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第四章

18 流星祭 三

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 私とCUTEのメンバーはリハーサルをしていた。
今回は全曲私はピレーネでも参加する。
もちろん歌いながら弾くって事だ。歌う曲は五曲、今まで歌った曲の中から五曲選んで歌う事にした。
アバヤのこの格好なので可愛い振りを付けても意味が無いって事で、振りのある曲は歌わない事にした。
全曲ピレーネで参加なんて初めてだからちょっと緊張。
ちなみにマイクはお屋敷からヘッドマイクを持ってきた。皆もヘッドマイクだ。

「じゃあ、この調子で頑張りましょう」
「「「「は~い」」」」

 ちらほらと自分の席に戻ってくる観客がいた。ボックス席の右上を見るとレイジェス様が見えた。
支配人がこちらに来た。

「開場しましたので、舞台袖から控え室に移動お願いします」
「はい」

 私とCUTEのメンバーは控え室に向かった。
私は空間収納に仕舞ってあった舞台用のアバヤを取り出した。

「姫様、着替えるの? だったらそっちにパーテーションあるよ」

 少し騒がしいボーイッシュキャラ担当の四女レンが指さした。
私はそのパーテーションの陰で着替えた。

「さすがお金持ちは違うわね、その刺繍の手の込みよう、貧乏人には出せない金額ね……きっと」

 クール担当の次女リンが呟いた。

「本当羨ましいですね、その衣装の代金で私達は何日食いつなげられるのかしら?」

 姉御肌で姉妹のまとめ役である、長女のランが頷きながら言った。

「ひ~……そんな風に言わないでぇ、居心地が悪いです……」
「まぁ、うちらは毒舌酷いからね~! でも姫様の事は大好きなんだよ?」

 キャピキャピキャラ担当の三女ルンが私にウィンクをした。

「じゃあ、いつもの、あれ、やんぞ~?」

 四女のレンが元気良く言った。
いつものあれとは円陣を組んで叫ぶあれだ。
皆で丸くなって右手を中央に出す。

「……まさか私達が国立劇場に来るとは思わなかったわ……今日は盛り上げていくよっ!」

 長女のランが鼻息を荒くして言った。

「「「「おう!!」」」」
「うちらで一世風靡してやんよ!!」

 とリン。

「「「「おう!!」」」」
「忘れらんない夜にしてやんぜ!!」

 とルン。

「「「「おう!!」」」」
「コンサートで飯が食えるのに近づいてる気がするぜっ!!」

 とレン。

「「「「おう!!」」」」
「今夜はわたくしの魅了は通じませんけど、歌でめろめろにしてやりますわ!!」
「うおおおおおおお!!」

 皆で右手を高々と上げ叫んだ。
私達は舞台袖に集まって支配人の紹介と共に舞台に上がった。
私はピレーネと歌を担当、皆の楽器担当はランはドラム、リンがギターでルンはベース、レンはヴィオラ(という呼び名のバイオリン)
最初の曲はピレーネとヴィオラのゆったり、しっとりとした曲から始まった。
ピレーネの位置が舞台の中央にありスポットライトが当たって、緊張もあるんだろうけど、体の温度が高くなって熱い。
心を込めて情感豊かに歌うとプルメリアの花が降って来た。私達にとって花が降って来るなんて普通の光景だけど、観客席の方からはざわざわとしたざわめきが聞こえてきた。

 一曲目が終了し、二曲目は少しアップテンポの曲だ。リンがアドリブでギターソロを入れてきた。私は驚いてリンを見たけどウィンクされた。
やるなら練習の時に言ってよおお! 動揺しちゃったよ!
ふと、目の前の観客席を見ると、お母さんの膝に乗った小さな子が降って来た花を捕まえて、触った途端消えて驚いていた。
前のコンサートは舞台の手前に一人で立って歌う事が多かった。でも今回はバンドのメンバーと一緒の位置くらいでやっているので、楽器の演奏と歌が交わって一つの音楽になる瞬間が凄く気持ち良かった。皆で一つの音を作ってる、そんな満足感、充足感。CUTEのメンバーは、私の大切な仲間だなって思った瞬間だった。

