上 下
189 / 190
第五章

37 帰還【レイジェス×アズライル微BL】途中からレイジェス視点

しおりを挟む
 昨日まで、私の心は波立っててぐちゃぐちゃだった。
嘘を付いたり、皆に迷惑を掛けたりして、本当に酷いことばかりしていて、申し訳ない事をしたと反省した。
アーリンやセドリック、セバスにも謝った。
そして、私は結局自分の記憶を取り戻す事が出来た。
フェリシアンの事も思い出した。

 私はフェリシアンの事をずっと、愛しちゃったと思っていた。でも、レイジェス様からすると、それは愛情じゃないと言う。
『私の事を想うように父上を想うか?』って聞かれたけど、同じようには想わない。
レイジェス様の言うとおりやっぱり違う。
ただ、私の中ではレイジェス様がいるのに、他の人のキスを受け入れたって事実は凄く大きくて、重かった。
自分がまるで汚い物みたいに感じて、許せなかった。許せなくて、自分で自分を責めるしかなかった。でも、そんな私の事をレイジェス様は許してくれた。
他にももっと、一杯酷いことをしたのに。

 ユリウス様とのキスとか。
いくら、封印解除して貰いたいからって、レイジェス様を裏切ってそんな事して、フェリシアンの件よりまずいんじゃないかと思う。
あの時は封印解除をして貰いたくて、それで頭が一杯だったからだけど……。

 それに意識体の事。
レイジェス様はたぶん、意識体の同調をやったことが無いから、あんなにあっさり許してくれたんだと思う。あれはまんま性行為だと思う。感覚が。
実際の身体じゃないから、罪悪感があまり湧かないのも問題だ。
もしレイジェス様が意識体の同調を経験したら、絶対あんな簡単に許さないと思うんだけどな……。

 その意識体の件で、ユリウス様と顔を合わせるのが、凄く恥ずかしい。あの時私は現実に戻ってから、罪悪感でかなり混乱していて、ちょっと錯乱状態になってた。
だから、ユリウス様と顔を合わすのが恥ずかしいとか、そんな事、考える余裕も無かった。でも、今、混乱が収まって、普通になってしまうと、めちゃくちゃ恥ずかしい。だって、ユリウス様の前で喘いでしまったし、腰も振った……。
もう、最悪の黒歴史だよぅ……。おまけに気持ちよかったし。一緒に達しちゃったし。まぁ、一緒に達しないと意識が同調出来ないと言われてたから仕方無いけど……。こんな状態だったのに、どう顔を合わせればいいのかと。
穴が有ったら入りたい所か埋まりたいレベルだよ……。

 そろそろレイジェス様が帰ってくる時間なので、玄関にお出迎えに行く。
セバスの隣にちまっと並んで、エドアルドやオースティン、リリーやサーシャもいる。セレネとフットマンのローレンスは何か用事があったのかいなかった。
少し待つと玄関のドアが開いてレイジェス様がお帰りになった。

「「「「お帰りなさいませ」」」」
「うむ」
「お邪魔します」

 レイジェス様の後ろにユリウス様もいた。

「ぎゃっ!」

 思わず変な悲鳴が出た。

「リア? どうした?」

 レイジェス様がいぶかしげに私に言った。

「な、な、ななな、なんでもないです」
「ふむ」

 私がちらりとユリウス様を見ると、ユリウス様も顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。あ、もしかして、ユリウス様も私と一緒で恥ずかしいのかも知れない。
そうだよ、きっとそう。と思った。
だって、ユリウス様だって、色々致しちゃったわけですから、黒歴史ですよね?
だから恥ずかしいんだ!
何だか自分だけが恥ずかしいわけじゃないんだ! と思ったら途端に元気が出てきた。

「セバス、ユリウスも夕食をうちで取る。用意するように」
「承知しました」
「食事の用意が出来るまで、談話室にどうぞ」

 エドアルドがそう言って、レイジェス様とユリウス様を談話室へ通した。

「リア、来い!」
「えっ、わ、わたくし?」
「いつも私に付いてくるのに、どうしたんだ今日は?」

 私はとととっとレイジェス様に付いていった。
そしてぎゅっと手を握った。
レイジェス様は納得して談話室に行った。
談話室に入ると父神様もいた。
父神様の隣にユリウス様が腰掛け、私とレイジェス様はテーブルを挟んだ向かい側の長椅子に座った。

「アリア、我は明日の朝帰る」
「あら、父神様がいないと寂しくなります」
「まぁ、そなたにはレイジェスがいるだろう? 慰めて貰え」
「ええ、徹底的に慰めたいと思います」

