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第四章

30 二人でお風呂

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 本当の事は絶対、死んでも言うなって言われたけど……もうフォスティーヌさんには自己紹介で女神だって言ってたんだった……。まずかったかな?
まぁ、信じないよね~普通。さっきの年代教えてくれなかったのも信じられないから試されたんだよね? きっと。
食堂へ行くと私の席も用意してあった。
テーブルに着いているのはフォスティーヌさんとレイジェス様と私だけだった。
あれ? お父さんは?

「あの……アルフォード公爵様は……?」
「……彼は第二夫人の屋敷に行ってるわ……こちらの屋敷にはあまり来ないの」

 フォスティーヌさんがそう言うと、レイジェス様がしょんぼりした。

「す、すいません、聞いちゃって……」
「いいのよ、気にしてないわ。私にはレイがいるから大丈夫」

 フォスティーヌさんは強気に笑っていたけど、レイジェス様はしょんぼりしたままだった。なんだかレイジェス様に申し訳ない事を言ってしまって後悔した。
食堂内を見ると、オーギュストがフォスティーヌさんの給仕をしている。
なんとここにはセレネが居た! セレネが凄く若くて綺麗! セレネはレイジェス様の給仕をしていた。なるほど、レイジェス様を小さい頃から世話をしていたんだもの、そりゃレイジェス様もセレネに頭が上がらないよね、納得。
私の後ろには私の知らない男の人が給仕をしていた。
多分20代後半か30代前半位? プリストンの人にしては珍しい一重の目、瞳が小さいせいか三白眼に見えて目付きが悪く見える。そして薄い唇。髪は深みのある茶髪で瞳も同じダークブラウンだった。
正直人相が凄く悪い。多分セバスだったら面接で即不採用だと思う。顔の良し悪しじゃなくて表情が暗い。それに、この人は現在のアルフォード公爵家に居ない。
私は目の前の豚のローストハムを食べた。やっぱり二口食べたらお腹が一杯になってしまってもう食べられなかった。どうしよう……食生活が問題だ。
神饌しかまともに食べられないのに……栄養取らないと大きくなれない……おっぱいが育たないよ~!

「す、すいません、厨房にエンリケって方はいませんか?」

 私がフォスティーヌさんに聞くと、フォスティーヌさんとオーギュストが目を合わせて黙ってしまった。

「……いるにはいますが、彼は新人で料理をまだまかされてませんよ?」

 オーギュストが私に言ったので、私は自分の空間収納から食材を出した。ちなみに私の空間収納にはまだまだあのピレトス山でやっつけたカエルちゃんたちが入っている。大分減ったけどね。そのカエルちゃんのお肉とトウミをテーブルに置いた。

「これを渡して貰えますか? そして神饌を作って欲しいと伝えて欲しいのですけど……いいですか?」

 フォスティーヌさんは驚いた顔をした。

「もしかして、人間が食べる物は食べられないの?」

 私は頷いた。

「オーギュスト、それを持って行って、今すぐエンリケに神饌を作れと言いなさい」
「承知しました」
「きちんと食事をしないと大きくなれないわ。さっきは意地悪をしてごめんなさいね」
「……私はいきなり現れた怪しい子ですから、警戒されても仕方ありません」
「……今は 神終歴2338年、セドリアン歴10年よ」

 フォスティーヌさんは年代を教えてくれた。

「あ、ありがとうございます! ちなみに月は?」
「4月よ」
「ありがとうございます! これで帰れます!」
「そう……折角知り合いになれて、レイジェスも貴女に懐いたのに……残念だわ」
「すいません……ただ、お迎えがいつくるか分からないので、それまでよろしくお願いします!」
「ふふっ、分かったわ」