 二曲目を歌い終え、三曲目を歌う。
三曲目も少し元気のいい曲で、神の歌だった。
もう何回もこの歌を歌った、神様を信じていない人達へ、いるから、見守っているから。皆幸せになるように、想いを込めて歌った。
花はずっと降り続いている。白と薄桃色のプルメリアの花。
でも、ボックス席の中までは花は降らない。
丁度間奏で、ピレーネの演奏も休みな私は、五階建てボックス席にぐるっと腕を振って、光の粒を降らせた。ちらりとレイジェス様を見ると驚いていた。
あ、そっか、この技、レイジェス様に見せてないや。
前にお屋敷の中庭で練習して出した光の粒。
私はその頃、お屋敷の屋根に上って、セバスに叱られた事を思い出して歌いながら笑った。
三曲目の歌は終わった。
ここでメンバー紹介をしようと思っていた。私はピレーネを離れて舞台中央前にとととっと移動した。

「こんにちは~CUTE+VOアリアで~す。今回はこんな立派な所で歌を歌わせて頂いて、凄く皆感激してます! ということで、恒例のメンバー紹介! まずはドラムのラン!」

 ランがドラムを叩いてアピールした。

「ランはCUTEの長女で20歳、しっかり者なお姉さん! です。次はギターのリン!」

 リンがギターをロックなメロディを弾いてアピールした。

「リンは次女で18歳、クール担当で~す。次はベースのルン!」

 ルンがベースをボンボン鳴らしてアピールした。

「ルンは三女で16歳、いつもキャピキャピしてる、今時の女の子! 次はヴィオラのレン!」

 レンがヴィオラで美しいメロディを弾いた。
「レンは四女で14歳、ちょっとボーイッシュです! で、ピレーネと歌を担当してるのは私、アリアです」

 私は舞台の中央でドレスの裾を少し摘んで華麗に挨拶をした。最初はこの挨拶もぐらぐらして倒れそうになってたけど、うん、私も成長したもんだ、ちゃんと挨拶出来てる。背筋もすっと伸びたままだ。

「CUTEはこの四姉妹のバンド名です、皆さんよろしく~!」

 私は両手を上げて手を振った。まばらな拍手がパチパチと聞こえた。

「じゃあ、あと二曲! 歌います!」

 私はピレーネに戻った。ヴィオラのレンが皆に目線をやり合図して曲は始まった。
その歌は二曲共しっとりとした歌だった。
最後の一曲を歌い終えると割れんばかりの拍手が起こった。その拍手、喝采の中で私は舞台の中央に行きお辞儀をした。
拍手の音が収まってきて、ああ、コンサートは終わったんだ、とほっとしたその時だった。

『アリア、今すぐこちらに来い』

 え? マイク音のその声はロイヤルボックス席から聞こえた。
私はどうしたらいいか分からず、その場で戸惑ってレイジェス様を見上げると、レイジェス様は顎でガブリエル王の方を指した。
行けという意味だと分かった。
仕方ないので右手を挙げキントーンを呼んで、調整もしない厚い雲のままガブリエル王の方に飛んで行った。
観客席がざわざわとどよめく。
ボックス席もだ。この国立劇場の観客は貴族だけじゃない、お金持ちの商人達もいる。貴族だけなら、私が雲に乗っている姿は戴冠式で見られているから知っているだろう、まだ見た事の無い人達がざわめいているのだと分かった。
雲に乗ってロイヤルボックス席に行くと、ガブリエル王の隣にいたルーク様が驚いた様な顔をして目を見開いていた。
ガブリエル王は私を見て頷いたあと、ルーク様に言った。

「ほらな、神と言うのは本当だろう?」
「……私が住んでいるパタークにも昔、神が降り立った。その神は雲に乗っていたと言うが……本当に神は雲に乗るのだな……」

 神の証明をするために私を呼んだの? なんだか少しイラっとしてしまった。

「アリア、アンコールだ。もう一曲歌え」
「えっ?」

 そんな事言われても……用意して特に練習してたのは今日歌った五曲だけだった。
あ、グレーロック城で作ってCUTEの皆で何回か演奏した曲がある。
歌詞が「ああ」だけの曲だけど。