 慰めるってそんな徹底的にするものなんでしょうか? レイジェス様が怖いです。

「所で、ユリウス、『穢れの刃』の件なのだが、その後何か掴めたか?」
「いえ、ティオキア公国にて5本の剣になり、暫くはそこにあった、とまでしか分かってません」
「穢れの刃の件はユリウス、そなたに任せる。よろしく頼むぞ」
「はい、お任せください」

 エドアルドが夕食の準備が出来たと私たちを呼びに来たので、皆食堂に移動した。
食堂にはキール様とリシュフェルが既にいた。私とレイジェス様が長いテーブルの端に座り、長い一辺には父神様、キール様が座り、もう一辺にはユリウス様とリシュフェルが座った。
次々に料理が運ばれて行く。父神様が来てからはずっと皆、神饌料理を食べていた。
神饌料理は人間も食べられるので、厨房が分けて作らなかったようだ。
いつもは私一人分のみ神饌料理なんだけどね。

 今日の料理はメインの肉料理がネールテールの煮込みと豆とワカメのスープ、山甘味草やまかんみそうのサラダとパンだった。
ちなみにネールテールとは、ネールというワニに似た動物の尻尾の煮込みで、ゼラチン質でぷにぷにしてて美味しいし、お肌に良いらしい。

「ネールテールは食べた事は無かったが、意外に美味いな」

 父神様がそう言うと、レイジェス様が説明した。

「ネールは見た目からは想像出来ないくらい大人しいし、鞄の材料にも使われて、一時期乱獲が進んだ。これは養殖ネールですから、天然はもっと美味いでしょうね」
「へ~」

 私は食事をしながら父神様に言った。

「話は変わるんですけど、わたくし父神様にお願いがありまして、誰かを呼ぶとき、父神様は手から光を出すでしょ? あれを教えて下さい。『混沌の狭間』で天使に、用がある時は光を飛ばして呼んで下さいと言われたんですけど、出来なくて、ちょっと恥ずかしかったんですよね」
「ああ、あれか。分かった、あとでな」

 父神様は食事を終えると、何か考えていたようで、おもむろにレイジェス様に言った。

「そなた、よくアリアとユリウスの意識体の同調を許せたな?」
「「ブッ!」」

 それを聞いて私とユリウス様がいた。
何を言い出してるんですかっ! 父神様はっ!

「? 意識体のみで、実際の触れ合いは無いと聞いたが?」
「ほぅ……? では我とそなたで意識を同調させるか? レイジェス、そなたは経験が無いんだろう?」
「意識体の同調は経験がありませんね」
「ダメ! 絶対ダメだからっ!」

 私が焦って反対すると、レイジェス様が訝しげに私を見る。

「んん? 何故そのように反対するんだ? ただの意識の同調だろ?」
「とにかく、ダメなものはダメなのっ! 父神様、そんな事やったら絶交です!」
「ぬっ、絶交だと? 我は何も知らぬレイジェスが可哀想だと思って、教えてやろうと思ったのに。アリア、そなた我の知らぬうちに考え方が穢れたなぁ。父は悲しいぞ?」
「どうしてそのように言い合いになる? たかが意識体の同調だけで。何かあるのか?」
「……いくらわたくしと父神様がちょっと似てるからって、レイジェス様は平気なの? 意識体の同調って……エロいんですよ!? 達しなきゃ同調出来ないんだから! そんなこと、父神様と出来ちゃうの? ユリウス様と同調しちゃったわたくしが、こんな事言うのは酷いって思いますけど……」

 レイジェス様は父神様を見てから、私を見た。

「まぁ、確かに似てるが、リアの方が百倍可愛らしいぞ?」
「そういう問題じゃないんだけど」

 私は頬を膨らました。

「リアは反対するが、私もやってみたい。その、意識の同調とやらを。君だってユリウスとしたんだろう? 私は致した経験が無いからな。致してから考えよう」
「ええっ? ……でも、終了後に父神様の方が、わたくしより良いとか言うかもですよ……」
「君は私よりユリウスの方が良くなったのか?」
「いいえ、まさか」
「なら、私もきっとそうならない。だろ?」
「う~ん……分かりました」