 暫くするとオーギュストがピレトスフロッグのソテーとトウミを運んで来てくれて、私はそれを食べた。
食事が終わるとフォスティーヌさんが私とレイジェス様に言った。

「さぁ、二人共お風呂に入ってさっさと寝なさい」
「わ~い、リアお姉ちゃんとお風呂だぁ~」
「えっ……」

 私は戸惑っているけど、レイジェス様は凄く喜んでいて、フォスティーヌさんはそれを微笑ましく見ている。

「湯浴みのお手伝いはどうします? 坊ちゃま」

 え、オーギュストさんが湯浴みで来るの? 恥ずかしいなぁ……あ、でも湯浴み着を着ちゃえばいいか。

「リアお姉ちゃんがいるから大丈夫だと思うよ? 洗いっこしようね? 僕もリアお姉ちゃんの事、洗ってあげるから!」

 任せてと言わんばかりに、トンと自分の胸を叩くレイジェス様。

「そ、そうですか……では、アリア様、坊ちゃまをよろしくお願いします」
「え、ちょっと待って下さい! オーギュストさん、わたくしはまだ小さな男の子の体を洗った事がございません、わたくしは湯浴み着を着るのでレイジェス様を洗いに来て貰えますか?」
オーギュストは私の言葉を聞いてレイジェス様に向き直った。
「坊ちゃま、アリア様はこう申してますがそれで宜しいですか?」
「え~リアお姉ちゃんに洗って貰おうと思ったのにぃぃ~」
「じゃあ、髪の毛だけ洗うよ? そこならお姉ちゃんでもちゃんと洗えるから。それで良い?」
「うん!」
私は小さなもみじの様なぷにぷにした手を握り返して浴室に向かった。
オーギュストはちょっと遅れてお風呂に来ると言った。

「ねぇ、レイジェス様、お着替えは脱衣所にあるのですよね?」
「うん、そうだよ~」

 お風呂場の脱衣所に入ると、レイジェス様はささっと服を脱いで籠にぽいぽい入れてさっさと浴室に入ってしまった。

「危ないからお姉ちゃんが行くまで湯船に入っちゃだめだよ~」
「は~い、分かったぁ」

 私はペンダントを外して、空間収納に入れてからドレスを脱いだ。今日のドレスは脇がファスナータイプの物なので自分でも脱げた。ドレスも下着もささっと脱いで、両方ともアクアウォッシュをして綺麗にしてから、まとめて空間収納にぽいっと放り込んだ。
素っ裸になったあと着衣の神呪で湯浴み着を着た。
あ、そうださっき教えてもらった年代を父神様に伝えないと忘れそう。
私は空間収納からハンドベルを出して振った。

『応答お願いします』
『応答したぞ、どうした?』
『年代を教えて貰いました。神終歴2338年、セドリアン歴10年の4月です』
『ほぅ、良くやった。制御室の機械は明日直る見込みだ。直ってから検索をかける、暫し待て』
『父神様、あの……わたくし、神の子だと言ったのですが、まずかったでしょうか?』
『……そなたの事だから嘘が付けなかったのかも知れぬが……それはまずいな。まぁいい、帰還する時にそなたに関わった者の記憶を消す』
『ええっ!?』
『仕方あるまい? そなたがそこにいるだけでも……変化の波は大きいはずだ。そなたがこちらに帰還した時、どんな風に未来が変わるのか……考えると恐ろしい。大きな動きはするな、大人しくしていろ』
『……でも……』
『歴史は変えてはならん、それはそなたも分かるだろう? お前がレイジェスと一緒にならない未来になるのかも知れないんだぞ? そうなりたいのか?』
『……』

 父神様との通信が切れた。私が切りたいと心の中で念じたからだ。
分かってる、このままここで関わった人達に、私の事を覚えていて欲しいなんて思っちゃいけないって……。でも、レイジェス様に忘れて欲しくなかった、私の事。
ガラっと浴室の引き戸が開いてレイジェス様が中から顔を出して私を呼ぶ。