「わかりました」

 私は息を深く吸って歌い出した。

「あ~あ……」

 オペラ調のその歌を歌い始める。ヘッドマイクから出たその歌声をCUTEのメンバーはすぐ理解して演奏を始めた。
私はゆっくりと雲に乗ったままロイヤルボックスから後ずさって離れた。その時に薔薇の花を右手を振って出した。ガブリエル王とルーク様の頭の上に薔薇の花が乗っかって何ともまぬけに見えて笑ってしまった。
それがきっかけにウキウキで楽しくなってきてしまった。歌いながら雲でぐる~っと観客席を回り、ボックス席に薔薇と光の粒を振りまいて行った。

 レイジェス様を見ると笑っていた。セバスは呆れてて、アーリンは瞳がキラキラしてた。ユリウス様も笑っていた。降って来るプルメリアの花を突き抜けて行くと、私に触れた花がパチンと弾けた様に光の粒に変わる。
曲が終わりに近づいて私は舞台に着地した。
歌は終わり、私は両手を上げて手を振った。
凄い拍手の勢いに国立劇場は揺れていた。音の振動でだ。
最後はCUTEのメンバーも舞台中央に来て、皆でお辞儀をして舞台袖に移動した。





「あれ、途中で呼ばれたのって何だったの?」

 レンが私に聞いて来たので普通に答えた。

「雲に乗せたかったんじゃないかな? 所謂、神様の証明ってやつ?」
「何でそんな事すんだよ。ガブリエル王は姫様が女神だって知ってるよね?」
「う~ん、多分、今プリストン王国にお客様で来ているパタークの王子様がいるんだけど、その人に信じさせたかったのかも?」
「へ~」

 私は舞台衣装のアバヤから、普段用のアバヤに着替えていた。

「でもさ、あれで、おかしな事にならなきゃいいけどさぁ」
「おかしな事……って?」

 私は脱いだ衣装を空間収納に放り込んだ。
私とレンの会話を聞いていたリンが言った。

「欲のある連中が姫様を狙わないかって事。今回の会場は平民の金持ちも結構来てたからね。姫様は持ってても、売っても金になる。その空間収納なんて商人だったら誘拐しても手に入れたいと思うよ?」
「怖い事言わないでよ~リン!」
「まぁ、それだけじゃないわ? 神の力を手に入れようとする、他国の輩も湧くでしょうね?」

 ランもリンの発言を肯定した。そして他の二人もうんうんと頷く。
神の力って……私が出来るのは、着衣の呪文と杯を出す呪文位だよ?
他の人から見ると全然役に立たないと思うんだけどなぁ……。
私は着替えが終わって、皆と挨拶してから先に控え室を出た。出たところでアーリンが壁に寄っ掛かって立っていたのを見つけた。

「あら? アーリン?」
「お迎えに来ましたよ」
「どうして?」
「公爵様が迎えに行けとおっしゃったので」

 レイジェス様もCUTEのメンバーと同じ事を考えたのかな? 

「そう」

 私はアーリンが出した手を握って手を繋いだままボックス席に戻った。
途中の細い道でいきなり他のボックス席に引っ張り込まれた。

「姫様!?」

 細い通路と狭いボックス席、相手は三人組の男だった。その一人が私の首にナイフを当てて、アーリンに下がれと叫んでいる。その男の叫ぶ声が響いたのかレイジェス様とセバス、ユリウス様、オリオンまで来てしまった。
私は男に口を塞がれてナイフを首に当てられている。怖いけど、割りと冷静かなと自分で思った。
レイジェス様がいる、絶対助けてくれる、そう信じているから。
この男達三人が見るからに下っ端なせいかレイジェス様が言った。

「お前達、誰に頼まれた?」
「……」

 男二人が盾になって私を抱えている男を逃がさせようとする。

「早く行け!」
「おぅ!」

 私を抱えた男が逃げ出そうとして三歩程駆け出した所、その両脚は爆発して膝から下が無くなった。爆発した余波で血が飛び散って私のアバヤに降った。
私の目を隠す細かい網目にもその血飛沫は掛かって、視界が赤く染まった。
男はぱたりと倒れ私はその男を背にクッションにした様に倒れた。