 レイジェス様は父神様ににっこり笑って言った。

「では私と意識の同調をお願いします。アズライル様」





 私は談話室のドアの前で唸っていた。皆さんもうとっくに談話室に入っている。

「そうそう、上手いぞ、アリア。光を内側に集めてから、手のひらに放射しろ」

 手のひらに集中した熱が、ぶわっと外に出て行った感じがして、ぽわっと光がともった。

「それを遠くに投げるように飛ばせ」

 私はソフトボールでも投げるようにぽいっと放った。その光はふわふわと漂って消えた。

「光の粒を出せてたからか、出来るのが早いな。そうやって何度も練習してれば、光の強さも安定し、飛ばせるだろう」
「はい、ありがとうございます父神様!」
「うむ、では中へ入るか」

 父神様とドアを開いて談話室に入った。
中にはキール様とリシュフェル、ユリウス様とレイジェス様がいて雑談をしていた。
セバスが皆にお茶をいれていた。レイジェス様は個人椅子二つを向かい合わせにした、左の方に座っている。父神様はレイジェス様の正面の椅子に座り、私は暖炉前の長椅子に座った。向かい側にはユリウス様が座っている。
リシュフェルは壁際に黙って立ったままこちらを見ていた。
キール様は父神様が心配なのか丸椅子を持って行って父神様の隣に座った。





「さて、始めるか」

 談話室にいる皆が二人に注目する中、セバスは静かに部屋を出て行った。
父神様はレイジェス様に向けて両手の平を出した。

「我の手に両手を乗せて、目を瞑れ」

 レイジェス様は両手を父神様の手のひらに乗せて、目を閉じた。

「ゆっくり数を数える。1から10まで数えたら、そなたは自分の意識の暗闇の中にいる。そこで、我が迎えに行くまで少し待っていろ」
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。今、そなたの周りは真っ暗だ」
「ああ、確かに、私の今いる所は真っ暗だ」
「そなたのいる所に我は行く。黄金の光の輝きが我だ」





◇◇◆◆◆◇◇◆◆◆◇◇◆◆◆◇◇◆◆◆◇◇

(レイジェス視点)





 暗闇の中、遠くから黄金の光がこちらに向かってやってきた。それは眩い光に包まれ輝いているアズライル様だった。……しかも裸だ。

「何故裸なんですか? アズライル様」
「何を言っておる、そなたも裸だ。意識体だからな」

 言われて自分の身体を見ると素っ裸だった。

「さて、レイジェス、致すか」
「はっ? 何をです?」
「そなた人の話をちゃんと聞いていたか? 意識体を同調させるにはそなたと交合まぐわい、達しなければならないと言っただろうが」
「えっ? ……だ、だが意識体でですよね? ここにいらっしゃるアズライル様は意識体では無いでしょうがっ!」
「そなたは馬鹿か? これが我の意識体そのものだ。お前もな?」
「はぁっ!? こんなに……リアルなのか?」
「感覚もリアルだぞ? ほれ」

 アズライル様が私の腹の中に手を突っ込むと、愛撫をされたかのように気持ちの良い感覚があった。そのまま腹の中を手で掻き回される。それがとても気持ち良い。

「なっ、何をするんですっ……! めて下さい!」
「……気持ちが良いだろう? なのに止めろと言うか?」
「私にはアリアが……」
「二人で達せねば同調が出来ぬ。そなた……、記憶が封印されているだろう?」
「なぜそれを……」
「アリアが過去に迷い込んだ時、迎えに行ったのは我である。その時にお前の記憶を封印した」
「……少し前に、アリアがアズライル様に私の記憶を弄ったか聞いたが、その時にアズライル様は私の記憶を弄ってないと、仰ったんじゃないんですか?」
「あの後だ、そなたの記憶を弄ったのは。聞かれた時は弄っていない。……ここまで来たんだから、ついでに封印解除するぞ。そなたも少しは思い出したみたいだが、全部思い出したかろう?」

 確かに、何か思い出すたびに酷い頭痛がするので、それは何とかしたかった。が、私がアズライル様と交合う? 正直、抵抗がある。アズライル様は男だし、アリアの父上だぞ? その方と意識体とはいえ交合うとは……。
正直、意識体で交合うと聞いていたけど、もっと簡単なことだと思っていた。

「二人で交合い、達し、同調せねば、封印の扉は見つからん。我慢して我とひとつになれ。愚か者が」

 アズライル様はゆっくりと私に顔を近づけ、唇を重ねた。
ああ、瞳の色は違うが、アリアに似ていると思った。重ねられた唇はぷにっとして柔らかく、アズライル様は男なのに少しドキッとしてしまった。