「リアお姉ちゃんまだ~? 早く来てよ~!」
「はいはい、今行くよ~!」

 私が浴室に行くとレイジェス様は頬を膨らませてぷぅっとしている。
そのほっぺを突っつくとひんやりした。

「え? 体、冷えちゃってるんじゃない?」

 私がレイジェス様の体をぺたぺた触るとやっぱり冷たかった。

「だって、いつもはオーギュストが洗ってくれるから……」
「そっか~、オーギュストさん、まだ来ないもんね」
「遅いね~」

 レイジェス様が冷えてたので湯桶に湯を汲んでちょっとずつ体にかけた。

「あちっ! 熱いよ~!」
「体が冷えてるから熱く感じるんだよ。大丈夫だから、ちょっと我慢我慢」
「え~」

 そんな事を言い合っていると浴室の引き戸がガラっと開けられ、オーギュストが洋服のまま入って来た。ズボンの足元はぐるっと深く折り曲げられて、袖も捲くられていた。

「遅くなって申し訳ありません」
「じゃあ、レイ君はオーギュストに洗って貰ってね、私は自分の体を洗うから」
「は~い」

 レイジェス様はオーギュストに体を洗われていた。
私は桶に湯を汲んでから、レイジェス様が用意してくれていたバスチェアに座った。
石鹸を泡立てたその手で、自分の体をささっと洗った。
湯浴み着を着てるから少々洗いずらい、でもすぐ洗い終わって髪の毛もさっくり洗って終了してから浴槽でまったりしていた。レイジェス様は髪の毛までオーギュストに洗われてしまっていた。

「あ~~! オーギュスト、僕の髪の毛はリアお姉ちゃんに洗って貰うつもりだったのにぃ」
「おや、そうでございましたか、失礼しました。もう洗ってしまったので、明日アリア様に洗って頂けばいいのでは?」
「うん、じゃあそうする~。明日も一緒にお風呂に入ろうね~リアお姉ちゃん!」
「うん、いいよ~」

 オーギュストはレイジェス様を洗い終わると私に『後はよろしくお願いします』と言って下がった。
レイジェス様が浴槽に入って来たけど、身長的に危なかしいので抱っこすることにした。

「わ~い、抱っこ~!」
「はいはい」

 お風呂を上がって脱衣所でレイジェス様に棚にあった着替えを着せて、エアで髪を乾かした。私も神呪で寝巻きに着替えてエアで髪を乾かした。
お風呂を出て一緒に廊下を歩いていると、レイジェス様が食堂に行こうと私を引っ張って行った。
食堂に入るとオーギュストがいて、レイジェス様がオーギュストに言った。

「ねぇ、オーギュスト、リアお姉ちゃんは今日どこのお部屋を使うの?」
「まだ決めていませんが、西の客室にしようと思ってましたが……どうしました?」
「僕、今日からリアお姉ちゃんと一緒に寝たい! お姉ちゃんのお迎えがくるまで、いいでしょ? オーギュスト?」

 オーギュストが困って私に視線を送る。

「アリア様は宜しいのですか? レイジェス様と一緒でも?」

 もうずっと、大人のレイジェス様と一緒に寝てるから全然問題無いです、とは言えない。

「えっと、わたくし的には全然問題は無いのですが……身分的に問題ありますよね? いいのかな? ってちょっと不安です」
「じゃあ、僕が命令するよ! リアお姉ちゃんは僕と寝るの! 分かった? オーギュストも僕の命令だからね? リアお姉ちゃんを叱らないで!」

 オーギュストは目をぱちぱちさせた。

「どうやら坊ちゃまは、貴女様の事をとても気に入った様ですね」

 くすりと笑われた。

「行こう、リアお姉ちゃん」

 レイジェス様は部屋に着くと、そのまま灯りを点けず寝台にあがり布団に入った。
私も一緒に横になる。
レイジェス様が私の頭を見ていた。

「どうしてリアお姉ちゃんの頭はきらきら光ってるの? それに……頭からお日様のいい匂いがする」
「レイ君も石鹸のいい匂いがするよ? じゃあ寝よう? おやすみ」
「リアお姉ちゃん、抱っこ~」

 私はレイジェス様を抱っこした。

「リアお姉ちゃん、良い匂い……おやすみなさい」

 レイジェス様はすぅすぅと寝息を立てて眠った。
私もその寝息を聞いて、何だか安心してそのまま眠りについた。

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