「レイジェス、殺すなよ?」

 ユリウス様が足を爆発された男の足に、すかさずヒールした。
回復魔法は欠損した部分まで直せない。その男の傷は無くなったが両脚も無くなった。膝の傷口が丸く修復されて、膝から下が無かった。

「その男の様になりたくなかったら……お前達の雇い主を言え」

 レイジェス様が冷淡に言う。
私は腰が抜けて立てなくなっていた。レイジェス様は男達を睨みながら私に近づいて、血だらけの私を抱き上げた。
その瞬間男達二人はレイジェス様の脇を通って逃げ出そうとした、が細い通路でレイジェス様が足で引っ掛けて二人共転ばせた。
片方の男の腕を爆発させた。もう一人の男の顔に血飛沫が飛び散る。

「うあああああっ!」

 腕をを爆発で無くした男がその腕を押さえながら呻く。
もう一人の男が叫んだ。

「や、やめてくれ! 俺達は頼まれただけだ! 言う、全て白状するから!」

 レイジェス様は眉間に深い皺を寄せた。
舞台ではもう次の催し物である、演劇が始まっていた。
アーリンとセバスは、その三人の男達をレイジェス様が空間収納から出した縄で縛った。取りあえずここは狭すぎるので、ロビーに行こうと言う事になり、ユリウス様が腕を怪我した男にヒールした。
皆でロビーに移動した。
演劇が始まっているのでロビーに人はいない。

「さぁ、白状してもらいましょうか? 誰に命令されたんです?」

 セバスがそう言うと、白状すると言った男が喋り出した。

「名前は分からねぇ、三十台前半位の男だ。50万ギル貰ってその子を攫って来いと言われた」

 その男は私を指差した。
ユリウス様が血だらけの私が気になったのか、レイジェス様ごと私をアクアウォッシュした。
セバスが続けて尋問する。

「まだ雇い主を庇おうとしてるのですか? 庇えばもっと罪が重くなりますよ?」
「違う! 本当に知らねぇんだ! ただ、身なりが良くって、ああ、そうだ! 初めてあった時に神殿の話しをしていた」
「神殿の話し……?」

 レイジェス様が眉を顰めた。

「ああ、【あんなのがいたら神殿の権威が落ちる】とかなんとか言ってた気がする」
「それは確かか?」

 セバスがあとの二人の男にも確認した。

「俺は最初の時には会ってないから、わからねぇ」
「俺は会った。そいつの言う通りそんな事を言ってた気がする。神殿なんて俺達平民には関係無い場所だから、そん時は気にしなかった」
「ふむ……」

 レイジェス様がそう言うと、セバスとユリウス様と三人で顔を見合わせていた。

「この男達、どうします? このまま番所に連れて行きますか?」

 三人の男達をぐるぐるに縛り付けていた縄をアーリンが持って、ビシビシとその縄で床を叩きつけていた。
その時、三人の男達が苦しみ始めた。三人一緒に纏めて縛られているので腕を動かせないせいか体全体を跳ねさせる様に暴れだした。

「うぁあああああ!」
「あががががあああぁっ!」
「ひぃいいいっ!」

 熱した鉄板に乗っかった虫けらの様に暴れまくり、そして静かになってぱたりと倒れた男達の口からは、赤紫色の泡が垂れていた。

「この泡の色……キラスだな」

 オリオンが他の男も調べて言った。
それを聞いてユリウス様が腕を組んで考え出した。

「キラスって?」

 私が聞くとセバスが答えてくれた。

「遅効性の猛毒です」

 遅効性……って事は今殺されたわけじゃなくて、前もって毒を飲まされていたって事……? 神殿の話が出たって事は……神殿関係者が犯人……?