「本当にお前は初心うぶな男だなぁ……、顔が赤いぞ?」
「アズライル様も私も男だ……! いくら同調の為とはいえ、無理でしょう!?」
「真面目か! ……そなたな、何度も言うが、これは意識体だ。男も女も無い。そう見えるだけだ。先程お前の穴じゃない、腹の中に腕を突っ込んでも気持ち良かっただろうが? そういう事だ。分かれ」

 そう言うと、アズライル様は私の一物を手に取りこしこしとしごき始めた。

「なっ……!」
「我の顔でも見て、アリアにされているとでも思っておけ。まったく世話のやける奴だな、お前は」

 私を見る翡翠のような碧の瞳が、こちらをじっと見つめると、まるでアリアに見つめられている様な感覚に陥った。
彼女が成長したらこんな感じなのかも知れないと思いながら、体の中心が熱を持って来た。

「ひとつ確認しておきたい事がある。我はお前を自分に迎え入れるつもりは無い。まぁ、お前に入れても構わないが、一番無難なのはお互いの物の扱きあいだと思うんだが、レイジェス、お前はどれにする?」
「私が入れられる!? 勘弁してくれ! 入れる側も無理だ! 貴方はアリアの父だぞ!」
「じゃあ、お前も我の物を扱け。お互い達しないと同調せんからな」

 私はアズライル様の物を手に取り、上下に擦った。

「あっ、ああああ、気持ち良い……」

 アズライル様が、声を洩らした。私のそれを握る手を素早く動かすと、自分の中から先の方に汁が溢れた気がした。ぬるりとした感触が妙にリアルで、思わずアズライル様のお顔を確認した。

「どうだ? レイジェスいいか?」

 一度アリアのように見えてしまうともうダメで、私はアズライル様を抱き寄せてキスをした。舌を入れて絡ませ、ねっとりと吸う。
アズライル様は最初驚いていたが、私のそれを受け入れた。

「ああ、レイジェス、お前、キスが上手いな」

 カッと顔が熱くなったが、私はそのままアズライル様を押し倒し、股の間に自分の物を挿入し腰を振った。

「はっ、はっ、はっ」

 自分の呼吸が暗い空間に響く。私の中で膨張した熱が、自分の一物から出ようと猛り狂っていた。アズライル様は口を開かなくなり、ふっ、ふっ、ふっと小さな吐息が聞こえた。体の奥深くの方を突くと、小さな声をあげた。

「ぁあっ、んんっ!」

 自分が声を出したのが恥ずかしかったのか、アズライル様は腕で自分の顔を隠した。細くて白い腕、そこを唇で吸って赤い跡を残した。
私はアズライル様の両足を持って身体を貫く。ゆっさゆっさと揺れる身体、膝の内側の肉をまた唇で吸って跡を残した。
アズライル様が自分で両足を抱え広げると、私の物は更に奥深くまで沈んで行った。

「あっ、ぁああ、もうダメです、出そうです!」
「ああ、良い、出せレイジェス」
「うぅうっ、くっ……!」
「んんぁああっ、ああ、いぃっ!」

 私はアズライル様の中に己のほとばしった物をそそいだ。アズライル様がそれを受け止めると、身体は黄金の光を放ち、更に輝きを増した。そして私もその光に包まれている。

「まったく、お前と言うやつは……むっつりスケベだな? 最初は我に入れるのも嫌だと言っておったくせに……結局は挿入した挙句、激しく腰を振り、跡まで残しておるではないか……」
「……アズライル様のお顔が、アリアと重なってしまったんです」
「まぁ、同調出来たからいいか。さて、扉を探しに行くぞ」

 私とアズライル様は暗い空間を両手を広げ、空を飛ぶようにその空間を飛んだ。
アズライル様の指には、金色に輝く細い糸みたいな物が指先から出ていて、その糸は前方の暗闇に続いていた。
暫く飛んでいると、薄っすらと明かりが見えた。明るい所に大きな門みたいな物が遠くに見えた。

「あれだな、行くぞ」

 そう言ったあと、アズライル様がピタリと止まった。

「どうしたんです?」

 アズライル様は暗闇の空間に着地した。なので私も着地したが、一体どうしたのか?

