたが、中々面白かった。あのレイジェスのもうひとつの封印された扉は、一体誰がやったのか? 謎ではあるが。
全天界を含めて、アリアチャンネルは視聴率がNO.1だった。
だがしかし、神であるアズライルが人間と意識体でも交わるとは……驚きだった。アズライルはまだ穢れていない。そんなアズライルが意識体でも交わったのだ。
アズライルを追っかけていた、義理兄神のキールは、今頃嫉妬に燃えて灰になってるかも知れない。

 メインコントロール室を出て、緩やかな階段を下りながら、T字路を過ぎて道なりにまっすぐ歩いた。研究室のドアを開け、中に入ると明かりが自動で付いた。
私は研究室の大きな机前の椅子に腰掛けた。溜息をひとつして考える。

 念のためだったが、イズモ会議に来た約100名の神々全ての血液を調べた。
他の神達の惑星は汚染されていなかった。なのに神々の血液は汚染されていた。
水色のウィルスには犯されていないが、あのべテルの様に敏速な動きをする細胞を持つ神が、100名中、90名いた。これは数値として90%に値する。
その90%の者を更に調べて見ると性欲が増進していた。逆に汚染されていない者は性欲は少なく、それは以前と変わりないという。前々から性的に淡白な者達はこの細胞汚染には掛からないようだった。

 私はイズモ会議が終わったあと、混沌の狭間の隅々まで消毒した。
ナナシ様やノルン様に何か変化があったら大変だと思ったからだ。ちなみに、ナナシ様は光体なので血液は無い。ノルン様も人型ではあるが血液は流れていないと言っていた。そのせいかノルン様のお手に触れた時、ひんやりとしていたのを思い出す。

 アズライルに頼んでいたアリアの庇護者と候補者達の血液は、採取するとすぐにアズライルがこの研究室に届けに来た。
サンプルはレイジェス、ユリウス、セバスの三人分だけだ。他の者は名前は分かっているが、まだ何処に住んでいるのか分かっていない。
その三人の細胞を調べたが、神達の様に汚染はされていなかった。

 9代目ナナシ様は『ワクチンを作った』とアリアに言っていた。
私はその話を聞いて、現在の10代目ナナシ様に聞いた。

「もし、ワクチンを作るとしたらどうしますか?」
「ウィルスを作ったやり方と似たように作るかも知れない」
「ほぅ、ナナシ様も9代目ナナシ様のようにウィルスを作れるのですか?」
「先代に出来る事は私にも出来る。ただ、神は器用では無い。どうして、先代がウィルスを撒き散らしたか考えてみたが、物を作る際、力の放出の加減が上手くいかなかったのではないかと思った」

 ナナシ様の黄金色の炎が揺らめいた。

「なるほど、では、ワクチンを作る際にも、力の放出をしなければいけないという事ですか?」
「私の想像では……たぶんそういう事かと。で、力の放出でログラル波が広がり、それを受け取れた者がワクチンの祖体となる……という感じか。あれは普通なら生物には毒だからな……受け取れば死ぬが。そのログラル波の影響を受けた者がアリアの他にもう一人いるという事だろう」

 ログラル波を受け取れた者がワクチンの祖体になる、だが受け取れば死ぬ?
なんて矛盾だ。
ああ、でもアリアは以前、地球で死んでいる。アズライルの地に転生したわけだ。祖体になるとはそういう事か。
私はその話を聞いて、早速研究室でウィルスを一部切り取り、弱めた物をアリアの細胞と他の者の細胞に混ぜ合わせた。
単純だが一人の細胞でダメなら二人の細胞を混ぜ合わせればいいんじゃないかと思ったからだ。

 最初はレイジェスから。完全体のウィルスの動作は制御出来たものの、死滅させるには至らなかった。セバス、ユリウスの細胞も別個に混ぜ合わせたが、動作の制御はレイジェスの時よりも劣った。
他にも、あの時イズモ会議に来ていた100名の神の細胞と照らし合わせて同じ実験をしたが、どの神の細胞もウィルスの動作制御すら出来ない状態だった。
アリアと庇護者、または庇護者候補の細胞を混ぜ合わせればワクチンが出来ると考えていた私の予測は外れていたのか?