「キラスは毒を飲んでから効果が出るのは20時間位だ。今が夕の4の刻という時間を考えると、こいつらは昨夜に毒を盛られたと考えるのが妥当だな」

 レイジェス様がそう言うとユリウス様に言った。

「まさか、お前じゃないよな? ユリウス」

 ユリウス様はフッと笑って言った。

「私ならもっと狡猾にやる」
「……それもそうだな」

 レイジェス様が暫く考え込んでいるとユリウス様が言った。

「こいつらは私がゲートで番所に連れて行こう。レイジェス、お前は屋敷に戻ったら諜報の者達を使う予定だろう?」
「ああ、そのつもりでいたが……お前に死んだ罪人達を任せるのはどうかと考えていた所だ」
「別に構わん、ゲートを使えばすぐだ。番所に預けたら私もお前の屋敷に寄りたい、いいか?」
「分かった」

 ユリウス様はアーリンから縄を預かってそのままゲートで番所に消えた。
私達もレイジェス様のゲートでお屋敷に戻った。
レイジェス様はお屋敷に着くとセバスに即通信でルイスとルイスの弟、そしてアランを呼ばせた。
ローレンスが入れたトウミ紅茶をまったりと飲んでいると、食堂の空間が揺らいでゲートが現れた。
その中からユリウス様が現れると、私の左斜めに座った。
毎回その場所に座るので、そこは何だかユリウス様の席になった様な気がした。
セバスが通信を終えて戻ってくるとユリウス様がいるのに気付いてトウミ紅茶を出した。

「旦那様も今はブラウンティを飲みませんので、私が面倒なので貴方もトウミ紅茶ですからね」

 とユリウス様に無愛想に言っていた。
ユリウス様はセバスの失礼な物言いに苦い顔をしていたけれど、トウミ紅茶を飲んでいた。

「最初は飲みなれていなくて、甘ったるく感じたが、慣れると美味いな」
「そうでしょ? わたくしも大好きです」

 私がにっこり笑うとユリウス様は少し戸惑った顔をした。

「で、何か分かったのか?」
「諜報の者を呼んだが、そんなにすぐには来れない、彼らはお前の様にゲートが使えるわけじゃないんだ」
「そうか……オリオン、こちらの【つての者】の情報も集めてくれ、それと調査もな」
「はっ」

 オリオンは食堂から出て行った。
暫くするとアランが来て、そのあとルイス兄弟が来た。
みんなテーブルの席に着いた。ユリウス様はテーブルの一辺を一人で陣取っているけど反対側にはアランとルイス兄弟の三人が座った。

「大まかな話しはセバスに聞いた。けど、姫様関係の怪しい話は聞いていないな……別の話しなら出たには出たが……」

 アランがそう言うと、レイジェス様が聞いた。

「別の話しとは?」
「元々神殿は汚ねぇ事をやってるって、噂の耐えねぇ場所さ、汚職とか、人身売買とかな」

 私は驚いた。神聖な場所である神殿が人身売買?

「人身売買もそうですが……私が聞いた噂話しでは神殿に勤める幼い巫女見習いや神官見習いの者達に上層部が性的虐待をしていると言うのも聞きましたね」

 ルイスが渋い顔で言った。

「それって大変な事じゃないですか!」

 私は声を荒げて言った。
神殿長に襲われた事を思い出した。あの男ははっきり言って幼女趣味の変態だったと思う。しかも私を襲う時も準備が良くて手馴れていた感じがした。
護衛もいない普通の子なら……簡単に餌食になってしまうんじゃないかと怖くなった。リリーだってあんな酷い怪我状態にされたんだから……。

「ただ、どれも噂話で証拠が無いんですよ。神殿の中は一般人が入り込めない規則ですからね、入って調べるって事が出来ないから……」

 ルイスが言葉を詰まらせる。

「じゃあ、そんな物騒な噂はどこから出てきたの? 誰か見聞きした人が言ってるんですよね?」

 私が質問するとアランが答えた。

「出入りの業者や、神殿から逃げ出した奴らが言い出した。けど、そいつらは皆表に出ると喋ったあと殺されている。もちろん跡が付く様な物は何一つ残っちゃいない」

 その場がしーんとなった。

「アランはそのまま神殿内部について情報を得る様に動け、ルイスは今日あの男達が入っていたボックス席の権利を誰が買ったか調べろ」
「「はっ」」

 二人はそのまま食堂を出て行った。

「セドリック、今からアリアに付いて護衛しろ」
「承知しました」

 セドリックは私の後ろに歩み寄り、アーリンと握手した。
そして二人で私の背後に立つ。

「しばらく守りを強化して、様子を見るしか無いと言う事か」

 ユリウス様が渋い顔をして言った言葉にレイジェス様が頷いた。

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