「レイジェス、我にひざまずけ」
「?」
「いいから、跪け」
「はぁ……」

 どうしたんだろう? そう思いながらも、アズライル様に跪いた。

「そなたに『祝福』を与える」
「えっ!? こんな所でですか?」
「正直、そなたに『祝福』をやったなどとは、みなの者に知られたくない。だからここでいい、ここでやる」
「別にらないのですが? マティオン様に頂いた『祝福』で全属性にもなりましたし……」
「マティオンからは受け取れても、我からは受け取れぬと申すのか!?」
「いえいえ、決してそういうわけでは……」
「もういい、お前は黙って跪いていろ!」

 アズライル様は跪いている私の頭に手を乗せた。暫くすると7色の光が私のまわりをぐるぐる廻って、すぅっと私の体の中に入って来た。

「あ、ここではステータスが開けないですね」
「まぁ、あとで見ればよい」
「ありがとうございました」
「うむ。ではまた飛ぶぞ、付いて来い!」





 アズライル様は先程見つけた場所に行った。そして二人で着地した。
目の前には数百メートルはありそうな強大な扉が二つある。
二つの扉の両脇には篝火かがりびが灯されていた。暗闇の中明るかったのはこのせいだろう。
二つある扉のうちのひとつは、薄い白にも似たような灰色の扉で、黒い鎖がぐるぐると巻かれているが、その鎖はボロボロで扉は隙間が開いていた。
もうひとつの扉は真紅に彩られた艶のある扉で、黒い鎖が縦にも横にも張り巡らされ、雁字搦がんじがらめになっていた。


「どういう事だ? レイジェスの記憶の扉の封印がふたつある」
「ふたつ? 2回封印したんですか?」
「いや、我がそなたの記憶を封印したのは一度。こちらの真紅の扉を封印したのは我では無い。……まぁいい、取り敢えず、我が封印した扉を開け」
「こちらも一緒に解除してはダメなんですか?」
「扉が開いたら最後に飛び込まねばならん、二つは無理だ」
「では、またここに来て、扉の封印解除をしなければいけないって事ですか?」
「そういう事だな。開きかけの灰色の扉を開け、まずは鎖を外すところからだ」

 私はアズライル様に言われて、灰色の扉の鎖を外した。意外とさくさくぽろぽろと鎖は落ちて行き、あっという間に扉は開かれた。そこから眩い光が闇を照らす。

「今だ! 開いた扉に飛び込め!」
「はいっ!」

 私は眩い光の中に飛び込み、気がつくと現実に意識は戻ってきていた。
ゆっくり目を開くと、私はアズライル様の両手のひらに自分の手を乗せていた。
アズライル様もゆっくり目を開き、目が合った時点でお互い手を引っ込めた。

「おかえりなさい、レイジェス様!」
「うむ、ついでに自分の封印解除もしてきた」
「あっ、そうですよね、封印されてましたよね」
「本当にアズライル様と交わったんですか?」

 ユリウスが私に聞いてきたので、むっとした。あんなにリアルな感覚でアリアと致したお前に言われたくない。

「お前も私の女神と交わったよな?」
「……それは、謝ってるでしょうに」
「あんなに感覚がリアルだと思わなかったぞ? いくら意識体といえあれは酷い、もう二度とリアと意識の同調はさせない。覚えておけユリウス」
「ああ、もう、分かってますよ……はぁ~……」

 ユリウスはボフッと椅子の背もたれに倒れこんだ。

「私もぜひ、アズライル様と意識の同調をしたいのですが!」

 キール様がアズライル様に土下座してお願いしている。

「立て、馬鹿者が。キール、お前には封印された記憶など無いだろうが。だからわざわざ意識を同調させる必要など無い」
「封印を解除するためだけに、意識の同調があるわけじゃないでしょ? ただ意識を同調したいという理由でやっちゃダメなんですか?」
「ダメでは無いが……あんな事、そうそう誰とでもやる事じゃないぞ」
「貴方だからしたいんですよ! アズライル様!」

 アズライル様はその様子に気圧されていた。
その後、ユリウスも屋敷に帰り、皆部屋に戻って行った。
私は先程『祝福』で頂いたスキルを見ようと、ステータスを開いて見たが……。
あまりのゴミスキルに萎えた。

「あ~カスを掴まされた……」

 私が嘆いていると、アリアが私のローブの袖を引っ張った。

「どうしたんです? レイジェス様?」

 私は彼女を見下ろした。相変わらず可愛らしい。
頭の天辺から爪先まで舐め回す様に見つめた後、うんうんとひとり頷いた。

「いや、何でもない」

 私のステータス欄には特殊スキルがひとつ増えていた。


『感度10倍』


 こんなスキル、使いようも無いだろうが?
……と思っていたが、アリアを見ていて気が付いた。
彼女に使えばいじゃないか!
全然ゴミスキルでは無い事に気付いて、一人にこにこしていた。

しおりを挟む

処理中です...