 何かヒントが無いかと、私はまたメインコントロール室に訪れた。
ナナシ様とお話をするためだ。
メインコントロール室に入るとナナシ様から先に声を掛けられた。

「やぁ、オートマタ、その後実験はどうなっている?」
「行き詰ってます。アリアとその他の者の細胞を混ぜ合わせたが……満足する結果が得られない。ウィルスが死滅しない」
「お前の話を聞いて思ったが……もしかして、混ぜ合わせるとは、そういう事じゃないのでは?」
「は? どういう事でしょうか? そういう事じゃないとは?」
「私みたいな光体には出来ないが、人と神は致すことが出来るだろう?」
「え? ……」

 人と神は致すことが出来る?

「……もしかして、性行為の事を言ってらっしゃいますか? なら、アリアはとっくにレイジェスと致してるじゃないですか」
「……言っておくが、オートマタ、あれのしているのは正しい性行為ではないぞ?」
「え? ……アリアチャンネルを見る限り、お互い達していますが?」

 ナナシ様の炎が揺らめいて、溜息で一瞬形が変わった。

「私が言っているのは男と女としての性行為の事を言っている」

 そこで私は、はたと気付いた。

「……ああ、生殖行為の事ですか。でも……それは今のアリアでは出来ないでしょう? 成長段階が著しく低く無理ですし、それに、下界には人の法律がありますから」
「では、アリアがそれを致すまで待たねばならないのか」
「そうですね、あと7年は無理です」

 ナナシ様はまた溜息をした。
ナナシ様はアリアとレイジェスが生殖行為をするのが鍵だと思っっているようだった。

 私の考えも70%はナナシ様を支持している。
だが、相手がレイジェスとは限らないと私は思っている。
確かに細胞の混ぜ合わせ実験では、他の神を含んだ全体で見ると、レイジェスが突出していい結果を残していた。
しかし、レイジェスと庇護者候補者のセバスやユリウスのみを比べると、それはあまり変わらなく、レイジェスより少し劣る程度だった。


 ナナシ様はレイジェスがそのワクチンの対なる者だと思い込んでいるが、実験経過を見た私はレイジェスがそうだとは言い切れなかった。
レイジェス以外の他の者がワクチンの対なる者である場合、生殖行為がワクチンを作る過程で必要な場合、アリアは他の者と生殖行為をしなくてはならない。
それを彼女が同意するだろうか?
レイジェスも同意しないだろう。
そうなると……世界は滅亡へ進んでいく。
私の頭の中に電気がショートしたような痛みが走った。
人や神はきっと、このようなことを頭が痛いと言うのだろうと思った。

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みんなの感想(7件)

紙吹雪
2018.10.19 紙吹雪

31から32への繋がりがあれば書いて欲しいです!セバスと何があったのかとても気になります!!

鷹月 檻
2018.10.20 鷹月 檻

ご愛読ありがとうございます(*´ω`*)
実は今回投稿するとき私のミスで前半部分をアップできていませんでした……。
話が繋がって無かったですよね(;´Д`A ```
大変申し訳ありませんでした!( TДT)
かみゅさんの書き込みが無かったら気付いて無かったと思います、ありがとうございました!
投稿しなおしたので、読んでいただけると嬉しいです(*´ω`*)

解除
寝娘
2018.09.22 寝娘

はじめまして。
いつも楽しく拝見させていただいてます!
本作のジャンルが[R15]となってますが
[R18]ではないでしょうか?
気になったのでご報告まで。

鷹月 檻
2018.09.22 鷹月 檻

こんにちは感想ありがとうございます。

すいません指摘ありがとうございました!

私は勘違いをしていた様です。表示をR18に変えました。

ありがとうございました^^

解除
ユーリ
2018.09.17 ユーリ

あーやっぱりありすちゃんの魅力に
邪 下賤者はアガら得ず

それにしても 溺愛レベルがガち監禁
いい大人が 頭冷やしましょう

守護者 守護獣は 父神様 真っ先につけなくては
愛娘が やりすぎると 母神様怒りの参戦💢ですよね きっとですよね

セバストさん ストーカーを蹴散らし 参戦期待しています( ◠‿◠ )

鷹月 檻
2018.09.17 鷹月 檻

感想ありがとうございます^^
ありすではなくてアリアです^^;

タグにざまぁはついてません>< ごめんなさい><
あと、セバストじゃなくてセバスです~

解除

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